12-A 『前魔王軍四天王 シェパナ』 プロローグ
第12話 『支店』『前魔王軍四天王シェパナ』
<A.a>プロローグ
朝、といってももう昼前だろうか。時刻を知らせる鐘はまだ鳴っていないとも、仕事に従事するヒト達が腹の空きようと、集中力の低下からソワソワしてくる時間帯。
ウルメラの平和を守る騎士団『白き星を望む鳥』、その者達を束ねる騎士団長、ストーナ。
彼女は荒々しい金髪を掻き乱しながら、仕事に追われていた。
コンコンコン。
騎士団長の執務室の扉が3度の大きな音。
「入れ」
「失礼するっす」
バンダナを頭に巻いた騎士服の男、ラクロット。
ストーナは声を聞き、誰かを判断しつつ書類にペンを走らせる。
ラクロットは部屋を静かに進み、ストーナの目線を遮るように数枚の紙の束を差し出した。
「なんだ」
「すっかり忘れてたんすけど、団長がお留守の間にやっておいた仕事の報告書っす」
「休んでた? いつ……あァ、妖精ん時か。もうそこそこ経ってるぞ……」
休暇を取らざるを得なかった出来事を思い出しながら、ストーナはその紙の束を受け取り、パラパラと捲る。
「ん? なんで、営業許可申請がウチに来てんだ。こんなの役所宛ての仕事だろォが」
「この申請を出したのがウチの街の住人じゃなくて、他国のヒトだったんす」
「外国だァ? ますます、ウチ関係ねぇだろ」
「いや、それが、そのー、魔族だったんで、身辺調査の依頼が来てたんす」
平和な街ウルメラはルクメリア永世王国という争いの無い平和な世界を理想にする国家の一都市である。
人種差別はなく、どんなヒトも受け入れる方針ではあるが、人族の王を戴いていることもあり、人族の方が人口の割合は大きい。というか、もはやほとんど人族で、魔族は数える程しかいない。
ということなので、一部の人族と魔族が争い合っている現状、魔族がこの街へ入るということになれば、身辺調査が必要になるのだった。
ただ、目を通した書類の一番下には『承認』の文字がデカデカと書かれていた。
「で、ちゃんと調べて大丈夫だったから許可出したんだろうな」
「もちろんっす」
ラクロットは拳を突き出しながら明るく答えた。
「例えば?」
「噛めばパリッと中はジューシーなソーセージを包み込む羽毛のようにフワフワのパンで挟んだ、ホットドッグがオススメらしいっす」
「……なんの話だァ?」
「ああっ、団長、デニッシュお好きですもんね。あったかなぁー。もうすぐオープンするらしいんで気になるなら行ってみると良いっす」
「……そういうこと聞いてんじゃねぇよ。ソイツがこの街に危険を及ぼすかどうかの調査をしろってことだろうがァ。テキトーに調査して、街に招いた結果、敵兵だったらどうするつもりなんだ、あァ?」
「はぁ、ただのパン屋が敵兵っすか……魔王がパン屋に変装している訳でもあるまいし、そんなに心配しなくても大丈夫っすよ」
呆れたように首を傾げるラクロット。
ストーナも何事も疑って掛かるぐらいの心意気を持てと伝えたいだけなのだが、この楽観的に物事に当たる部下には何一つ伝わっていないと感じていた。
もう過去のことなので、これ以上言っても仕方ないなと折り合いを付け、次の資料に目を移そうとした時だった。
「急報、急報、失礼します!」
ドタバタと大きな足音を立て、一人の騎士がノックもせずに入ってきた。
ストーナは、叱り相手が増えたと思い声を荒げようとしたのだが、その騎士の鬼気迫った表情に言葉を飲み込んだ。
「なんだァ」
「魔王軍が、魔王軍が現れました!」
「なん、だと。それは本当なのか!」
「はい、目視で確認出来ただけでも武装した軍隊がいくつか見受けられました」
「何故、他の街からの報告が入っていない? いつもなら、ウルメラに接近する前に情報の一つでも入るだろうがァ!」
「それが……どうやらウルメラの街から進行許可を得ていると証書を掲げていたらしく」
「証書? なんでそんなもんが魔王軍の手に……」
ストーナは言葉を出しながらも、思案する。
そして普通なら見つかるはずのない答えを得た。
点と点が繋がるとは正にこういうこと。
恐らく、いや十中八九この状況を招いた男の名をストーナは叫ぶ。
「ラクロットぉぉぉぉ!」
名を呼ばれたバンダナの騎士は脱兎の如く部屋から飛び出すのであった。




