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変な魔法使い、異世界に行く  作者: 八艘宗八
第2章 果汁100%! パン屋と四天王とワイバーン~至高の一品を求めて~編
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9-B 悩みの3粒

 早歩きが、駆け足となり、ダッシュになる頃には、嫌な予感が頭を巡り回る。

 バン、と屯所の受付兼待合スペースへの扉を開けた。


「ねぇねぇ、この騎士団さぁ。アデレネス教の信者とかいない?」

「あっ、僕、アデレネス教徒です! もしかしてお姉さんもなんですか?」

「へぇー、そうなんだぁ〜。貴方、アデレネス教徒なんだぁ〜。そっか、そっか……じゃさ、とりあえずお財布持ってこよっか」

「えっ、それは、どういう」

「ここに()がいるってことはさ、分かるわよね……お賽銭、出さなきゃ、バチ当たっちゃうよ。天罰バリバリに決めちゃうよ。大丈夫、そんな何億とか言わないって、とりあえずリンドーに返さないといけない3000万マニエで十分だから、ね」


 財布には入ってないであろう巨額をお賽銭と言い張る、神を自称する女のカツアゲを見た。

 それは赤と白の二色の絵の具を使って描かれたような色合いの戦士服の女性。


「お菓子、ちょうだい」

「きゃあ、かわいい〜。はい、これどら焼き」

「ありがと」

「他にも飴とかクッキーもあるよ。何食べたい?」

「うーん、金貨」

「えっ、金貨? お、お小遣いかな〜、何か買いたいの? お貸しなら銅貨でも買えるわよ?」

「金貨のほうが、おいしい。宝石でも、可」

「金貨はちょっと…………えっ、食べるの?」


 お菓子から宝石まで好物をせびる、少女のカツアゲを見た。

 それは宝箱を背負った白い短髪の少女。


「あのすみません。こちら立ち入り禁止ですので。これ以上進まれるのはちょっと」

「そうか。なら、お前がこの先に保管されている本を取って来てくればいい」

「あのきっと探されている本は禁書なので、勝手にお貸しすることは出来ないんです」

「そうか」

「あ、あの、そこで待たれても」

「そうか」

「いえ、ですから……あの」

「いくらだ?」

「えっ」

「いくらなら、その禁書を横流しする。ちょうど魔王から報酬を得たばかりだ。言い値で買ってもいい。いくらだ」

「はい? 魔王? はい?」


 国家の組織である騎士団が保管する禁書を金で強請る、男のカツアゲを見た。

 それは濃紺ローブに黒髪橙瞳の男。


 それぞれ困った顔を浮かべる騎士団員は全てアタシの部下。

 そして、逆に欲に走る不審者は、アタシの追加家族。

 その家族達は、団員達の助けを求める視線に気づき、アタシへと視線を移す。


「あっ、ママだ! ママ〜、お金ちょうだーい」

「ママ。ごはん、まだ?」

「ストーナ。今日帰る時に、ここの禁書持って帰って来てくれ」


 ママ。母親の意。

 その言葉に反応して、騒ぎを聞きつけ集まりつつある団員達がアタシを見つめる。

 ヒソヒソと聞こえる、噂話はアタシが今まで気づき上げた信用を容易に失墜させるものであった。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」


