10-A 第2回生活習慣改善会議
10話『妖精姿の少女』
あるヒトは言った。
働かざる者食うべからず、と。
でもそれはおかしいと思うのだ。
いいじゃない、働かなくても食べたって。いいじゃない、働かなくても楽しめる範囲で楽しんだらいいじゃないか、と。
なので。
「ということで第2回生活習慣改善会議を始めんぞォ」
荒々しい金髪の女性ストーナはリビングで号令を掛ける。
ソファにうつ伏せで爆睡している赤と白を独占した色合いの神も、棚に隠しておいた菓子を頬張る白の短髪箱娘も、本を読み続ける濃紺ローブの魔法使いも、誰一人動こうとしない。
そんな、居候達に痺れを切らしたのか、ストーナが最初に目を付けたのは私だった。
「いーやーだー!」
私はソファに寝そべり、クッションに抱きつきながら、ストーナの引き剥がしに対抗する。
「テメェ、この前朝食作り忘れた時は泣いて謝って、生活態度を改めますって神に誓ってたじゃねぇかァ!」
「それとこれとは別なの! これ以上、疲れることをしたくないの。私は家事するので一杯一杯だから! あと私が神だから、誓いを破っても大丈夫なの!」
「どんな理屈だそりゃあ! 守れないなら誰にも誓うな!」
第二回ということだが、第一回が家事をしなくちゃいけなくなった奴だとすれば、第二回はきっと……想像しただけでどっと疲れる。
私は必死にソファを掴んだが、騎士団長のパワーに力負けし、椅子へと連行された。
他の二人は抵抗は薄く、猫のように簡単に摘まれ、定位置の椅子に座らされていた。
「では、まず議長のアタシから一言」
陽の星が燦々と輝く、平日の昼間。
「働けェェェェェェェェェ!」
そんなストーナの心からの叫びが耳を貫いた。
「急にどうしたの?」
「どうしただァ? 昼夜問わずゴロゴロしている奴の口からそんな疑問が出るとはなァ」
反論が出来ず、キュッと口を萎める。
沸々と怒りが漏れ出ているストーナ。
「テメェら、私一人でこの家の生活費捻出している分かってるよなァ。同じ屋根の下で暮らす家族として、何も思わねぇのか?」
「ん? でも家事を手伝ったら良いって話だったんじゃ」
「最初はそれでいいと良いと思ってた……だが、アタシが昼前に夜勤から帰ってきて、早く昼飯を食いたかったから、その日当番だった家族を起こした時、アタシはこう言われたんだ」
「『あれ? これから仕事? 頑張ってね〜。私、もうちょっと寝るから』と。その時思ったんだよ。なんでアタシはこんな奴を養ってんだってなァ」
「アタシが、仕事帰りに甘いスイーツを買うのを止め、大剣の整備も鍛冶屋に頼むんじゃなく自分でやるようになって、仕事の時間も増やして。養う金を増やしてるのがバカみてぇに思ったんだよォ」
怒涛の愚痴がストーナの口から溢れたのだが、一般的に考えれば正論なので、ぐうの音も出ない。
ここは慈悲の一つでも入れておくか。
「うわぁー、仕事から帰ってきたヒトにそんなこと言ったんだ。うん、それは酷いわね」
「テメェのことだよ。クラリムゥ」
墓穴を掘った。
「いや、もうクラリムだけじゃねぇ。なんで揃いも揃って、アタシに養われようとしてんだァ! 一人ぐらい働いて家に金入れろやァァァァ!」
一人、一箱、一柱は口を噤む。
どうやら、この怒り狂った獅子を手懐けられるのは私だけのようだ。
仕方ない。神として、このニートタイムを死守してみるか。
「と言っても、まだ来てそんなに時間が経ってないから、まだ仕事が見つかってないのよ。ほら、ストーナも仕事が決まるまでは養ってくれるって言ってたし……ねぇ、もうちょっとだけ待ってくれない? ちゃんと家事はするからさ」
私は切り札を切る。
少し時は戻るが、共同生活を始めて数日してから、第一回生活習慣改善会議というものが行われた。ここでは、誰がどの部屋を使うだの、家事の当番を決めたりだの、共同生活におけるルールを決めていったのだが、もちろんその中には金に関する話もあった。
