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変な魔法使い、異世界に行く  作者: 八艘宗八
第2章 果汁100%! パン屋と四天王とワイバーン~至高の一品を求めて~編
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12-F ワイバーン親子サンド作戦

「お天気燦々! 遂に今日だよ! シェパナちゃん!」

「そんなに、はしゃいでたら、本番までに疲れて失敗しますよ、店長」


「そっか、そうだよね。公開調理なんだもんね、ミスしないように、だね! あー、気のせいか、なんか良い匂いもしてきたし、お腹も空いてきた〜。ううん、ダメ、ダメ。集中集中」


 街で一番大きな広場でベルーニャは己の顔を叩き、根性を入れ直す。


 その広場に設置されたステージの上にはフライパン等の調理器具が並び、その脇、カーテンで見えなくしている場所には木のように大きな卵があった。


 そう、これから行われるのはワイバーンサンドの公開生調理。

 シェパナがアイデアを出しリンドーが企画した、ベルーニャのパン屋の再オープンを記念したPRイベント。


 サンドイッチの研究も、卵の調達も全て上手く行っていた。

 残すはこのイベント。

 それが始まるのはもう間も無くで、ベルーニャとシェパナは最後の打ち合わせをしていたのだった。


「そういえば、リンドー様と、赤と白のヒトは、どうされたのかしら? もうそろそろ始まりますよね」

「あれ? ホントだ。いないね……さっきまで、一緒にビラ配りしてたのに。遠くまで行っちゃったのかな。間に合うかな?」


 勿論、リンドーとクラリムも計画の一員として準備に励んでいたが、広場のどこにもその姿は無かった。


「もし間に合わなくても、神使様が手配してくれたヒト達もいるから人手については大丈夫だよ。本当は近くで見守っていて欲しかったけど、仕方ない! シェパナちゃん、一緒に頑張ろうね!」


