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変な魔法使い、異世界に行く  作者: 八艘宗八
第2章 果汁100%! パン屋と四天王とワイバーン~至高の一品を求めて~編
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10-C 最初の依頼

 突然の来訪者に少し焦ったが、丁度話題にしていたギルドへの依頼者だったので、タイミングも相まって、すんなりとストーナに許可を得ることが出来、ギルド部屋へと通すことが出来た。


 私とリンドーが勝手にギルド部屋にした場所は、貴賓室と呼ばれる部屋だった。

 置かれている机、ソファ、備えられているカップや皿の一つ一つが高級品と思しき綺麗で細やかな装飾が施されている。


 その名の通り客人を持て成す部屋ということなので活用方法としては大きく外れてはいない。


 依頼人の老人モーガンと向かい合う形で私もソファに腰掛ける。

 ミークは、場を和らげるマスコット的な役割なので、私の横に。その後ろにはボーディーガードのようにストーナに立ってもらい。リンドーは何も言わずとも私の思惑通り、出入り口の扉の前に立った。


 そう、これで貴重な依頼人を逃さない配置は完成である。


 一度入った以上、お金を置いていって貰うとしよう。面倒そうな依頼ならお帰りいただくが。


 私は目の前に置かれた紅茶を口元まで運ぶ。


「あっっまぁ。ナニコレ」

「あまい、ほうが、おいしい」

「ミーク、ヒトによって好みがあるから勝手に入れちゃダメよ」

「わかった」


 砂糖の味が八割を占める紅茶を一口舐めたことを後悔したが、被害者はもう一人。


「ゴホッゴホッ」

「大丈夫? 無理して飲まなくていいからね」

「ええ、お気遣いありがとうございます」


 咽せたように咳をしたモーガンは、紅茶を置くと、取り出したハンカチで口元を拭った。

 老人が落ち着いた所で、私は依頼を聞き始めることにした。


「それで、妖精だっけ?」

「はい。皆様には私が住む村で妖精を探していただきたい」

「妖精、妖精ね〜、妖精って、あのパタパタ飛んでいる小ちゃいの、って認識で合ってる?」


 私のイメージとしてはパタパタ飛んでいる指先ぐらいのサイズ感のヒトで、その背には蝶など虫の羽を生やしているといったレベルの印象。


「多くの方が羽の生えた小人のことを『妖精』と呼び親しんでいるようですから、大前提としてはそれでよろしいかと。ただ、今回頼みたいのは、私が幼い頃に一度見た『黒い妖精』なのです」


 紅茶の香りを楽しむ為にモーガンはカップを顔に近づけ、懐かしむように語り出した。


「今から五十年程前になるでしょうか、私の育った村には大きな湖があり、私の家はその湖の前にありました。生まれた時から、湖が近くにあったものですから、私は、いつもそこで泳いだり釣りをしたりと暮らしていたのです」


「ある夜のことでした。私が夜眠れず、湖の畔で空に輝く月を見ていると、何やら物音がし、咄嗟に湖に目を下すと、妖精が月明かりに照らされて踊っていたのです。最初は食い入るように見ていたのですが、近くで跳ねた魚に気を取られた一瞬で、妖精は跡形も無くいなくなっていました」


「…………そのなんて言うか、本当に妖精?」

「確かに妖精は湖の中心付近にいたので、距離もあり顔すら見えないほど曖昧なモノだったとは思いますが、その背には黒い羽があり、湖の上で踊っていたので間違いありません」


 五十年も前の過去を、そう自信満々に言うということは余程印象深い出来事だったのだろう。


「それでどうして今更、妖精を見たくなったの? 昔の話なんでしょ?」

「……実はつい先日、妻に先立たれましてな。彼女との思い出を懐かしみがら振り返ってる時に、ふと思い出したのです。ちょうど彼女との結婚を決めた時ぐらいに、その妖精を見たな、と」


