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変な魔法使い、異世界に行く  作者: 八艘宗八
第2章 果汁100%! パン屋と四天王とワイバーン~至高の一品を求めて~編
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11-B 水だけぼったくるお店

 私の体は気付けば、デフォルメされた胃袋に盾を被せている看板の食堂の前で止まっていた。


「…………お腹空いた」


 理性は安くで泊まれる場所を探せと訴えるが、お腹が音を出して反論する。


「よし、腹が減っては戦は出来ぬってね。宿の事は後の私に任せて、ご飯食べよーと」


 本能が腹に味方し、理性を倒した。


「いらっしゃいませ〜。ようこそ『胃袋の盾』へ」


 私を出迎えたのは、膝丈のスカートが特徴的なウェイトレス姿の少女。耳を露出した、ふわっとした髪型は可愛い。

 ミークの頭を使って、試したいくらいだ。まぁ、帰ったら忘れてどうせやらないけど。


 案内された席に座る。


「お水とメニューになります! どうぞ、ごゆっくり〜」

「ありがとう」


 ふわ髪のウェイトレスちゃんはそう言って、他の席へと注文を取りに行った。


「さてと」


 メニューを広げる。

 1000マニエしかないので、ドリンクは飲めない。この水一杯をチビチビ飲むとして。

 大事なのはメインメニュー。

 いつ許して貰えるか分からない、この状況。

 神で不死身なので、餓死(最悪の事態)はないが、空腹は辛い。

 帰れるのが早くて明日の朝、遅ければ明後日と考えると出来るだけ腹持ちが良い物を選ばないといけない。


「この、蒸し挽肉で」


 安い、美味い、期間限定と言わんばかりにメニュー表でオススメされていた一品を頼む。

 300マニエなのに、ボリューム満点と言わんばかりのイラスト。

 絵はお世辞にも上手いとは言えないので、何かはさっぱりである。


 こうも、情報が少なすぎるのに選んでしまうのは期間限定という言葉に弱いからだろうか。


「お待たせしました〜」


 しばらくして、出て来たのは、肉の塊。

 ほぼほぼハンバーグ。掌はありそうな大きさ。豚か牛の挽肉(ミンチ)を蒸した、その隙間からはゴロゴロと玉ねぎのような物体が見られる。


「いただきます」


 渡されたスプーンを使い、口へと運ぶ。

 舌を融かすような肉汁が口の中で溢れた瞬間、味の既視感が脳を刺激した。


「あっ、シュウマイだ」


 見た目はハンバーグ、味はシュウマイ。皮が無いだけで、味わいがそのまま、グリーンピースや醤油が無くても美味しい。


「ちょっと、ヘビーね、コレ」


 見たまんまなのだが、肉の塊なので、結構食べるのがシンドい。

 最初は美味しかったのだが、半分過ぎると胃もたれが発生する。パンや米の炭水化物、せめてキャベツが欲しい。

 メニューに再度手を伸ばし、サラダを探すが、一番安くて800マニエ。


 ダメだ。破産する。

 なんで、肉より野菜の方が高い。


「水お代わり貰える?」

「100マニエになります」


 まさかの二杯目から有料。口の中の油を取り除きたいので、渋々注文。

 運ばれてきた水をクイっと呷ると、すぐに胃袋に消えていった。


 しかし、まだシュウマイ擬きは六割残っている。

 シュウマイ擬きの料金を差し引き、あと水が頼める回数6回(600マニエ)。

 残すのは流石に勿体無い。だけど水を買うのも、負けた気分になる。


 少し悩んだ結果、やっぱり頑張って食べることにした。

 近くを通りがかった、ふわ髪のウェイトレスちゃんに声を掛ける。


「水お代わり」

「はい! 200マニエになります!」

「……ちょっと待って、さっき100マニエって言ってなかった?」

「ウチ、1杯目を無料にする代わりに、よく飲むヒトからたくさん分捕る方針なんです」

「それは……なかなか面白い方針ね。因みに4杯目は?」

「400マニエです!」

「5杯目」

「800マニエです!」

「……6杯目」

「1600マニエです!」

「…………7」

「3200マニエです!」


「なるほど、前の二倍の料金設定なのね…………7杯目で、この店で一番高くなっちゃってるじゃない」

「さぁ? 女将さんが決めたんで私にはよく分かりません」


 ニコッと営業スマイルを浮かべる、ふわ髪ウェイトレスちゃん。


 どうしよう。このゲスい値段設計で水を頼んだら、二回しか水を頼めない。

 それで、この料理を完食するのは無理。


「あの大丈夫ですか?」


 私が水を頼まず黙ってしまったので、吐くとでも思われたのか、焦ったように心配してくれた。

 慌てて何かを取りに戻ろうとした少女の裾を思わず掴んでしまった。


「これ食べる?」