「……えぇ」


 シェパナはどこか浮かない顔を見せていたので、大きな声で自分に言い聞かせるように励ますベルーニャ。


 シェパナは全く別の事考えていたのだが、ベルーニャには知る由もない事である。



 時間が流れ、『ワイバーンサンド公開調理』の予定時刻を迎えた。


 広場は『神の一皿』の材料であるアンクーラの卵を使ったサンドイッチを食べられるとあって街の住人が、ごった返していた。

 一部、騎士団員が動員される程の集まりで、イベントを手伝ってくれているヒト達は入れないヒトに整理券を配っていた。


 待ちきれないヒト達が暴徒と化す直前、緊張を隠し、ベルーニャはその大観衆の前に飛び出した。

 ベルーニャは予定通りに挨拶を済ませ、シェパナを呼び寄せる。


 シェパナは巨大な卵が乗った台車を押して舞台に現れる。

 それを見た観衆は広場を揺らす程、大きな歓声を上げた。


「それではこれから、ワイバーンサンドを作って行きたいと思います!」


 ベルーニャは歓声を鎮めるべく、声を張りあげる。

 うおぉぉぉぉぉ。

 その言葉で更に沸き立つ観衆達。


 まるでライブのように会場が一体となる中、シェパナは一人密かに卵に手を当て呪文を唱えた。


「終わりある命を解き放ち、我が意のままに踊り狂え」


 その呪文が大観声で掻き消えようとも、その呪文はしっかり卵へと刻まれる。


 ベルーニャが調理を始めるべく、卵をハンマーで割ろうとした、その時。


 卵は煌めき始め、


「ぎゃあああおおおおおおおーーん!」


 卵から新たな命が誕生した。


 ワイバーン・アンクーラ。

 険しい岩山に生息し、滅多に人前に姿を見せない。

 生まれながらの巨体は、餌を捕食し、天敵から身を守る為の武器。

 伝説にのみ語られる龍に匹敵するとされる為、騎士団の許可無き人物が巣に近づく事を法で禁ずる程。


 その顔が、翼が、尾が、全身が殻から姿を見せる。


「そんな、どうして?!」


 ベルーニャは焦り、シェパナは計画通りとばかりに、ほくそ笑む。

 これが調理ショーの想定外とは知らない観客達は、驚きつつも歓声を上げる。


「さぁ、暴れなさい、アンクーラ。本能のままに、自分を喰らおうとしたもの達を、逆に食べちゃいなさい」


 シェパナの呟きは誰の耳にも入らない。

 見つめる先は産声を上げたばかりのアンクーラ。

 見通す未来は、街を飲み込む惨劇。


「リンドーとクラリムがいないのは想定外だったけど、関係ないわ。全部全部、擦り付けて、社会的にも肉体的にも抹殺してあげるわ」


 卵を用意したのはシェパナだが、アンクーラの卵を使おうと言ったのはクラリムで。

 ワイバーンサンドの生調理を提案したのもシェパナだが、その演出にゴーサインを出したのはリンドー。

 そして総責任はパン屋の店長であるベルーニャ。


 つまり、これから起こる惨劇は三人の楽観的な計画が生んだもの。

 ベルーニャのパン屋は永久追放、クラリムとリンドーは社会的に抹殺され、魔王関連のテロだと疑われ幽閉や死刑もあり得る。


 これが、シェパナの計画だった。


「魔王様、見ていて下さい。これがアナタを守れなかった、せめてもの手向け。四天王の端くれとして必ずや仇を……………………………………………………………………………………え?」


 だったのだが、想像が現実になることは無かった。


「あー、良かった〜。飛んでいっちゃったね。シェパナちゃん。予備の卵取ってきてくれる?」


 空を駆けるアンクーラ。

 目の前の観衆(エサ)に目もくれず、鼻を鳴らすと一直線に街の外へと羽ばたいた。


 ベルーニャの指示に従い、舞台袖へと捌けるシェパナ。

 自身の爪を噛みながら、想定外の事態を思案する。


「な、ぜ……おかしい、おかしい、おかしい。アンクーラは元来、凶暴。それに発奮させる魔法だって仕込んだのに。魔法が失敗した?」


 舞台裏には他にも用意した予備の卵があった。

 その中から、シェパナは最も凶暴なアンクーラに成長しそうな卵を選び取る。


「まぁ、いいわ。こっちの卵も厳選した孵化直前の卵。今度こそ」


 念入りに魔法を掛け、台車で再度舞台へと卵を運んだ。


 が、しかし。


「……嘘」

「えー! またー! お客さん、ショーかなんかだと思って喜んでくれてるからいいけど、そんな何回もこんなハプニング起こらないよー!」


 先程と全く同じようにアンクーラは鼻を鳴らし街の外へと羽ばたいた。


 計画が軋む音がシェパナの耳に響く。

 動揺するシェパナと、緊張を小さな怒りに変えるベルーニャ。


 ベルーニャはふぅと少し息を吐き、顔を叩く。


「逆に運が良いって奴だね。じゃあ今度は私が取ってくるから、シェパナちゃんはここで待って……シェパナちゃん! シェパナちゃん、どこ行くの!」


「あり得ない。何かが、いえ、何もかもがおかしい」


 ベルーニャの静止を振り切り、舞台から飛び降りるシェパナは、空を駆けるアンクーラから視線を離さず後を追った。


 街の外。

 アンクーラが降り立った、場所にシェパナは辿り着いた。


 そこにいたのは、さっきの最初のも含めた二匹のアンクーラと、


「……来たか」

「うわー、本当に来た。アンタ、実は未来予知の能力を誰かに貰ったりしてない? 予定通り過ぎて怖いんですけど」

「そんなものがあれば、俺じゃなくてクラリムに搭載出来るよう要請する。俺よりかは必要だろう」

「それってどういう意味よ! もっと先を考えて行動しろってこと?」

「…………」

「当たりなんかい!」


 赤と白を独占したような服装の女と、濃紺ローブの男。

 その二人の側には、大量のオレンジが山のように積まれており、それをアンクーラ達は無我夢中に喰らっていた。


「神クラリム、神使リンドー。どうやらアナタ達がワタシの計画の邪魔をしていたみたいね」

「どうして? 分かったの? ワタシはちゃんと一緒に手伝ってたじゃない。怪しまれるような事はしてなかったはず……」

「まさか、ベルーニャからワタシが前魔王軍の四天王だと聞いて? 魔族だから、四天王だから、いっときも気を許さないでいたと? そんな『かもしれない』をずっと警戒して? そんな無茶苦茶な!」


「あぁ、大丈夫大丈夫、コイツ変だけど、無駄な事に神経使うような奴じゃないから。」

「うーんとね、もっと単純な話で……知ってたのよ。貴方が何か企んでるってことを最初からね」


「最初から?」

「そうだ。お前と出会う前から、お前が前魔王の仇を取ろうとしている情報を持っていた。だから全てを先手で予防出来た、それだけの事だ」


 困惑を隠しきれないシェパナに、ゆっくりとリンドーは事のあらましを語り始めた。


 ワイバーン親子サンド作戦とは別のワイバーン作戦を。

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