 モーガンはティーカップを撫で、その内側、ミルクの入っていない赤い紅茶を覗き込む。

 彼が見つめるその水面にはいったい何が映っているのだろうか。


「それを思い出してからは、妖精を再び見たいと強く思いまして、様々な冒険者ギルドに依頼を出したのですが、妖精と再び会うことは出来ず、今日に至るということです」

「そんな貴方は偶々見つけた看板が目に入り、物は試しくらいにフラッと寄ったと」

「いえ、ここには、とある女性に紹介されて来たんです。ウルメラには変わった魔法使いと神のような方がいるから力になってくれるかもしれないと」

「へぇー、私たちって割と有名なのね。どれが噂になってるんだか」


 有名になるのは嬉しい反面、良い方面なのか悪い方面なのか。

 私はともかくリンドーの噂話は、悪い方面が多そうだ。魔王軍に武器を卸したとか、先日リンドーがワイバーンに放った決戦兵器の話とか


 あと神のような、ではなく、神であるので、そこをきちんと伝えて広めて欲しい。


「うーん、とりあえず妖精を見たって言うなら、闇雲に探すよりは貴方が住んでいる村に行って、そこで探すのが良いとは思うけど……」


 依頼の内容は分かったし、いるって言うなら探すだけだろうから、特段難しくは無いが、流石にまだ情報が少ない。


 部屋の隅で話を聞いていたリンドーも同じことを思ったようで、モーガンに問いを投げかけた。


「見たというなら、妖精の姿は説明出来るか」

「え、えぇ。覚えている限りにはなりますが、髪は金色の長髪。肌は白色。服は……確か黒で、背中から生えた羽も黒。形は蝶々の羽のように四枚に分かれていました」

「……金髪で蝶の羽を持った黒い妖精。ん? それって……」


 言葉の通り、頭でイメージした姿はあるヒトの変身した姿。


「なんだァ、揃いも揃ってアタシを見やがって……あ」


 三人の視線は、私の背後にいるストーナの方へ。


「ちょっと、待てよ。あの姿になんのは恥ずかしいんだ。だから止めろ。おいおいおい、リンドー近づくんじゃねぇ! おい、手を伸ばすなって」

「トロマ・イポスブリオス」

「んっ、ちょっっと、待って、心の準備が、あばばばばば!」

「現出せよ。『最強騎士物語』」


 リンドーはストーナを回転させ背中に腕を伸ばし、そこから一冊の本を取り出した。


「『第四章、冥王』」


 その言葉が唱えられた瞬間、ストーナの体を包み込むように黒い糸が現れ、ストーナを覆う繭となり、そこから現れたのは、少し露出度の高い黒の衣装に身を包み、蝶の羽を生やした金髪の女性。


 正しく『妖精』の姿をしたストーナが姿を現した。


「こんな感じか」


 突然現れた『妖精』に目を見開き、指を振るわすモーガン。


「おおっ、おおっ、確かにあの日見た妖精にそっくりだ」

「ったく、急にやるなっつってんだろうがァ……あと爺さん、ジロジロ見てんじゃねぇぞ!」

「荒々しいのは置いておいて、そっくりはそっくりですが、背丈が少し高いですね」

「あーそっか、妖精って言うぐらいだし、もっと小さいよね。人差し指くらい?」

「いえいえ、そこまで小さくありません。そうですな。そこの白い髪の少女と同じくらいだった気がします」


 ミークくらいって、普通の子どもサイズくらいか。


 想像よりか大きい。

 綺麗な花の中で過ごす妖精像は捨てた方が良さそうだ。


 その後も根掘り葉掘りと妖精の容姿を聞いたが、あまり有用な情報は引き出せなかった。

 そもそも五十年も前の話の上に、見たのが夜だったというのだ。それで、何から何までキチンと覚えていたら超人である。

 神である私ですら、昨日の晩御飯を忘れてしまうのだ。期待のしすぎも良くはない。


 妖精の話の後は、リンドーが依頼達成の報酬の話やモーガンの村の場所など、依頼の詳細を詰めていたのだが、モーガンは達成期日だけは断固として譲らなかった。


 期日は、明日の晩。


 他の様々なギルドも諦めた妖精の発見など、いくら時間があっても達成出来るかも怪しいのだが、明日の夜を過ぎても見つからない場合は諦めるということだった。

 村の場所を考えるに、早く出発できても着くのは明日の朝。

 つまり制限時間は朝から晩までのたった半日。


 モーガンは宿に置いた荷物を取って戻ってきたら出発ということになり、モーガンは去っていった。


 貴賓室もとい、ギルド室に残った私達は作戦会議をすることにした。


「……そもそもなんだけど、妖精って探して見つかるようなものなの?」


「この世界において、妖精が見られたという伝承自体はいくつかあるが、見せ物小屋に繋がれていたり貴族の屋敷で飼われているという話はない」

「アタシもガキの頃に親から聞かされた物語で存在を知っているぐらいだ。妖精を見たと吹く奴と話したことが何回かあるが、全員が全員違う特徴を言ってたしなァ」

「誰も知らない場所にいるなら、ダンジョンにいるとか?」

「妖精、知らない」


 未確認生物、ツチノコとか空飛ぶ円盤とかと同じ括りなのだとすれば。


「じゃあ、妖精いないじゃん。探しても無駄だし。依頼達成出来る訳ないじゃん」


 本音がポロポロと溢れる。

 いると信じてはいても、見つけられる自信がない。


「安心しろ。今回の依頼の達成方法は考えてある」


 ドヤる訳でも、不安がる訳でも無い、リンドーの言葉に何一つアイデアが思いつかない私は頼るしか無かった。


 私はテーブルの上に残っていた赤みが増した紅茶を片付け、旅支度を始めた。

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