しかし、私はリンドーへの借金が残っていたり、三人が三人ともウルメラに来たばかりで何一つ仕事が無かったりという状況だった。
『とりあえず、テメェらの仕事が決まるまでアタシが金を出すからさっさと決めろよ』
という、ストーナありがたいお言葉に従い、気が向いた時に仕事を探していたのだが、一切決まらず、今の今まで堕落を享受していたという訳だ。
因みに私は働きたいとは思っていない。空腹にならない程度の食事と、安らかに眠れる場所があれば幸せに暮らせるからだ。
なので、この食っちゃ寝生活を守る為にも頑張って仕事を探しているフリをする。
塩らしく、健気に、儚く努力をアピールすれば、きっとストーナは怒りを鎮めてくれる。
そうこれが完璧な作戦。
「テメェらがこの街に来て、もう三十日は過ぎてるが?」
「…………えっ、ホントに? もう一ヶ月も経ったの? あは、あはは、時間の流れって早いわね〜。私、神だから、普通の時間感覚なくて、分からなかった〜」
ダメだ。そんなに時間が経っているとは思わなかった。恐るべし食っちゃ寝生活。
プラン変更。
私は、この会話に入ってきていない、一人に目を向ける。
本を捲り、自分は関係無いですよという態度を取る無職の男。
この男は無職だが、魔王軍や騎士団の依頼を手伝ったとかで金があるはず、その金を引っ張れば、現状を維持できる。
「リンドー、アンタたくさんお金持ってるでしょ。それ」
「不可能だ」
「……養ってもらってるんだから、少しは協力したらどうなの」
「テメェもだがな」
「まぁまぁまぁ。私は一旦置いといて、リンドーは取り敢えず、自分の分くらい生活費出したら?」
「出来ないからそう言っている、金は無い。全部、本に使った」
淡々と返される言葉に理解が追いつかない。
「……全部? 前、大金あるとか言ってなかった? それこそ一年は遊んで暮らせるくらいの額くらいって」
「使いきった」
「……なら、それ売ってお金に」
「冗談でも言って良いことと悪いことはある。それは神であっても同じだ」
パタンと、本を閉じた後そう冷ややかに諭したリンドーの顔は冷徹そのものだった。
「生活費が必要なら、クラリムに貸している金を使えばいい。ある程度はマシになるはずだ」
何か、サラッととんでもないことを言っているが、無視しよう。無い物は無い。
良し、作戦を変えよう。
残ったのは一人、多数決に備え、仲間を抱き込む。
「ミーク先生も働きたくないわよね〜」
「わたし、働いてるよ、これ」
「え゛」
衝撃の答えに戦慄する。
手渡されたのは、この街にある冒険者ギルドの所属証明書。
裏面を見てみると、今までに達成した依頼の一覧がびっしりと書かれていた。
「い、いつの間に……」
「ミークは、誰かと違いずっと寝てないからなァ。暇がありゃ、ギルドで金を稼いでんだよォ……一マニエ足りとも家に収入は入ってきてねぇがな」
「ぶい」
指でピースを作るミーク。
大方、お菓子を貰いに行っているという気分なのだろうが、家にお金を入れて無かったら、まだ立場は同じなので、悲観はしない。
「ミークはまだいい。ちゃんと言えばどうにかなるだろうからなァ。問題はテメェらだ。クラリムもリンドーも冒険者ギルドに登録して仕事探してこい」
「あー、冒険者ギルドねぇ〜。それはちょっと無理かも」
「あァ? また働きたくねぇってことかァ? ツベコベ言わずに登録だけでもしやがれやァ。叩き出すぞ」
ピリピリしている所、申し訳無いが、こればかりはちゃんとした理由がある。
「いや、そうじゃなくて。そのギルドって『果て無き大釜』ってトコよね」
「あ、あァ。この街には、そこしかねぇからな。それがどうした」
「それが、そのー、なんと言いますかー」
「俺とクラリムは出禁になっている」
もっとオブラートに包んで言おうと思ったのに、リンドーがどストレートに答えてしまった。
そんなことになったのも、借金騒動が終わってすぐのことだ。




