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変な魔法使い、異世界に行く  作者: 八艘宗八
序章 『変な』魔法使い、異世界へ
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2-B 魔王、死す


 時は少し戻り、魔王討伐後。


「俺はお前を天界に帰す手助けはしない。寂しいからな、独りぼっちになるのは」

「…………………………………………は?」

「それが、理由?」

「あぁ」


 私の事が神として嫌いだから、新たな試練が面倒臭いから、苦労が目に見えているから……ではなく、独りぼっちになるのが寂しいから、助けない。

 この、寂しがり屋さんめ。にはならない。


 なんだ、コイツ。

 なんなんだ、コイツは。


「それじゃ、私、天界に帰れないじゃない!」

「そうだ」

「食べ飲み放題、漫画や雑誌が自動補充、リラクゼーションの最高峰が付いた仕事場はどうなるのよ! 私これが終わったら、可愛い天使ちゃんに仕事を全部押し付けて食っちゃ寝生活するつもりだったのに」

「知らん。そもそも、お前はさっき、道先案内の神と名乗っていただろう。仕事放棄して帰ろうとするな」


「ふっ、ふざけんなぁ! それに私の仕事はさっき、終わってたの! あと道先案内の神じゃなくて、慈愛の女神!」

「それはおかしいな。慈愛要素をまだ実感していないんだが」

「そんなもん、もう売り切れたわよ! アンタと出会って、ここに来てすっからかんよ。初めて完売したわ!」

「在庫を抱えなくて済んだようで良かった」

「良く無いわ!」


 慈悲という名のお客様対応は終わったのだ。

 もう言葉遣いに気を掛けるつもりはないし、この男に対して感情を抑え込む事は出来ない。


「よぉーし、なら。慈愛の在庫を放出してあげる。魔法使いリンドー、あと十秒以内に私を天界に転移させなさい。そうすれば今回の件は赦してあげるし、私の部下を道先案内として派遣するわ。それなら問題ないでしょ」


 私が魔法を使えないのは百歩譲って理解した。

 だが、神の異世界案内書これは人並み以上の魔力さえあれば、誰にでも使える代物だ。魔王をワンパンしてしまうような大魔法使い様にとっては簡単なことだろう。

 嘘ではない誠意ある対応だ。部下(生贄)の当てはある。この前、私のプリンを勝手に食べた後輩ちゃんに責任を押し付けよう。


「それは不可能だ」


 んんん?

 あれれー、なにか変なことを言っているぞー。


「どうしてなのかしらー? あんな頭のおかしい魔法使えるんだから、世界を跨ぐ転移魔法くらい使えるわよね? あーそれとも、今さっき全力使っちゃったから、休憩がいるとか?」


「俺には魔力がない。だから、魔法陣、魔導書、魔道具といった物を発動することは出来ない」


 私の口がバックリと開く。


「扱える魔法は『トロマ・イポスブリオス』一つ切りだ。他には無い。つまり、お前を天界に返す術は持ち得ないということだ」


「あ、あれ、一本で、魔法使いを名乗ってんの? 嘘でしょ。あんな魔法とも言って良いのか分からないもので」


 こくりと頷く魔法使いの男。

 なんて無機質な表情なのだろう。嘘でないことしか伝わって来ない。なんでこの表情で寂しいなんて宣ったのだろうか。

 きっと、もう何を言っても何も出てこない。


 終わった。


 私のデスクワークという名目の極楽生活が遠のいてく。

 天国仕事はともかく、これで私、現場作業終わりだったのに。


「さようなら、天界。さようなら、平穏」

「この後の話なんだが……」

「もうなんでもいいわ。事情を察した天界から助けが来るまで、この後なんて無いんだから」


 どうすることも出来ない。

 私に出来るのは空に浮かぶ雲を見ながら、その奥で仕事に励んでいる天界従事者各位に念を送ることくらいだ。


「そうか」

「そうよ」


 魔法使いの男は、私ではなく、どこか遠くを眺めていた。


「お前がそのままなら、俺は逃げるが……」


「……………………えっ?」


 その視線の先、大量の土煙を大きく広げ、こちらに向かってくるナニカ。

 天界からの助けかとも思ったが、そんなことがあるはずもないので、思考を切り替える。


「どうやら先ほどの何某に由来する者達のようだ」


 その言葉で理解した。魔王城から一直線にこちらに向かってきているのだ、なら、ナニカとは、


「……魔王軍残党? 魔王の敵討ちなんじゃ。転移転移転移転移転移転移! 出来ない! こんの、ゴミぃぃぃ」


 手に持っていた転移する為の本を投げ捨てる。

 そうこうしている内に、魔法使いの男はそそくさと、駆け出していた。


「早くしろ。逃げるぞ」

「ダメ! 逃げるなら、私も連れてってぇぇ。もう足が動かないぃぃ。死ぬぅぅ、不死身だけどぉぉ」


 痙攣し始める足。

 こちらの世界に来てから、ほぼ動いていないに近いのだが、さっきの機械仕掛けの大砲から放たれたビームを見て、どっと疲れたのだ。

 命が脅かされたという精神的疲労は、足を硬直させる。


「無理だ。同じくらいの背丈の物体を抱えて走れるほどの筋力など、俺には無い」

「ふざけんなぁ! 私をこんな状態に陥れた責任取りなさいよ! もう、この際、天界じゃなくていいから、三食豪華な食事に広々とした豪邸、使用人多数、仕事はしなくていい生活を用意しなさいよぉぉ」

