7-D 怪物貴族と魔法使い
見慣れた魔法使いが、幽霊屋敷で『首無し(胴)』とトランプをしていた。
「リンドー」
「ミーク」
「腹減ったか?」
「うん」
「そうか。食べるか?」
「うん」
「……無駄会話過ぎて、怖い」
必要最低限の会話しかしない兄と妹みたいな構図。
おやつとして金貨を渡しているのが歪であることを除けば、微笑ましいっちゃ微笑ましい。
いや、そんなことはどうでもいい。
「街の探索とかなんとか言ってたのに、なんでこんなとこにいんのよ」
「例の植物型モンスターに関する一連の事件を調べていた」
トランプを首無し(胴)に切らせながら、そう返答してきた。
「植物型モンスター? ……あぁ、あの私たちの借金の奴? あれって解決したんじゃないの? モンスター育ててた奴も売ってた闇教会も捕まったんだし」
「……生産、販売とくれば、次は購入。誰が何の為に、あの植物型モンスターを街に持ち込んだのか。それを把握しなければ、事件解決とはいえないだろう」
「へぇー、そんなの騎士団に任せればいいじゃん。仕事なんだし。教会のは借金返済の為に動いてたとしても、ここまで関わること無いんじゃ無い?」
「ストーナの家から始まった事件だ。面倒であること、この上ないが、犯人の一人とストーナが関わってしまっている以上、最後まで終わらせないと気に食わん」
「アンタって割と面倒見いいわよねー。メチャクチャだけど」
正義感だとか街に蔓延った悪を根絶やしにするだとかじゃなく、ただ身内が関わってしまったから、なんとかしたいと言った所だろうか。
リンドーの考えていることの多くは分からないが、そういう人情味がある所は素直に、いいなと思った。
私、巻き込まれてばっかだな。一切関わろうとしてないのに。
「じゃ、もしかして、ここが?」
「あぁ、そうだ。奴らが商品を運んでいた場所だ。実際に訪れてみたはいいもの、あまりに霊障スポットだったので、帰ろうとした。しかし、この首無しと遭遇してしまい、気づいたら、この部屋で眠っていた」
「この御仁が急に倒れたから故、介抱し部屋に運んだ、らしいですな」
胴体の身振りを翻訳するチョビ髭頭。
そういえば、リンドー、私と同じで怖いのが苦手って言ってたような気もする。まさか、幽霊屋敷の前で『首無男爵(胴体)』と出会い気絶したのか。
ぷぷぷ、それはそれで、ちょっと見たかったかも。
怖くて部屋から出られなくなったという所だろうか。
「んで? 私達が来なかったら、どうするつもりだったのよ」
「このまま勝ち続けて、この首無しに俺を家まで送り届けさせる予定だった」
それでトランプ。
自分を拘束したかもしれない、モンスター相手にトランプ勝負。
うん、やっぱりこういう突飛な考えは理解できそうに無い。
「もし勝ったとして、どうやってコミュニケーション取るつもりだったのよ……まぁ、いいや。で、一応聞いておくけど、この首無しがチョビ髭頭の探し物で間違いないの?」
「えぇ、えぇ、もちろんでございます。クラリム様。このものこそ、吾輩の体! 吾輩の唯一無二の相棒にして生涯を共にするパートナー。おお、胴体よ、探したのだぞ」
バスケットボールのように、胴体に頭をクルクルと回されながら話す頭。
仲が良いというより、扱いが雑に思える。
「なぜ、頭を捨てたのだ?」
突然、首無し(胴体)が手を止め、カタカタと震え始めた。
「ん? どうした、何を怯えておるのだ……帰れ? それはいったい?」
チョビ髭首が眉を潜めたその時、大きな音が鳴り、扉がバンと開け放たれた。
そこにいたのは、不思議な格好をした人物。
どこが不思議かと言うと、頭。
カボチャの中身を全て抜き、目や口といった部位のみ繰り抜いて出来たソレを被り物にした貴族服の人物だった。
