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変な魔法使い、異世界に行く  作者: 八艘宗八
第2章 果汁100%! パン屋と四天王とワイバーン~至高の一品を求めて~編
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11-A 神の一皿

 日常を過ごす街ウルメラ。

 この街には大きな鐘があり、朝、昼、夕と三回時刻を鳴らし知らせてくれるという、便利なような一部からは煩いと苦情が来そうなシステムを有していた。


 ゴーン。

 その内の一つ、朝を知らせる音が鳴り響く。

 あるヒトはこの音で起き、あるヒトはこの音で出勤し、あるヒトはこれが夜勤終了の合図。


 他所は他所なので、どうでもいいが、それでは我らがストーナ家ではどういう意味があるかと言うと、この朝の鐘は朝食を食べるという合図であった。


 ストーナが夜勤で無ければ、必ず四人が揃う憩いのひととき。

 しかし、今日、この朝、四人の前には料理が乗っていない皿が並んでいた。


「一つ聞くがァ、今日の朝当番っていったい誰なんだろうなァ」


 金髪ポニーテールの女性から発せられたのは深く深くドスの聞いた声。


 私は、その声の方に顔を向けるのではなく、ただ無心で下を向く。

 視線は合わせない。


 ただ何故か、私の額には一滴の汗が流れていた。


「何も難しいことは言ってねェ。皆んなより少し早く起きて、何でも良いから昼まで腹持ちが良い物を作りゃあいいだけの話だァ」


 コツコツコツと足音が部屋に響く。

 座っている私達を回るように歩いているらしい。


「少なくともアタシは今ままでそうして来た。リンドーは……出処の分からねぇ金で出前を頼むし、ミークは……近所の朝御飯を分けて貰いに行く。やり方は置いておいて、ちゃんと物は用意している」


 声を出したいが、出せない状況。

 私の背後で足音が止まる。


「クラリムゥ、テメェはどうしてたっけなァ? まさか、一度や二度じゃ飽きたらず、今日も忘れていたなんざ言う訳ねぇよなァ」


 私の肩を握る手は段々と力を増して行く。


「まさか、あは、あははは。ちょっと、お腹の調子が悪くて……」

「そうか、なら仕方ねェな。知らなかったぜ、慈悲の女神ってのは、よく腹を壊すもんだったんだなァ」


 ブッチぎり通算六度目の朝飯当番ボイコット(寝坊)。

 前々回でいい加減にしろと言われ、前回で次やったら勘当と言われていた。


「一つ賢くなったわね、あは、あはははは」

「あはははは、そうだなァ」


 言葉とは裏腹に、目も口も笑っていない。

 ストーナは私の肩から、そっと手を離した。


「……さて、昼飯から三人で回すぞォ。朝はアタシがパパッと作るから、ちょっと待ってろ」


「あのー、ストーナさん? それって私の分とかあります?」

「ミーク、取り皿を三枚出してくれ。リンドーは飲み物」

「あれれ〜、四人家族なのに、取り皿が三枚なのは変だなぁ〜。あぁ、大丈夫大丈夫、私が足りない分、用意するから。あれー、リンドーもコップ一個足りないぞ。もう仕方ないなぁ〜、大丈夫、私が出すから」


