12-B ウルメラ組織長会議
ウルメラの中心部にある、とある建物の会議室。
「では、緊急ウルメラ組織長会議を始めます」
下半分だけ縁がある赤いメガネをクイっと上げ、立ち姿が綺麗な出来る感マシマシの女性は椅子を引き立ち上がるとそう発言し、辺りを見渡した。
細長い円卓に座っているのは八人。
ここにある十席(二名欠員)は、それぞれ街長やギルドマスター、商工会長などといった、ウルメラを統治する上で必要不可欠な存在が集まっていた。
そう、つまり、このウルメラを動かしていると言っても過言ではない者達による集まりである。
「街長秘書である私ドロテアが司会進行を務めさせていただきます。街長は……所要の為、少々遅れますので後ほど参加されとのことです。では、騎士団長、現状の報告を」
「魔王軍はウルメラ南方、街にも流れている川の下流付近に野営地を設営してやがる。魔王軍の攻撃に備え、『白き星を望む鳥』の半数以上を南に集めてるが、陽動の可能性もあるからなァ。残りを各方角に分散させてる。まぁ、魔王軍が突然動き出したとしても、野営地から街まで、ある程度の距離はあるから、どのような対処も出来るぜ」
その中の一人である、騎士団長ストーナは自分の部下がやらかしたであろう事態に申し訳なく思いつつも、毅然と腰を下ろしていた。
「妙だな。この街に接近するまで、進軍を悟らせない動きをしているものだから、そのまま急襲し、一気に街を攻め落とすものだと思ったが、布陣する訳でもなく、野営地を作り始めるとは」
「味方への被害を抑える為、もしくは確実な勝利を手にする為、夜を待っているのやもしれませんな」
「こちらから打って出るのはいかがですかな? 敵も百程度であれば、優秀な騎士団である貴殿らと『果て無き大釜』の冒険者の助けを持ってすれば撃退は容易かと思えますが」
反応したのは商工会長や学校長など非戦闘の長。
あれやこれを妄想し、騒ぎ始めそうになるのを赤メガネの女性が止める。
「騎士団長。勝てますか?」
「王から命ぜられて、この街を守っている以上、敗北はねぇが……真っ向から戦ったとなると、ウチの連中はもちろん、街の被害は甚大なものになるだろうなァ」
「それはギルドからの冒険者を動員しても同じということでしょうか?」
「あァ」
「おいおい、ルクメリア『最強の盾』ヴァルデエランデ家の者として、そうも弱気では王に示しがつかないのではないかね」
恰幅のある男の侮蔑の籠った瞳に対するように、ストーナは鋭い視線を向ける。
「ハッ、『最強の盾』ねェ」
「何を笑う! ウルメラを王から任されているのは、ひとえに貴様の家柄あっての物だろう。だからこそ、それに見合った働きをだな……」
「——言いたい事は分かるがァ、今回ばかりはウチのお母上でも厳しいと思ってよオ。だってそうだろう? 魔王軍の野営地に見えた旗は三つの中の一つに『魔練剛腕』の旗が見えたんだからなァ」
煽るように放たれたストーナの言葉は会議室にいる面々の顔を青く変えた。
「『魔練剛腕』だと……あの様々な戦場に現れては、敵味方問わず蹂躙する暴風の如き男のことか! 何故、そのような者が、戦争相手ではなく、この街にやってくるのだ!」
「正に暴風、天災の心を推し量るのは無理というもの。『魔練剛腕』が相手であり、その者と並び立つ者が残り二つもあるというなら、騎士団長殿が臆するのも理解出来ます」
「…………降伏するしかありますまいな。遠い昔、魔王を倒した勇者でも『魔練剛腕』には敵わなかったという。被害を最大限抑えるには、それしか」
「何を言うのだ! この街を放棄すれば、王都への足がかりとなる。そのようなことをすれば、この街だけではなく、ルクメリアという国が滅ぶのだぞ」
「しかし!」
予期せぬ事態に騒めきを大きくさせる組織長達。
騎士団長も、赤メガネの女性も、その場の荒れようをただ静観するしかなかった。