「ふふ、ふはははは。よもやよもや、僥倖とはこういうものを言うのだな。探したぞ! 『首無し男爵』ベドウィック=オム=ウェネスタよ!」
「き、貴殿は」
「ふはははは。懐かしかろう懐かしかろう。こうして顔を突き合わせて会うのは何十年ぶりというものだからな」
声からして男。
カボチャの被り物かと思ったが、目と口から黄色い光が漏れ出ているので、なんか違いそう。
「どなたでしたかな?」
「……『怪物王』に仕えし『怪物貴族』が一人、『かぼちゃ子爵』ナンキュ=オム=ファードである! この顔を忘れたとは言わさんぞ!」
カボチャ頭はカボチャを指差しているので、やはりアレが顔のようだ。
増えた。
モンスターかー。この屋敷に入ってから、よく見るな、ほんと。
元凶の方をチラリと見つめると、チョビ髭頭はチョビ髭を胴体に触らせ、頭を悩ます素振りを見せていた。
「うーむ」
「この見た目で忘れてあげたら可哀想じゃない」
「そう言われましても、『子爵』は何度も入れ替わりが激しかったので……会ったと言われれば会ったのであろうし、会ってないと思えば、会ってないのでしょうし……」
「がんばれ」
「うむ。思い出すのは、無理のようですな。申し訳ない」
ミークの小振りな応援虚しく、感がるのを辞めたチョビ髭頭。
「我を忘れるとは老いたな、『首無し男爵』よ。共に『怪血王』の復活を誓い合ったというのに、なんたることか……」
「そうなの?」
「『怪物王』がお亡くなりになられた頃はそういう時期もありましたが、今は特にそういう訳では。魔王様も何度も入れ替わられるのも、自然ですしな。一人が永遠と国を治めるのは土台無理な話。盛者必衰の理でございます」
「ふらっしゅ」
「残念、フルハウスだ」
リンドーまだトランプやってるし、いつの間にかミークも混ざってるし。
いいな、混ざろうかな。
「忘れてしまったものは仕方あるまい、ならば今からでも我が計画に加わらぬか? 『怪血王』を復活させ、この世を手中に収めるのだ!」
「いや、吾輩今の生活で満足しておりますので、急に領土が増えても困ります」
「モンスターだけの世界が必要だと思わんのか!」
「吾輩は確かにモンスターではありますが、世界とは生きとし生けるものが協力し合ってこそ繁栄を齎すもの。独善的な世界に魅力はございません」
「わんぺあ」
「ロイヤルストレートフラッシュ」
無駄運過ぎる。
勝ってるのに、勿体無い気分になるやつだ。
「ミーク、連続で負けちゃって頬膨らましてるし。手加減してあげたらいいのに」
「手加減した後、真剣にやって負けると百倍悔しい。だから手加減はしないようにしてる」
「おい、そこ! 話に参加しないか!」
「死んだ魔王になど興味が無い」
「大富豪しない? 四人いるし」
「頭(吾輩)と胴体(吾輩)のタッグということですな。『首無し男爵』の実力をお見せいたしましょうぞ」
私たちはテーブルを囲むと、たどたどしくカードをシャッフルしたミークが配るのを待つ。
ハブられたのは一人、カボチャ頭の男。
「舐め腐りよって。もうよい、もうよいわ。ふふ、ふはははは。残念だったな、黒髪のヒトよ。『怪血王』の復活は未来にあらず、今この時をもって果たされるのだ!」
カボチャ頭は両手を広げ叫ぶ。
「この屋敷にいるすべてのモンスターを生贄に捧げ、『怪血王』を復活させる。その為に各地を回り『怪血王』の血が濃いモンスターをこの屋敷に集めた。そして、『怪血王の血』を濃くする為に、モンスター食を開発したのだ。ウルメラに出現した植物型モンスターも、この計画の一端だったのだ」
ジョーカー、キタァァァァ! この勝負貰ったわ。
