9-D 危険なワイバーンの倒し方
「おいおい、ムルムが十匹ったァ。豪華な群れだなァ、おい」
「最初の報告にあった残りか!」
「……ムルムに対抗出来る奴を先に倒しておき、確実に勝てる状況になってから、本命を投入ってか? 知らねぇ内に賢くなったもんだなァ」
ワイバーンが群れで行動している場合、ムルムという危険個体はいても一匹や二匹。
それが計十一匹。
明らかにおかしい。が、今は現状を打開しなければならない。
迫ってくるのも時間の問題。
近くにいる門兵を招集しても、彼らはムルムと戦った経験もないのだ。囮にはなっても大幅な戦力アップにはならない。
弓兵や魔法師を伝令として街へ送り、戦える団員を呼ぶ? 単純に時間が足りない。ムルムに防衛戦を突破され、街への侵入を許してしまう。
街に入れた所で、中にいる残りの団員が対処するだろう。
ただ、これは名誉の問題。騎士団長としての責任。
「一体や二体なら、なんとかなるんだがなァ」
先ほどのように、盾を利用した跳躍で倒せると言っても、そう多くはない。
他に手はないかと、思考を巡らす。
リンドーをチラリと見る。
「変な格好になる魔法を使った所で、跳躍力は増しても飛べはしねぇし」
脳裏に浮かんだのは蝶翅のドレス姿。
あの衣装を着た時のみに得た素早い敏捷力。しかし、アレだけでは決め手にかける。
次に見たのは、ミーク。
ミークに手伝ってもらう? あの衣装とミークの協力を得られれば、おそらく削りきれる。
ただ。
「それは、ねェな」
こんな注目されている場所でミミックを見せつける訳にはいかない。
クラリムがいうように、誰もが信じないような話だとしても、火の無いところに煙が立たないのと、同じで、僅かでもミークの正体に繋がる可能性を隠したい。
まだ短い時間だが、一緒に過ごす家族として、ミークをモンスターとして街のヒトの奇異の視線に晒されるのを良しと思わない。
「ドーゴン、全員連れて街へ戻れ」
「団長、まさか……いくら団長でもムルム十匹を一人では無理です!」
「いっそのこと、それがいいけどなァ……いいから行け。必ず、あそこの三人も連れて行けよ」
ムルム全員が自分に集中攻撃をしてくれれば、もっと多くを倒せるだろうが、そう都合の良い話はない。数匹はアタシを無視して団員を襲うか、街へ向かう。
「さてと、やるか」
迫りつつある、ムルムの群れに大剣を構える。
ふと気づく。自分の横にいる存在に。
「リンドー?」
濃紺のローブを羽織った男。目を瞑っても思い出せる、その立ち姿に見慣れない物が一つあった。
右手に持っていたのは、時計の中身のように機械仕掛けを思わせる大きな筒。
それはこの世界に相応しくないと断言出来るほど、歪な何かだった。
「撃つぞ。伏せていろ」
リンドーの言葉よりも先に、その手に持ったナニカが危険な物であると理解させられ、体は既にリンドーの後方に動いていた。
「決戦兵器起動……発射」
体全身が身震いした瞬間。
地上から星が天へと流れた。
一閃。
光を飲み込み、音を掻き消し、時間を置き去りにする一撃。
大剣を地面に突き刺してもなお、吹き飛ばされそうになる風圧。
視線を光へと向ける。
弓や魔法すら弾くムルムの鱗を一瞬で溶かし、跡形も無く吹き飛ばていく。ムルムは間違いなく、恐怖という感情が現れる前に死に絶えているのだろう。
数秒の轟音は訪れる数十秒の静寂を際立たせた。
大剣から手を離し、前を向く。そこには襲いくる者は何もなく、いつも以上に平原は平和だった。
「……終わったのか」
決戦兵器。
リンドーやクラリムから発せられた言葉がコレを指していることを本能的に理解した。
「よし、帰るか」
「あーあ、また、ぶっ放しちゃって。見てみなさい、ワイバーン木っ端微塵じゃない。これじゃあ騎士団が討伐したワイバーンの素材を掠め取って今日の食費にする作戦が台無しじゃない!」
「食べたかったのに……」
アタシの横を通り過ぎ、平然としているクラリムとミークの元へとゆったり進むリンドーを呼び止める。
「ちょ、ちょっと待て! 今のは、いったい?」
「魔法だ」
彼は当たり前だと。自分は魔法使いだからなのだと、含めたようにそう言った。
「こんな魔法があるわけ……」
「魔法だ」
「…………リンドーの魔法って、『変な着せ替えを強制する魔法』じゃなかったのかよ!」
「どんな魔法だ」
「違う違う、『生物の魔力をランダムに変換する魔法』よ」
「そんな魔法が、あの威力を……」
「それも違う」
「違うって言ってやがんぞ」
「……理解しようとしちゃダメよ。『モンスターから人型を取り出す魔法』でもあるから」
「どんな魔法だよ」
光を見て、アタシの頭の中も、光の跡と同じ様に荒廃していた。
もう、何も考えられなくなっていた。
理外のもの。異世界のナニカ。
だから、これは理解できないことを理解したらいいだけ。
「ってなるかァァァァ!」
アタシは天高らかにそう叫んでいた。
「ストーナ」
橙の瞳がアタシを見つめる。
リンドーは大事な話をするような雰囲気を醸し出し、単語を落とした。
「忘れ物だ」
そういって、アタシの前に突き出されたのは風呂敷に包まれた四角い箱。
その物体には見覚えがある。
「…………弁当」
アタシが忘れたソレを届ける為に、騎士団屯所まで行ったんだぞという風に渡される。
ワイバーンがどうとか、決戦兵器がどうとか、きっとリンドーの中ではどうでもいいことで、アタシが悩んでもどうしようもないことで、ただ今は、この弁当の方が彼の中では大事なのだろう。
変な奴。アタシがそう思うのは不自然だろうか。
「あー! お昼ご飯あるじゃない!」
「ごはん、ごはん」
「ストーナー、分けてぇぇぇ」
群がる金欠と大食漢。
だだっ広い草原で、弁当を広げ、一つのフォークを回して、一つの弁当を四人で分ける。
このあと自分に降りかかってくるワイバーン関連の報告や、全住人が感じただろう決戦兵器の説明等々、とんでもなく忙しくなる仕事を予感しながら、冷めた弁当の味を噛み締める。
忘れよう。
こんな世界を滅ぼしてしまうような破壊力を持ったヒトがアタシがいる街にいると思うだけで、一生不安になってしまう。
だから、忘れることにした。
そして、リンドーの魔法を見ずにすむよう、もっと鍛えようと心に誓うのであった。
◇
「……………………ナニアレ」
「さぁ、なんでしょうな」
「アレが神クラリムと神使リンドーで間違いないワケ?」
「ええ、そうでございます。赤白の女がクラリム、黒髪の男がリンドーでございます」
「どうやら力任せって訳にはいかないようね。まぁいいわ。このままサブプランを続けるだけよ」
「魔王様……どうかお待ちください。必ずや、あの二人に裁きの鉄槌を。玉座を五つに割った者共にも同様の報いを」
森の木陰からワイバーンを殲滅した光を見ていた二人組は、笑い声と共に姿を眩ませた。