「……割と余裕がありそうだな」


 魔法使いの男は、やれやれと言わんばかりに私の元へと歩み寄った。

 手に持っていた大砲を捨て、私を抱き抱えて逃げてくれるものかと期待したのだが、彼が差し出したのは手ではなく、その大砲。


「ほら」

「?」

「これを持って、ニコニコしてろ。さもないと……死ぬぞ」


 冷徹な声で響いた死というワードに臆する不老不死の私(神)。

 訳も分からず、首を縦に下ろした。

 ずしりと重い、機械仕掛けの大砲。両腕で抱き抱えるが、あまりの重さに、地面に下ろした。

 魔法使いの男は、チラリと私の方を見たが、何も言わず、砂煙の到着を待つようだった。


 馬の嘶き、地震かと思えるほどの揺れが、物の5分もしない内に近づいてきた。


「全体止まれ!!」


 荒野の一面を銀に染め上げたのは、軍とも言えるほど大量の兵士。

 人でなく、また神でなく。

 巻いた角や蜥蜴の鱗、蝙蝠の翼といった人外の特徴を持つ彼らを、こう呼んだ。


 ——魔族と。


 銀の鎧を身に纏い整列した兵士達の前。一人の男が大声を出し、馬に跨りながら私達に相対するように姿を見せた。


「き、貴様らか! 魔王様を不意打ちした卑怯者共は!」


 それは緑肌に白い髭を生やした小さな老人だった。

 怒り筋を浮かべた、その人物は、声を荒げ、私達を睨みつける。


「お前は?」

「魔王様の側近であるベシュッドである。貴様ら、容赦はせぬぞ。この恨み、ここで晴らしてくれよう」


 緑肌の老人は、体よりも大きな槍の切先を魔法使いの男に向ける。


「待て」

「いいや、待たぬ」


 私は恐怖の余り息を飲み込んだが、死が目の前にある張本人は、焦りも汗もなく、じっと老人を見つめ返している。


「聞けぇ!! ここに座すは破壊神クラリム様であらせられる」

「へ?」


 魔法使いの男は、私を指差し、そう大声で言い放った。

 ざわめく銀鎧の兵士と同じように動揺する私。


「神クラリムは、今回の魔王が世界を破壊し尽くすのを知り、止める為に降臨なされたのだ」

「何を世迷言を。嘘を吐け! 神がこんなところにいるものか!」

「ほう、では先程、魔王を罰せし光は、いったいなんだというのだ。お前らが戴いた王が、世界を征服せんと息巻く王が、そこらの魔法使いの技で死んだとでも?」

「それは……」


 困惑する緑肌の老人。

 そりゃそうだ。

 別に魔王は、お飾りの王ではない。武で伸し上がってきた王で、剣と魔法への耐性だって、それなりあるはず。それなのに、急にレーザーが飛んできて、ワンパンされたなんて、誰が思うか。それこそ、突然現れた神に殺されたと思う方が幾分か理解もできる。

 だけど、そうだよ。魔法かどうかも分からないナニカで倒されたんだよ。

 言っとくけど、私、何もしてないからね。

 口には出せないけどさ。


「もし、仮に、そこに座すのが神であったとして、どうして神が我らの戦いを止める! そんな横暴が許されて良いものか」


 あー、それ言っちゃう? それ言ったら、異世界救済斡旋事業所(私達)の仕事全部ダメになちゃうから言わないで欲しいんだけど。


「ならば、この世界は滅べば良いと本気で思っているのか?」

「滅びはしない。我らが戦の勝者となれば、この世界は豊かで幸せな世界となる!」

「いいや、滅びる。他者を虐げて得た平穏など紛い物でしかない。争いとは次の争いの火種である。一度争いが始まった以上、その火を止める術はない」

「だから魔王様を殺した」

「そうだ。奴には、そうされるだけの理由があった。奴を身近で見てきた、お前には分かっているはずだ」


 えぇぇぇぇぇぇ、なにそれ。知らないんですけど。

 今まで長年旅をしてきた、勇者が、心優しい魔王軍幹部に語りかけるみたいなセリフだけど、私もアンタもここに来て、まだ一時間経ってないよ。

 なんで、魔王の顔すら知らないのに、そんなブラフをブチかましているの。


「まさか、そんな。先代の魔王を暗殺し、王位を簒奪した噂が本当だとでも言うのか」

「そうだ」

「先代は人族と手を取り合うことを望んでいた。ソレを気に食わぬ魔王様が裏で始末を命じ、思うがままの世界を作ろうとしていた」

「そうだ」


 セーーーーフ。


 なんか、ブラフ刺さったぁ!! 