このままでは会議にもならないので、解散しようとした時、
その男は現れた。
「へぇいへぇいへぇい、皆んな元気? お待たせ〜、ちょっとパウンドケーキ焼くの手こずっちゃって。十等分くらいに切り分けてるから、皆んな後で食べてね。えーと、イチゴ、煮干し、三角獣、シュークリーム、ご、ご、胡麻団子! この数え方面倒臭いなやめよ、まっ、だいたい集まってるぽいし、はじめよっか」
星型のサングラス、ド派手な赤や青の花を咲かせた服。
一言で表すなら軽い男。
「……始まってます。街長」
「マジかよ。街長放置して、会議始めちゃってんのかよ。で、今日って何の集まりだっけ? 街長の不信任決議? 二週間前にやったばっかじゃーん。ボクの圧倒的な勝利で終わった奴。えっ、違う?」
そう、この男こそ、ウルメラの最高責任者、街長であった。
「魔王軍がウルメラの近くに来ているという問題の対策会議です」
「ほへー、ナニその激ヤバ案件……ウルメラ史上最大の危機じゃん。ブキヤがダチのミノタウロスを街に連れてきた以来だよ。最近だと、ストっちゃんの家をぶっ壊したモンスターくらい?」
「比べものにならないかと」
「あそ、想像出来ないくらいヤバヤバってわけね」
「よし腹括るしかないね。よし、ここはボクが出るしかないか……ごめん、言ってみたかっただけ。強そうに思えるっしょ」
「攻撃か降伏か、どちらが良いと思います?」
星型のサングラスの街長を手慣れた様に、全部相手せず必要な言葉だけ淡々と投げる赤メガネの女性。
「うーん、でもボクの街長として、全面降伏は出来ないんだよね〜。まだ攻撃して来ないってことは交渉の余地あり?」
「魔王軍の言い分としてはウルメラでパン屋を開く為に、街に入るのを許可して欲しいということでして……十中八九嘘だとは思いますが」
赤メガネの女性は配られていた資料を捲りながら、該当箇所を街長に見せようとしたが、街長は一切気にする事なく言葉を並べた。
「ならさ、この前、ワイバーンを木っ端微塵にしたっていう変な魔法使いに使者になってもらうってのはどう? いやぁ、あの光、凄かったよね。ボクあの時、屋根の上で日光浴してたんだけど、雷でも落ちたのかって思ってビックリして、屋根から落ちちゃったよ」
「は? リンドーだとォ?」
突然挙げられた人物に驚くストーナ。
「そそ、そんな名前のヒト。この前、新しくギルド作りたいってボクの所に来て少し話したけど、面白いね彼。そういえば、今日の会議には来てないの? 彼もギルドマスターなのに」
「はい?」
「えっ、知らない? 遅れてるなぁ〜」
「……この街に新しいギルドが出来たことすら知りませんでしたので。宜しければ経緯をお聞かせいただけませんか?」
「いや、この前ね、ボクがテキトーにハンコ押してたんだ。そしたら彼、急に現れて紙渡してきたから、そのままハンコ押したんだよ。そしたら、何があっても全責任はお前が取れって言ってきて……ギルド出来てたみたい」
「……至急、判子を押してしまった書類を探す必要がありそうですね」
「あそ。まぁ、今度から呼んでね。彼の分のパウンドケーキも焼くことにするから」
赤メガネの女性は深い溜め息で返答した。
街長はそのまま視線をスライドして、ギルド設立話に頭を抱えているストーナに言葉を掛けた。
「どうかな。ストっちゃん。彼、助けてくれるかな?」
「……アイツが自分から使者になるとは思えねぇが」
「ストっちゃんの旦那なんでしょ? ね、お願い! 切り札は切らないと切り札には、なりえないからさ」
ヘラヘラした街長が発した一単語で顔を真っ赤に染めたストーナは頭をかくかくと振り下ろした。
「……旦那。アタシの旦那」
「それじゃ、そういうことで、よろしくぅ!」
膠着した会議は一人の男によって、幕を閉じたのだった。




