10-B 冒険者ギルド出禁騒動
回想、借金騒動が終わってすぐの頃。
家からそこそこ歩いた所にある大きな建物。
ウルメラに住む冒険者が依頼を受けに訪れるギルド『果て無き大釜』。
ミークはストーナが頑張ってお金が食べ物では無いということ教え込むらしく、リンドーと私の二人行動。
前に一度来たことあるな。なんだっけ。
大金の借金だったような、ちょっと発狂してたから記憶が曖昧だ。
「ようこそ冒険者ギルド『果て無き大釜』へ。どのようなご用件でしょうか?」
「えーと、冒険者登録したいんですけど……」
ギルドの受付のお姉さん。
他の世界でも『受付』は何故かお姉さんが多い。別に誰でも良いと思うが、やっぱり華やかさが必要なのだろうか。仕事さえ出来れば誰でも良いと思うが。
そんなことはさておき、私が冒険者登録をするのは緊急で金が必要になった時に備えてで、リンドーへの借金を返すためではない。
そちらは時間が経てば、リンドーが勝手に忘れてくれると思っている。
「冒険者登録ですね。かしこまりました。それでは身分証を……確認しました。手続きの前に冒険者ギルドの説明に移りますね」
「いいわ。どこも大体一緒でしょ? 三つくらい前に行った世界で、説明受けているから」
「は、はぁ」
「待て、俺は聞く」
「どうせこの後、依頼を受けるんでしょ。その移動中とかに、私が簡潔に分かりやすく説明してあげるわよ」
「間違いが起こってからだと、遅い」
「……おい、それは私の説明が不安だってことか!」
「いいから、説明」
この男、私の話を聞く気ねぇ。
「はい。当ギルドでは、依頼を大きく二つに分けて掲示しています。その区切りは、戦いを必要とするか否か。非戦闘依頼では、薬草採取や猫探しにハウスクリーニングまで色々なことをお願いしております。その一方戦闘依頼は、モンスター退治や護衛にダンジョン探索といった危険が伴うものになります」
普通だ。なんの変哲もない説明。
あるあるなあるある話。
「依頼の受注方法に関しましては、こちらから依頼の紹介をすることもありあすが、基本的には冒険者の皆様に、掲示板に貼られた依頼を選定していただき、カウンターで受注処理をさせていただきます。ただ、受けられる依頼は冒険者様のギルド貢献レベルによって左右致します」
「報酬が高い依頼は、ギルド貢献レベルが高いヒトにしか受注出来ないってこと?」
「面倒だな」
「その辺りは信用の問題ですね。依頼を受けたのに達成出来なかったり、期日ギリギリで放棄する方もいらっしゃいますから」
ブロンズランクとか〜等級冒険者みたいな感じか。
誰でも分かるように図解の資料もあるから分かりやすい。
「基本的な説明は以上になります。細かい注意点は依頼ごとに変わりますので。その時に聞いていただけると助かります」
「はーい」
「それでは冒険者登録を進めますね」
受付のお姉さんは、そう言葉を締め、ギルド入会の書類とペンを用意する。
私は聞く必要がないと断言出来る普通の説明だったのだが、隣の男は違った様で。
「いくつか質問したいのだが、いいか」
目の前に置かれた紙を見ようともせず、受付のお姉さんに声を掛けた。
「はい。構いませんよ」
「依頼主とは会えるのか」
「場合によりますね。モンスター退治の依頼なら、ギルド職員で討伐の達成確認をして依頼人に報告させて頂きますし……護衛依頼とかでしたらお会いになれますよ」
何を聞いてるんだコイツは。
「依頼主に会えた場合、報酬交渉は可能か」
「……それは認められておりません。ギルドは報酬を見て、依頼の受注基準を設けておりますので」
「急に討伐対象が増え、それを討伐した場合は?」
「特に何もありません」
「報酬を受け取ってくれと懇願された場合」
「断ってください」
「たまたま、足元にお金が落ちた場合」
「拾わないでください」
「服のポケットに報酬を捩じ込まれた場合」
「服を捨ててください」
「…………どっちも頑固すぎない?」
そんなに報酬増やしたいなら、黙ってやればいいのに。