 この魔法使いの男、『そうだ』だけで乗り切ろうとしてるのはヤバい気もするけど、なんか大丈夫そう。


「だが、道半ばで、死した先代に問題があっただけのこと。力こそ全て。この決まりに意を唱えることは出来ん」

「そうか、ならば魔王が死んだ今ならどうだ? その決まりの通りで言うなら、ここにいる破壊神が最強であり、絶対の正義だと思うが?」

「それを不意打ちで魔王様を殺した者が言うのか」

「今回の件で恨むか敬うかどうかは好きにすればいいが、神は気まぐれだ。善悪という人の価値観を押し付けるだけ無駄だと思うがな……まぁ、いい。お前にも、そう簡単に退けない理由があるのだろう」


 剣や槍をこちらに向ける兵士たち。

 私達を畏怖しているようだが、彼らも王に仕えし一兵士。忠義を、そう簡単に捨てる事は出来ないといった所だろうか。


「では、退くだけの理由を授けてやる」


 魔法使いの男は、向けられる武器に臆することなく、冷徹に言い放つ。


「神の裁きが一度だけだと誰が言った」


 それを指すのが、魔王を倒したレーザーであることを、兵士達が理解したのか、緊張が走ったように顔が強張った。


「このまま、剣を神に向けると言うなら、神罰は魔族人族に関わらず、全人類に降り注がれることになるだろう。破壊神は確かに、理不尽だ。ここで討つのも、後の世の為かもしれない。だが、お前達に、家族や隣人を犠牲にしてでも、あの魔王の仇を討ちたいと、将来の為に命を投げ出せると本気で思えるのか?」


 脅してやがる。コイツ、初対面の軍相手に決戦武器で脅してる。

 しかも、私の所為にして。

 私、何も言ってないのに。何もやってないのに。

 全部、コイツがやったのに、平気で自分のこと棚に上げてやがる。

 このままだと、私、とんでもない悪神になる感じだが、天界への緊急脱出が出来ず、治癒系の魔法が使えなく、魔族の大軍に囲まれている現状を打開する策が一切浮かばないので、黙る。

 水に流される素麺のように、じっと、結末を待ち続ける。


 空を駆ける蛇が鳴き、呼応するように馬が嘶くと、ガチャンガチャンと、武器が地面に落ちる音が響いた。

 一つの波紋が新たな波紋を呼ぶように、銀の兵士達は次々に武器を下ろし、最後には緑肌の老人もまた、その大きな槍を捨てた。


「よし、ならば話を進めよう」


 悪びることもなく、淡々と口を開く魔法使いの男。

 やってること、世紀末の覇王と、どっこいである。


「この神は世界の運営者であっても率いる者ではない。組織の頭が消えたとなれば、どんな組織でもそれなりに揺らぐ。なら早々に、前魔王に代わり、新魔王を決めねばいけないだろう」

「魔王様をですか……それはそうですが……」


 完全に立場が逆転してる。

 さっきまで、威圧的で大きく見えていた緑肌の老人が、背丈の通り小さく見えた。。


「なんならお前がやるか?」

「いや、ワシは……」

「じゃあ、そこのオマエ。隣のは?」


 魔法使いの男は指を、並んでいる兵士達に向け続ける。

 しかし、誰一人として魔王になると声を上げる者はいなかった。

 そりゃあ、魔王の仇! って来たのに、仇と戦わないどころか、切り替えて新しい魔王を決めるって話を持ち出されて、急にやるって言うヒトはいないだろう。


「というわけで決めるぞ新魔王を。とりあえず、前魔王が不幸な事故でお亡くなりになったことを広め、各地から新魔王の志願者を集めろ。この理不尽な神が魔王を倒した尻拭いくらいは手伝ってやる」


 んー、なんか、さっきまで破壊神を敬っている感を出していたのに、言葉遣い忘れたのかな。戻ってるよ。


「それとも、文句がある奴でもいるのか? なら、この神に石を投げろ。あの手に持っているのは、さっき魔王を一撃で屠った兵器だがな……文句が無ければ、さっさと取り掛かれ」


 急展開に圧倒された魔王軍の兵士達は、魔法使いの男と私(決戦兵器)の前に、言葉に従うしかないようだった。


 ということで私(神)他二名による新魔王の面接が執り行われることとなったのです。


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