12-G もうひとつのワイバーン作戦
少し時は戻る。
魔王軍四天王シェパナの計画が始まる前よりも、もっと前。
始まりは一通の手紙。
パン屋ちゃんことベルーニャが自身のパン屋を全国展開して欲しいと、クラリムにスパム式神頼みとばかりに大量の手紙を送り付けた、このタイミング。
リンドー宛にも一通の手紙が渡されていた。
送り主は蛇腕の新魔王シエラ。魔王面接にて誕生した五人の新魔王の一人からのものだった。
『至急、相談したい事、有り。魔王城まで来られたし』
この事について相談したいという事だったので、パン屋を手伝うのは建前として、クラリムに同行したリンドーは空き時間を使い、蛇腕の魔王シエラと魔王側近ベシュッドと接触した。
「前魔王を慕い各地で暴れていた魔王軍四天王の一人が、前魔王の訃報を耳にして帰ってくるという知らせを受けたのよ」
「前魔王様を倒したのがクラリム様やリンドー殿と知ったならば、恐らく敵討ちに出向くこととなるでしょう。早く、ウルメラの街を離れなされ、あそこはよく目立つ。命惜しくば、もっと秘境へ逃げなされ」
「わかった。検討する」
忠告を受けたリンドーは検討だけし、パン屋経営を手伝った。
そして街に帰ったリンドーはワイバーンの襲来を受け、これが噂の四天王によるものだと瞬時に悟った。
また、クラリムが四天王の容姿と近しい人物とワイバーンの巣で遭遇したことを聞き、ワイバーンを使った何かしらの計画があると判断した。
という事があり、その後シェパナと出会ったリンドーだったが、何一つシェパナを信用する事なく、密かにワイバーン妨害計画を練っていたのだった。
◇
リンドーの簡単な講義、終了。
私は淡々と話すリンドーの言葉を耳にしながら、急にアンクーラが暴れ出さないか見張っていた。
せっかく忠告を受けたのに、全く言われた通りにしないのは流石というかなんというか。
「ま、私が知ったのは今さっきだけどねー。全く、事前に相談くらいしておきなさいよね。急にオレンジの山を作らされる、こっちの身にもなりなさい!」
「クラリムに言ったら此方の作戦がバレるだろう。そうなれば、シェパナの行動が予測出来なくなる」
「……そんなに信用ないの私? ほら、天界からの付き合いだし、もうちょっと信頼してくれても」
「喜怒哀楽を顔の奥に閉じ込めてから出直せ」
おかしい。何方かと言えばクールビューティーと言われるはずなのに……いや、もうこれは感受性豊かを長所として売りに出すか。
「それで、このオレンジの山、でもこんな好物くらいでワイバーンがワタシの魔法を無視するなんて、あり得ない!」
「魔法……無論、無効化しておいた」
サラッと言うリンドー。
まるで、そうめんを湯掻きましたと言わんばかりに。
「この世界の魔法はいくつかの分類に別れる。詠唱型、設置型等、魔法発動までに何かしらの準備が必要なものであった。そしてお前の魔法。恐らく特定条件のモンスターを使役する魔法だろうが」
「以前街を襲おうとしたワイバーンの死体を調べた所、特殊な魔法陣を発見した。そこから、お前の魔法が対象に魔法陣を直接対象に描き、尚且つ呪文で活性化させるものだと特定した」
「今回行おうとしたのは、早熟、孵化、暴走の三種類。その内、暴走の魔法陣だけを丁寧に拭き取っただけだ。魔法陣の描き方はいくつかあるだろうが、恐らく、呪文による……」
「長い長い。なんで伏線回収はサラッとする癖に、魔法の解説は長くするのよ。とりあえず、貴方の計画は破綻したのよ。観念なさい!」
「そんな普通の落書きを消すのとは違うのよ。書いた後も透明になって、他の魔法陣と重なるように絡み合う。砂漠から落とした涙を探し出して抽出するようなもの……普通の魔法使いに出来るはずがない!」
まぁ、そこは超魔法世界アゼアベングの住人だからと声に出そうかと思ったが、辞めた。
なんだよ、超魔法世界アゼアベングって、私が教えて欲しいくらいだわ。
「……いいえ。何にしても、ワタシの計画が狂った事は認めざるを得ないようね。でも」
「それで勝ったつもり? まだアナタは大事な事を見落としているみたいね。ワタシの手のひらにはねぇ、ウルメラの街長が乗ってるの。ワタシの命令一つでどうとでもなるって、ご存知かしら?」
「えっ、そうなの!」
「あはははははは。残念だったわね。ワタシの計画は、メインプラン以外にもサブプランが存在するの。愚かなアナタ達は、一つを防いで満足したのでしょうが、それだけじゃあ足りない。何も解決はせず、ワタシはワタシの目的を達成するの」
一転攻勢とばかりに高笑いを始めるシェパナ。
「そんな……街長ッッッ!」
街長、街長、マチオサ……って、誰?
どうしよう、変に驚いたものの、そのヒトの顔も名前も知らないから、事の大変さがイマイチ、ピンと来ない。
そりゃあ、長って言うぐらいだから偉いヒトなんだろうけど、身近じゃないから人質にされてもなぁ、という気分である。
王様が人質だー! って言われたらまだしも、街長だし。
っていうか、ウルメラにそういうヒトいたんだ。
「確かに。そちらに関しては一つ贈り物をした程度で、大した事はしていない。オマエの言う通り、ピンチだったのだろう」
リンドーが話し始めた瞬間、シェパナの顔が強張る。
嫌な予感を感じたのか、シェパナはリンドーを凝視し、言葉の先を待つ。
「が、そもそも俺がどうこうしなくても、この街の治安維持機関は優秀だと言う事だ」