「モンスター食を全て食わせた訳では無いが、『首無し男爵』、それとそこのミミックも合わせれば、『怪血王』は必ずや復活を果たされる」
ちょっと待って、ジョーカーあるけどペアないことある? 大富豪でペアないとか、やってられないんだけど。この世界の地域ルールってなんだろ、『縛り』とか『階段』とかないとちょっとなぁ。
ジョーカーあるのに、あんまり強くないし。
よし。
「なんですって、ミークを生贄にするですって!? それは困るわ! 強い手札だったのは勿体無いけど、大富豪は一旦辞めるしかないわね。チョビ髭首の体も見つけたんだし、さっさと逃げましょ。一人回しになっちゃうくらい強かった手札だったけどね!」
私はカボチャ頭の話に乗っかった。
私が反応を示したからか、カボチャ頭の声が弾む。
私を見つめる他の三組の目が冷ややかなのは、何故だろう。
「逃げようとしても、もう遅い。『悪魔の悪戯か、怪血王への生贄か』!」
カボチャ頭がそう叫ぶと、部屋の天井が煌めき、何やら魔法陣のようなものが出現した。
「ふはははは。今、発動させた魔法陣は、この屋敷にいるモンスターから怪血王の血を抜き取る魔法よ。この屋敷にいる限り、絶対に逃げられはせぬ。ジワジワと血が抜かれていく恐怖を味わうが良い!」
勝ちを確信したように高笑いを続けるカボチャ頭だったのだが、
「……………………………………………………なにも、なさそうだけど」
「待て! 待て!」
いや、危ないんだったら逃げるけど。
いくら待っても、ミークもチョビ髭頭も平然としていた。
「あれぇ、おっかしいな、ちゃんと用意して、リハーサルもやったてのに」
カボチャ頭は天井の魔法陣を部屋に落ちていた箒で小突くが、何も起きない。
「おい、お前」
困り果てたカボチャ頭に手を差し伸べたのは一人の男。
「お前だ、ちょっと来い」
「はい」
「この魔法陣だが、この部屋にある大魔法陣と各部屋にある小魔法陣で形成されたものだな」
「はい……よもや、き、貴様が破壊したのか!」
「不恰好、稚拙、不安要素多数……実に、見るに耐えない。誰もが許そうとも、俺は許さない。だから、発動などさせるものか」
なんだろー、リンドーがファインプレイっぽいことをしているのに、素直に喜べない。
効果が分かったとか罠に気づいたとかじゃなくて、魔法陣が気に入らなかったから、壊したんだもんね。
というか、このカボチャ頭こんなに頑張った感出してたのに、話し始めた時から計画狂ってたの?
可哀想に。
「初めて作った魔法陣にしては評価するべきなのだろう。だが、一度や二度試した程度で、本番に使うなど、正気の沙汰とは思えん。何度も魔法陣を書き、何度も妨害のシュミレーションを行わなければならないのだ。だから今回のように、他者に干渉されるということになる。本当に『怪血王』を復活させたいと思っているのか」
「はい! 思ってます。けど、これでいけるかなって思ってました」
「……ダメだな。おい、特別講義をしてやる。一回で聞いて覚えろ。まず……」
そこから、私達が三人で神経衰弱をトランプでやり終えるまで、リンドーのダメ出しは止まらなかった。
魔法陣の構成方法、用意するべき物、様々な対策方法、気概等々。
リンドーが前にいた超魔法世界アゼアベングの魔法知識だったのだろう。
私は、耳にしただけで脳が理解を拒むような難しい単語が出てきた瞬間から、一切話を聞かず、その間、三人と神経衰弱を楽しんだ。
結果、二人分の力と言わんばかりに『首無男爵』が勝利を収めることとなるのだった。
ご覧いただきましてありがとうございます。
毎日更新となっております。次回の更新をお待ちください。
別で短編を一個書きました。ご興味があれば是非。