 手をつけてしまっているのが少し心苦しいが、慈悲の女神として食べ物を粗末にするわけにもいかないので、思わず聞いてしまった。


「えっ、いいんですか!」


 ふわ髪ウェイトレスちゃんは、ぱあっと顔を輝かせると手に持っていたお盆をテーブルの上に置き、そのまま私に向かい合う形で座った。


「いただきまーす!」


 元気な声でガツガツと食べ始める少女。


「好きなの?」

「はい! 女将さんの料理は全部美味しいです!!」


 この料理が好きかという疑問だったのだが、斜め上の回答が返ってきた。

 賄いとかで良く食べるのかな? あと、仕事中だろうけど、大丈夫なのかな。


「おいし、おいし」


 残り一割を切ってからはふわ髪ウェイトレスちゃんは大事そうにスプーンを肉に食い込ませ、一口食べるごとに、好きなアイスのように思わず頬っぺたを抑える仕草をしていた。

 あんまりにも美味しそうに食べるので、少し食べたくなるが、一度上げた物を返してもらうのもアレだし、こんなに美味しそうに食べてるの奪ったらヤバそう。


 急に食べるのがゆっくりになったので、少し会話をすることにした。

 互いの自己紹介や、この店で働いて長いのかとか、そういう他愛の無い会話。

 ふわ髪ウェイトレスちゃんの名前はアイアス。この『胃袋の盾』の女将さんの一人娘で、毎日ここで料理の修行や接客をしているらしい。

 好きな食べ物は女将さんの料理全般だが、中でもオムレツが最高に美味しいらしい。今日はいらないが、また機会があれば頼もうかな。


 そして話題は私の話に。


「クラリムさんは、夜に一人でこんな所で何してるんですか?」

「……家を追い出されたの」

「えぇーー! なんでですか?! ケチっぽい所以外は素敵なヒトなのに!」


 なんか、全体的にチクっとする言い方するなぁ、この子。


「朝ごはんをね、寝坊して作れなかったのよ……たった6回くらいなのにね」

「それはクラリムさんが悪いですね。追い出されても仕方ないです!」

「なんでよ! それ以外の家事は大体やってるし、ちゃんと謝ったのに。いくらニートで半ば居候だからって、追い出すことないじゃない」

「クラリムさん、何はともあれ、朝ごはんは舐めちゃいけませんよ。お客さんの中には、朝ごはんを食べないという方もいらっしゃいますが、朝ごはんを摂るヒトからすれば、朝ごはんが無いってのは1日のスタートダッシュが切れないのと同じなんです! だから、朝ごはんが無いと朝が来ないんです!」


 朝が来ないことなんてないないと思ったが、の言葉を挟む隙は無かった。


「それに、家族ってのは良くも悪くも支え合いが必要なんです! だから、ギクシャクしそうになったら、そうならないように努力しないと、一生家に帰れないかもしれませんよ!」

「え……帰れない?」


 言われて初めて気づく言葉。


「そんな、時間が解決してくれると思ってたのに……どうしよう、私、私、このままじゃ」

「そうですねー。普通に謝っても許してくれないなら、もう誠意を見せるしかないですね」

「…………誠意」


「そうです、誠意です! 食事での失敗は食事で取り返す! 今回は朝食なので、美味しい朝食を作って許して貰いましょう!」

「美味しい朝食って、どっかで料理の修行をするとか?」


 思い浮かんだのは如何にもみたいなコック帽姿の料理人の手解きを受ける自分の姿。


 いや、無いな。卵片手で割ったら、殻入るし。


 想像とはまた違ったものだった。


「クラリムさんはワイバーンって知ってます?」

「えぇ。つい最近飛んでるのを見たわ」


「その中でもアンクーラと呼ばれる種類のワイバーンがいるんですが、そのワイバーンの卵がとんでもなく美味しいって有名なんです!」

「その卵で作られたオムレツは天に昇るほどの円やかさと、卵が溶けたと思うくらい優しい食感、そして、どんな厳つい顔も綻んでしまう甘さを兼ね備えた、言わば『神の一皿』!」

「これをご家族さんに振舞って上げれば、どんなに怒っててもきっと許してくれますよ!!」


 味を思い浮かべながらなのか、恍惚とした表情でキャッチセールス並みのアピールをする、ふわ髪ウェイトレスちゃん。


「でもワイバーンの卵なんて、取りに行くの大変でしょ。私危ない目に遭うのはちょっと」

「——大丈夫ですよ! ウチの女将さんなんて、月一で取りに行ってるくらいですから!」

「……それ、ワイバーンが危なく無いんじゃなくて、女将さんとやらが、凄いだけなんじゃ……でも、神の一皿、か」


 思い浮かべるのは、美味しい卵のオムレツで喜んでいる三人の姿。


「ねぇ、ふわ髪ウェイトレスちゃん、その場所とかって教えてくれる?」


 女将さんが普通の一般人だと思い込むことに私は、決意を固めたのだった。

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