6-C 救いの手は突然に
道端をふらりふらりと歩く。
早朝からか、人通りが少ない。
屯所の留置室に戻るために、もう一回、何かやらかそうかと思ったが、またリンドーの取り立て前に釈放されたら面倒なので、夜遅くに日が変わるか変わらないかでテキトーにやらかすことにした。
それまでは暇。
どうせ、今更、二千万なんて稼げる訳もないので、徘徊していたが、足も疲れたので、橋の上で腰を下ろし休むことにした。
空を見上げる、四羽の鳥が飛んでいた。
三羽は先に進んでいるが一羽だけノロマだった。ノロマな鳥は必死に三羽に着いていこうとするが振りちぎられてしまった。
ノロマな鳥は遠くに行ってしまった鳥を追いかける。もう点になるくらい先を進む鳥、しかし、ノロマな鳥着いて行こうとしているように思えた。
「諦めたらいいのに」
ノロマな鳥も見えなくなったので、視線を地上に戻すと、私を見下ろしていた女性がいた。
「迷える冒険者さん。どうされましたか?」
そう言葉を投げたのは修道服の女性だった。
◇
リッサと名乗った修道服の女性は、近くにあると言って私を彼女が勤めている教会まで案内した。
正直、急に声を掛けてきたヒトにノコノコ着いていくことは普段しないのだが、暇つぶしだと思い着いていく。
確かに歩いてすぐの場所に教会はあった。
少し古びた教会。何らかの神を祀っているようだが、いまひとつ、どこのかは分からない。
ウルメラという街は宗教を何か一つに絞っているという話は聞いていないので、弱小宗教の一派だろう。少なくとも私を信仰してくれるアデレネス教ではなさそう。
「あのような場所で蹲って、何かあったのですか? 宜しければ話して下さいませんか? 私、こうして、よく街で困っている少年少女の話を聞いているんです。今回も、もしかしたら何か力になれるかもしれません」
リッサは私を教会の長椅子に座らせる。
まるで懺悔のような相談会。
基本私(神)はされる側。
ちょっと新鮮だったので、私は促されるままに借金のことを話した。
「そうですか。それは大変な思いをされたのですね。突然負わされる借金ほど理不尽なものはこの世にないのですから……」
私の話に同調し、涙を流し始めるリッサ。
プロだ。
話を聞くプロじゃん。本心は知らないが、他人のどうでも良い話で涙を流せるのは話を聞く才能がある。
リッサは涙をハンカチで拭うと、少し待っているように言い、教会の奥へと入っていった。
少し待つとリッサは何か小袋を持って再度現れた。
「僅かではございますが、コレをどうかお納めください」
「えっ、これは……こ、こんなに?」
手渡されたのは金貨の入った袋。
すぐさま開け中を確認したが、これだけで100万マニエは下らないのではないだろうか。私が、一日頑張っても一切手が届かなかった額が入っていた。
リッサは私の頭を撫でながら、言葉を掛ける。
「困っている時は助け合いなのです。私も昔、借金取りに追われている日々があったので気持ちは痛いほど分かります」
ステンドグラスに差し込んだ光がリッサを包み込んだ姿を見て、
「……あぁ、神様ぁ」
そう言葉が自ずと出てきた。
私もまた神だが、下界の人々が崇める神とはきっと、こういう慈悲と母性に溢れたヒトを指すのだろう。
ただ、焼石に水なので、メチャクチャ嬉しいというほどではない。
どうせなら、二千万全額くれたらいいのに。
口には出さないが、一度簡単にお金を得ると欲が出てしまう。
「そうだ。もし宜しければ仕事を手伝ってもらえませんか? 頑張れば残りの負債も今日一日で返せるかもしれません」
私の気持ちを何か察したのか、リッサは助け舟を出してきた。
「そんなことが可能なのですか? 残りと言っても、二千万弱もあるんですよ」
「えぇ、大丈夫です。安心してください。貴方を神は見せてたりしませんよ。もちろん私もです。一緒に頑張りましょう」
「リッサ様ぁ」
ノリに乗ることにした。
なんか上手くいけば儲けもん。もし、失敗したら借金は踏み倒す。
これで万事問題は無い。
◇
リッサに連れられ、教会の奥へ入り、螺旋階段を降り、下水道のような場所をクネクネと進むと、開けた場所に出た。
地上から僅かに差し込む光と壁に配置された松明が部屋を照らし出す。
そこに広がった光景は、私よりもう少し幼い見た目の少年少女達が、包丁を片手に何やら緑の物体の処理をしていた。
「リッサ様。これはいったい?」
リッサは何も言わず、私を奥へ奥へと先導する。
仄かに照らされるリッサのの顔には笑みが張り付いていた。
もう完全に帰り道が分からなくなっていたので、促されるまま着いていく。
そうして、連れてこられたのは、2畳程の狭い部屋。
部屋にあるのは机と、いくつかの樽。
「何も考えなくてもいいのですよ、クラリム。貴方はただ運ばれてきた、物を梱包するだけでいいんです。1つやれば10万マニエ。たった200個やるだけで、貴方が必要な額に届きますよ。先ほど見えた子達も、少し借金をしているようで、ここには出稼ぎに来ているんです」
部屋の窓からは先程の、無心で腕を動かす少年少女の姿が見える。
三十人はいるが、この全員が全員、私のように借金をしているというのか?
口には出せないが、何やら怪しい感じがプンプンしてくる。
何かヤバい場所に来ちゃった? 黒い組織の黒い産業に加担されそうな。
私は机の横にある樽に目を落とす。
そこに入っていたのは緑の物体、それをバラしたであろう、葉っぱや茎。
その中には、どこか見覚えのある赤い花も。
ぱっと見、ほうれん草の梱包作業なのだが、私が思い出したのは、私が借金を負うことになったとある出来事。
「もしかして、これはモンス……」
「しぃー」
私の口はリッサの指で閉じられる。
そのまま、私の口を閉ざした指は窓を差す。その方向に顔を向けると、修道服を着た巨漢の男が鞭を持って、先ほどの少年少女の近く立っていた。
「おら、なに、チンタラやっとんのじゃい! さっさと働け、このゴミムシ共が!」
ビシッと地面を叩きつける鞭。
リッサは私の両頬に手を当て、顔を近づける。
「あの大神父様に見つかれば、貴方も解剖、されるかもしれませんよ」
ひっそりと、リッサは呟いた。