 アタシは絶叫を上げ、家族三人の体を抱き抱え、自室へと帰還する。


「だんちょ——」

「邪魔ァ」

「え、ちょ——」


 まだ茶菓子を食い、茶を啜っていたバンダナ男を追い出し、アタシは鍵を閉め、窓にカーテンを掛ける。


「ここでは騎士団長と呼べやァ! そもそもアタシはテメェらのママじゃねぇだろうがァ」

「ママ! なんで私だけにアイアンクローしてるの。痛い痛い痛い痛い痛い痛い」

「アタシはテメェのママじゃねぇ」

「家じゃママって呼ばせてくれてるのに」

「家でも呼ばれた記憶も許可した記憶もねェ。勝手にママって呼ぶなァ」


 家族一号クラリムから手を離し、ソファへとぶん投げる。

 拳を重ねポキポキと鳴らしながら、家族二号ミークへと近づく。


「よし、次。ミーク、テメェもアタシのことママって呼びやがったな? 覚悟は出来てんだろうなァ?」

「クラリムが、言えって言ってた」


 ミークの指先がクラリムを捉える。


「たーいむ。ミーク、こっち来なさい……それは言わないでって約束したわよね。金貨一枚で手を打ったじゃない!」

「渡されたの、銀貨」

「…………そうだっけ?」

「うん」


「よぉーし、クラリムへの追加制裁は後でやるとして、ミーク、なんだって?」

「ごはん、まだ?」


 それは何ご飯を指すのだろうか。朝昼晩と複数あるが、今の時間帯としては昼。

 もしや、アタシも諦めた昼ご飯を求めてわざわざ騎士団屯所くんだりまで出向いたというのか、この子は。


「ん? 一応、聞くが、今日の昼飯当番は誰だァ?」

「わたし」

「そォだよなァ。サボったのか?」


 ミークはミーク自身を指差す。

 そう、ミークが今日の昼当番であることは間違いない。今日は、朝がリンドー、昼ミーク、夜アタシで、残りの家事はクラリムだったはず。

 だとすると、単純に面倒だから昼当番を放棄したという話になる。


 ミークはもじもじと体を揺らせながら、ゆっくりと言葉を紡いだ。


「ストーナの、ご飯、おいしい。いつも、ありがと」

「……そいつァ、嬉しいが。だからってルールは破っちゃダメだよなァ?」

「でも、食材、買う、お金、なかった」

「あぁ? 当分、騎士団の仕事が忙しくなるから渡す暇が無いかもっつって、置いてといただろォ?」


 置いた。確かに、皆んなが寛ぐリビングルームの机に一週間分くらいの食料を買えるだけの金を置いたず。


 まだ置いて、二日も経っていないし、ここ二日の料理が特段豪華だった訳でもない。


「クラリムゥ?」

「違う違う! 私じゃない、気付いたら無くなってたの! 私、しらないから!」

「リンドォー?」

「食費程度の金を横領しても、本は買えん」


 盗みを疑い怪しげな人物に声を掛けるが、犯人は名乗り出ず。

 となると、残りは一人。


「まさか、ミーク、食べてないだろうなァ?」

「……しらない」


 ミークは体を硬直させ、アタシから顔を逸らした。

 黒。

 犯人は自分から尻尾を出した。


「……とりあえず、そこの茶菓子食っとけ」

「うん、ありがと」


「最後、リンドー」


 ミークが摘み食いした金の問題は後回しにして、家族三号リンドーに向き合う。


「なんだ」

「……………………」


 アタシに呼びかけられて真っ直ぐ向けられた、綺麗なオレンジに燻んだ黒を薄く塗った瞳がアタシの瞳と視線を交わす。

 カッコいい。

 優雅さがある端正な顔立ち。

 背丈はアタシが高いこともあって、そんなに変わらないが、比較的上背があり、すらっとした筋肉質まではいかない、痩せ型の体型。

 唯一、整えられた身体から飛び出ているハネた髪は可愛らしさを印象つける。

 当たり前のように騎士団長の椅子に腰掛け許可無く紅茶を嗜むといった、ちょこちょこ見られる奇行や言動に目を瞑れば、カッコいい部類に入る見た目。


「おーい、ストーナ〜、貴方顔赤いわよ。風邪でも引いたの〜」

「ち、ちげぇよ」


 アタシの心を読んだようなクラリムの棒読みの言葉がアタシを戻す。


「なんだ。あー、禁書を買うとか言ってやがったな……は?」

「買えるなら買う。買えないなら、騎士団長の権限で持ち帰ってきてくれ。書かれている内容も気になるがコレクションに加えたい」


 リンドーのコレクション。それは本棚に並べられた本の数々。

 掃除等で彼の部屋に入ったことがあるが、驚くくらい本しか無かった。

 一脚の椅子を除けば、インテリアは本棚のみ。ベッドの一つもない。それくらい割り切った本好きだった。


「売らねぇし、持ってもかえらねぇよ。禁書だっつてんだろゥが! 持ち出し禁止、閲覧禁止だっての」

「金はいくらでもあるが」

「だから、そういう問題じゃ……なんで金持ってんだ? 働いてないよな?」

「そうよ! そんなお金どこから拾って来たのよ」

「ベルーニャのパン屋の業績向上の報酬と魔王軍に卸した武具のマージンだ」

「えっ、私貰ってないんですけど」

「俺は自分の分の交渉をしただけだ。クラリムの分は知らん」

「クソ、だからパン屋ちゃんを手伝ってたのか! アンタが善意だけで動くとは思ってなかったけど、まさかそんな金儲けを裏でしていたなんて……」


「たまたま使えるパーツが揃っていただけに過ぎない。それに魔王と話すついでだった……」


 直接は関係ないが、人族の騎士団長として聞いてはいけない話をしている気がする。

 少なくとも、魔王軍に武器を卸す。というワードは耳にしてはいけなさそう。

 あと魔王と関係があるみたいなワードも。


 この二人の魔王軍関連の話をどう止めようか思案していたが、全く別の角度からの言葉が話し合いを止めた。

 数上のノックの後、開かれ入ってくる一人の団員。


「団長! お話中の所すみません、報告です!」

「なんだ?」

「この街へ向かって来るワイバーンの群れを発見。門兵では手が足りないということで救援要請が入ってます」

「数と種類は?」

「数は三十前後、種類はブリッドかと思われます」


「三十もいるのにブリッドだけか?」

「えぇ、見張りの報告ではそのようです。ムルムやアンクーラといった危険個体は見られていないようです」


 確かに、三十ものワイバーンが街に入ろうとしているなら、門兵や街を巡回している団員では手に追えない。


「分かった。対空戦闘が出来る団員を十名選抜しろ。アタシも出る」

「団長自らですか?」

「見えねぇだけで、ムルムとかが一匹ぐらい混じっているかもしれねェからな。念の為だァ」


 これは方便。

 アタシ一人参戦しようがしまいが、乗り越えられる危機。

 ただ書類仕事で体が鈍ってしまっているので体を動かしたいのと、降って沸いたストレスを発散したいだけ。


「残りはラクロットの指揮に入り、防衛及び避難誘導の準備をしておけ。夜番だったものを除き、休みの奴らを叩き起こして、事に当たれ。以上だ。行け」

「ハッ」


「悪ぃが急用が出来ちまった、すぐに戻ってくっから、ここで待ってろ」


 駆けていく団員を見送りながら、我が物顔で寛いでる三人に声を掛け、立てかけていた大剣を持ち部屋を出た。

ご覧いただきましてありがとうございます。

毎日更新となっております。次回の更新をお待ちください。

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