 そそっかしい濃紺ローブの男に軽口を挟みつつ両手で食器を持ち、自分の席に置こうとしたのだが。


 椅子が食べられていた。


「あのミーク先生。私の椅子。食べないで貰って良いですか? 座れなくなったんですけど」


 文字通り、丸ごと椅子を飲み込むミミック。

 大丈夫、問題ない。白い短髪の少女もお腹が空いて少し椅子を摘んだだけだ。きっと、悪気はない。

 偶には椅子も食べたいよね。


「……まぁビュッフェスタイルもいいわね。あのリンドーさん、私が用意したお皿片付けないで貰って良いですか?」


 少し目を離した隙に片付けられていたので、それを取り戻し、一番機嫌が悪そうなヒトの元へと向かう。


 キッチンでせっせと卵を焼いている彼女。


「そうだ! 私も料理手伝ってあげる! 何でも言って、揚げ春巻きに天麩羅、豚カツにポップコーンなんでも作っちゃうから!」


 そう言いながら、その手に握ったフライ返しを掴もうとした瞬間。

 私は家主に猫のように摘まれ、引っ張られると外へと放り出された。


「出てけェ!!」

「ごめん、ごめんごめん! 今回はホントミスったの。もう絶対しないから、もう一回! もう一回チャンスちょうだい!」


 ガチャガチャ。


「鍵、閉まってる」


 押しても引いても扉を何度も何度も叩いても決して開くことのないセキュリティ万全な扉は私の侵入を完全に遮っていた。


 待つ事、十分。

 外で三角座りをしていると、家の前を通る人達から奇異の視線を向けられるので、ニッコリと返す。

 ストーナが出勤する時に無理矢理、突撃することも考えたが、これ以上怒らせると何をされるかも分からないので、私は。


「ま、夜ご飯になったら、許してくれるでしょ。それまで遊ぼーと」


 時間に解決を委ねることにした。

 公園のベンチで寝たり、おままごとをする幼女に混じったり、隠れん坊と鬼ごっこを教え、子ども達から遊びの神と崇められお弁当を分けて貰ったりと、暇を謳歌した。


「お姉ちゃん! ありがとー」


 そして、夜を告げる三度目の鐘が鳴り、子ども達が帰ったので、私も家に帰った。


「ふっふっふ、私というヴァルデエランデ家のムードメーカーを外に放り出したことを後悔した事かしら?」

「時間とは残酷なものね。皆んなの心配を煽り、私という存在の有り難さを感じてしまう。そうなれば、家の扉も自然と口を開く……」


 ガチャガチャ。ガチャガチャ。ガチャガチャ。


「おーい、ストーナ! リンドー! ミーク! 鍵、開け忘れてるわよー! 私、慈悲の女神、クラリム様が帰ったわよー!」


 何一つ返ってこない。

 家の明かりは付いているので、留守ではないのに。


「……あれ、これ私の荷物だ」


 扉の横にある鞄には私の服や剣が無造作に突っ込まれていることに気付く。

 鍵が閉まって入れない家。そこに置かれた日用品。


「これって、もしかして、()捨てられた?!」


 神がヒトを見捨てることはあっても、その逆はない。


「そんな猫や犬じゃあるまいし、()を捨てるなんて、あるわけ……おーい、ホント、ごめんって〜、反省したから、開けてよ〜」


 反応無し。

 もっと反省しているっぽい声を出せば良かったかなと思いつつ、扉に耳を当てるが、遠くの方で少し声が聞こえる程度で、誰一人玄関に来ようとしていないのが分かった。


「……さて、どうしようかな」


 半日で無理なら、一日。一日で無理なら、二日。きっと、時間が解決してくれるだろうし、そこまで悲観的ではないが、普通に困る。腹も減るし、野宿もしたくない。


 家出なり、家から追い出された場合の常套手段として、知り合いの家に駆け込むというのがあるが、私は基本家で寝ているので、リンドー達以外に知り合いは、ほぼいない。


「あっ、そういや良いとこあるじゃん。当分、彼処でいっか」


 寝泊まりオーケー、三食食事付き、そしてなんと言っても無料。

 そんなスペシャルな場所を私は知っていた。なんなら何度か利用したこともある。


 私は最高の宿を目指し、歩を進め目的地へと辿り着いた。

 のだが、


「あー、申し訳ないっすけど、牢屋は宿じゃないんで、他所当たってもらって良いでっすか?」


 バンダナを巻いた騎士が入り口を封鎖していた。

 無視して入ろうとしたが、押し返されてしまう。


 くそ、生意気な。


「まぁまぁまぁ、そんな硬いこと言わずにさ。ほら、私を捕まえないと、街で暴れちゃうぞ」

「もし、そういうことになったら、逮捕じゃなく、騎士団長権限で街から追放処分にするらしいっすよ」


「なるほど、そう来たか」


 到着して十数秒、最後の綱が断ち切れた。

 借金の時にお世話になったからイケると思ったが信頼度が足りてなかった。ストーナも私の行動を予測して手を打っているの流石と褒めるしかない。


 他に思いつく行く所が無い。


 それならそれで普通に宿に泊まれば良いのだが、如何せんお金がない。

 財布に入っているのは精々1000マニエ。夜の定食一回分というところで、宿代も無い。


「あれ? もしかしなくても、ヤバい?」


 自らが招いた事態を解決する当ても無く、私は呆然と立ち尽くした。

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