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変な魔法使い、異世界に行く  作者: 八艘宗八
第2章 果汁100%! パン屋と四天王とワイバーン~至高の一品を求めて~編
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11-D 女将さんの登山法

 更に歩くこと数分、岩山の麓に辿り着く。

 遠目で見ていた通り、見上げるほどの絶壁。


「この世界でロッククライミングが流行ったら、混雑しそう」


 ここを直接登る訳にもいかないので、ぐるっと回って楽な山道を探さなければならない。

 さっきチラッとあったのは急勾配だったので、なし。


 これが理想というか当たり前、山を登るのだから、登りやすい道を探すのは常道。

 なのだが、何故、巨大フライパンと大きな鞄を背負う大柄の女性こと女将さんは、岩壁の前で直立して動こうともしないのだろうか。


「よし、行くとするかね」


 そう呟いたアイギスは二本の熊手を腰のポシェットから取り出した。


 熊手とは指のように五本の金属で出来た爪で構成された、潮干狩りで砂浜から貝を掘り出す道具……なのだが。


「ふんっ、ふんっ、ふんっ!」


 女将さんの両手に握られた熊手は右、左、右、左、と交互に岩壁を刺し抜き、女将さんの肉体を上昇させ始めた。


「ちょっと待ったぁぁぁぁ!」

「ん? どうしたんだい? あぁ、そうだったそうだった。ほら、コレがアンタの分さ。ちゃんと持って来たのに渡すのを忘れていたよ」


 上空から落ちてくる2セットの熊手。

 私はそれを両手で構え、壁へと振るった。


 カツーン。

 金属をハンマーで叩いたような心地よい音が響いた。


「熊手は! ロッククライミングの道具じゃないし! そもそも、普通は山登りって言ったら、ロッククライミングにならないし! あと、普通に刺さない!」


 ズザザザーと、女将さんは壁を滑るように降りると、自分の頭を撫でながら困った顔を浮かべた。


「一番安全で近道なのは、これなんだけどねぇ」

「そうだとしても、できるかぁ! 私がこの山登り切る頃には、ワイバーンも絶滅してるわ!」


 戦士からロッククライマーに転職するバッチみたいのがあるならまだしも、今の身体能力的に根本的な肉体改造が必要になることだろう。


「そう言ったって、ここの岩山は足場が不安定だから山道を歩くとなると、滑って体に岩が刺さったり、転んで落下死の可能性もあるんだよ」

「それはそうかもだけど、流石にコレは……」


 女将さんは私を抱えて登れるかとブツブツ、自分の筋肉に問いていたが、


「ん? ああ、そうだったそうだった。仕方ないねぇ、それならこれはどうだい?」

「なにこれ?」

「着てみたら分かるよ」


 渡されたのは白い布。

 着るということは服なのだろうが、服とは思えないくらい大きな布だった。


 とりあえず促されるままに上から被るように顔を突っ込む。

 明らかに顔や腕、足を通すところがあったので、そこに各部位を通す。

 すると、今度は女将さんが私を持ち上げ2、3度振り回し始めると、布の中に空気が入り込んで大きく膨らんだ。


「ぶへぇ、は、は……着ぐるみ?」


 影から察するに縦長の丸いシルエット。色は白。特徴はこれだけだが、コレだけですぐに分かる見た目だった。


「卵?」

「そう、これは卵収集専門家が愛用する偽装卵キットさ。キチンとアンクーラ専用のもんで、肌触りに耐刃耐熱耐衝撃を完備してる特注品らしくてね……常連さんに貰ったのは良かったんだけど、サイズが合わなくて今日の今日までお蔵入りしていた代物さ。いやぁ、言われた通り、念には念をと持ってきて良かったよ」


「……一応聞いておくけど、これでどうするの?」

「そりゃ、卵になりきるんだよ。巣から卵が落ちたと勘違いしたアンクーラに巣まで運んでもらう為にね!」


「……因みに他の方法は?」

「安心しな、ただ息を殺して卵になり切ったらいいだけだよ。簡単簡単」


 答えになっていない。


 ジト目で女将さんを見つめた後、すぐ脱ごうとしたのだが、脱ぎ方が分からない。

 着ぐるみを膨らませた際、どこかを結んだようだが、その結び目が腕の届く範囲にない。


 どうやら、この作戦は確定事項のようで反論も離脱も出来ない。


「女将さんはどうするの?」

「あたしは、飛んできたアンクーラの足に張り付くさ」


 どうやってと思ったが、先程岩壁を熊手で登ろうとしたヒトだ。

 十中八九、パワー、なのだろう。


 私は猛抗議をしたが、笑って誤魔化された。


 熊手のみでロッククライミングか、卵のナリキリか。

 究極の二択、どちらも出来ないが、私にはその選択権は無かった。


 そして、卵のなりきりレクチャーを受け、顔や手足を隠す為、うつ伏せで体を丸めた。


「これでワイバーン来るの?」

「大丈夫だよ、ちょっと待ってな」


 女将さんはそう言うと、鞄を開ける音と瓶の蓋を開ける音が鳴った。


「タダの卵じゃ、目も付けられないからねぇ。アイツらの好物を使うのさ」


 ドボドボと、背中を何か液体が流れる感触が不意に訪れた。


「な、何?!」

「奴らの好物は果汁たっぷりのオレンジなんだよ。特にある地域で取れるオレンジが特に効果的でね。最近大量に入荷出来たからね、その果汁で卵を香り付けをするのさ」


 垂れてきた液体が顔にも少し掛かる。

 ペロッと舐めると、確かにオレンジジュース。

 ただ、腕の可動域が狭すぎて顔を拭けないのが凄く気になる。


「奴らは餌だと思って寄ってくが、目の前にあるのは卵。不思議に思いつつも、巣から落ちたと思い込み、その卵を拾って巣に戻すって寸法さ。よし、じゃあ、わたしはそこの木に隠れてるから、そのままじっとしておくんだよ」


「……はい」


 卵。

 白くて丸い食べ物。焼いて良し、茹でて良し、調味料の様に混ぜても良し。

 様々な食べ方が出来る個人的最強材料の一角。

 私は黄身だけ取り出し、熱々のラーメンに入れるのが好きだ。天界にいた時も、昼食にインスタントのラーメンと卵を買って、半熟にして食べていた。


 ただ、まさか、神である私が異世界に来て卵になるとは思わなかった。


 蹲って十分、その時は訪れた。


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