ギルドのお姉さんも微笑んでいるが、目が笑っていない。この客、面倒くせーな。もういいから要件済ませて帰れや、って目してる。
「それでは、この欄にサインを……」
「——最後に一つ」
「……ッチ、はい。なんでしょう?」
「リンドー、もうやめよ。お姉さん、イライラしてるって、かわいそうだって。窓口の人に言ってもどうしようもないことはどうしようもないんだって」
リンドーはリンドーで何言ってんだって顔で私を見てくる。
私の腕を振り払い、リンドーは受付のお姉さんに顔を近づけて尋ねた。
「依頼主からの成功報酬の何割をギルドが得ている」
「お答えしかねます」
受付のお姉さんはピシャリとそう言い放った。
「そうか、もっといい条件の他のギルドを探す」
リンドーは私が握っていたペンを掴み、ペン先が受付のお姉さんに向かうように返却した。
「残念ですが、この街には他にありませんよ」
皮肉を込めるようにそういう受付のお姉さんの顔は笑っていた。
リンドーはムキになることなく、
「なら新しいギルドをつくればいいだけの話だ」
ムキになった子どものような発想を言い放ち、私を連れ出ていくのだった。
回想終。
◇
「んで、次の日にギルドは作ったんだけど、依頼がなかったから、『果て無き大釜』で受注期限スレスレの依頼を見つけて、リンドーと依頼主に会いに行こうとしたんだけど、ギルドを介してないのがバレちゃって、出禁になっちゃった」
いやぁ、ギルド作るのに役所で手続きしたのも面倒だったけど、依頼を奪った時に怒鳴りに来たオッサン、滅茶苦茶怖かったな。
きっとギルドに入会しに行った時も、アレ以上、受付のお姉さんを怒らせたら出てきたんだろう。
「ということなので、実は私もリンドーも定職はあったのです。リンドーがギルドマスターで、私が副ギルドマスター。ね、めでたしめでたし」
「何も、何一つ、よくねェェェェ! それでよく働いているって吹きやがったなァ。ガキンチョが家でままごとやってるのと一緒だだろうが!」
「たまたま今は景気が悪くて稼ぎがないだけで、時が来たらちゃんと稼げるって。ストーナはそれを辛抱強く待てばいいだけ、ね、簡単でしょ?」
行き急いではいけない。待つのも仕事なのだ。
だから、私は寝ているように見えて、待つという仕事をしていることを理解してほしい。
「なんでクラリムが付いてながら、リンドーがギルドを作るって話を止めてねぇんだァ。いつもなら、リンドーが変なことをしようとしたら真っ先に反対するじゃねぇか」
「いやぁ、よくよく考えるとあのギルド遠いのよ。道もややこしいし、ギルドに依頼を見に行って、準備の為に家に帰って、また外に出るとか面倒臭すぎるでしょ? 仕事だし〜って思ってたけど、リンドーが家にギルド作るって言ってくれたから、それでいいかなって」
「ちょっと待て。ギルドをどこに作ったつった?」
「この家」
「……………………」
「ほら使ってない部屋あるじゃない。この家の一階の手前、玄関からすぐに入れる、あの無駄に綺麗な部屋よ。あそこなら、誰か来てもそのまま話せるスペースあるし。いいかなって。知らないのも当然よね。せっかく外に看板立ててるのに誰も依頼しに来ないし」
「家主が気づかねぇくらいの看板で、誰が依頼しにくんだよ」
「さぁ?」
「オイ、やっぱ家に金入れる気ねぇだろ!」
ストーナが立ち上がり、私の眉間にアイアンクローを発動しようとした時だった。
ゴンゴンゴン。
三度のノックが、私達の会話を止めた。
「ごめんくださーい」
声を聞き、来客であることに気づく。
「どうやら、効果はあったみたいだな」
「郵便配達じゃねぇかァ?」
「もしかしたらお金を拾ったって届けにくれたのかも」
「……落としたのか?」
「ううん、願望」
ミークが駆け足で玄関に向かったので、その後を追う。
開かれた扉の向こうに立っていたのは老年の男性。
「初めまして。私の名前はモーガン。今日は一つの依頼をしに参りました」
初老の男性は、被っていた帽子を取り、頭を下げる。
「どうか、妖精を見つけ出して頂きたい」
これが私達が迎える初仕事となった。




