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変な魔法使い、異世界に行く  作者: 八艘宗八
第1章 街での『平穏で優雅な』生活編
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5-H 身分証エピローグ

 そうして、迷惑男ジハルなる男は逮捕された。

 一応聴取という名目で、私達は騎士団屯所で泊まらせて貰い、次の日の朝、無事私達の容疑も晴れたということで、釈放された。


 私達は、騎士団の前にある喫茶店でブレックファーストを嗜んでいた。


 私はこの店で一番高かった紅茶を嗜み、リンドーはブラックコーヒーを喉に通す。ミークは皿にふんだんに盛られたアイスを頬張っていた。

 お会計は誤認逮捕のお詫びも込めて、騎士団が持ってくれるということなので、気にしない。


 一件落着、万事解決、と行きたい所だが、まだ解決していない問題が一つ残っている。


 身分証を手にいれる為に、リンドーが考えた策だ。


「で、どうすんのよ。ストーナとは。このまま戸籍に入れてもらうの?」


 昨日のドタバタ後、ストーナは忙しく事後処理に終われ、一晩経ってもまだ進んではいなかったのだ。

 今、こうして街に滞在できているのは、騎士団に発行してもらった一時滞在の許可証のお陰。


 これを使い、冒険者ギルドで身分証を作れば、なども思ったが、どうやら行ける範囲にも限りがあるようで、身分証の件は何一つ好転する気配が無かった。


 つまり、他の解決案が無ければ、街から出て行かなければならなかった。


「昨日の夜、ストーナと話した」

「えっ、そうなの? いつの間に」

「どうやら、家には帰れなかったらしくてな。部屋に来た」


「部屋に、来た?!」


 それって夜に這い寄り、寝床を共にするというディープでアスレチックな奴なのでは。


 いや、ないか。

 あの子、リンドーと正面切って話せなかったし。


「で、何を話したの?」

「全部だ」



 昨晩、騎士団屯所の仮宿にて。


 リンドーと結婚の打ち合わせに来たストーナ。

 部屋に入った時は顔を赤らめていたストーナだったが、リンドーから事の経緯を聞くにつれ、どんどんと顔は普通の色に戻って行った。


「なんだそォーいうことかよっ、なんだ、ガチでアタシに求婚したのかと思ったぜ。神にミミック、んで異世界の魔法使い。確かにそりゃあ、身分証なんざ持ち合わせちゃいねぇわな」


 ストーナは自身の勘違いに再度赤面しつつ、少し肩を落とす。


「そのまま、アタシに勘違いさせてりゃ、楽にこの街で過ごせたっつうのに。なんで馬鹿正直に言ってんだよ」


「勘違いでも、俺の事を好きでいてくれているのが嬉しかったからだ」


「えっ?」

「勘違いから始まる『何か』があるのかもしれない。だが、俺だけがその勘違いを認識していたのなら、それは勘違いではなく、嘘や騙りになる。嘘や騙りを俺の事を好きになってくれたヒトに利用するのは違うと思った。だから、過ちになる前に正しただけだ」


 リンドーはクラリムの諫言を振り返る。

 ストーナの好意はそういう性格で、騙しているなど微塵にも考えていなかった。もし、クラリムに言われていなかったら、本当に勘違いにさせたままストーナを裏切るようなこともあったかもしれない。


「……じ、実はアタシのことを好きだったり?」

「それはない。見た目や言動、立ち振る舞い、不屈の精神等、凡そは好ましいと感じるが、そこで心の底から好きだと断定することはない」


 まるで機械の返事だなと思いつつも、ストーナは疑問を呈する。


「それで好きにならないんだったら、どこで好きになれんだよ」

「さぁ? 考えたこともない。好きになるのに理由は必要なのか?」


 リンドーは真顔でそう言った。

 ストーナは思わぬ言葉でキョトンとした顔になる。


「あはは。変わったやつだな、テメェ……あーあ、勿体ねぇなァ」


 月明かりに照らされた、ストーナの横顔はどこか寂しげであった。

 勘違いから始まる物語があったのなら、それでもいいとストーナは思う。だが、それは今、無くなったのは理解していた。


 控えめに言っても恋愛脳気味である彼女にとって、これは『運命の出会い』と思えるものであったが、今までにも沢山の『運命の出会い』を経験してきた彼女にとって、今回も、叶わなかった恋の一つに過ぎず、諦めることは難しくなかった。


 そもそも三日以上続いたことがないのだが。


 それはそれとして、


「それで、全てを話した上で、俺達と家族になる気はないか?」

「……すっげぇ。この流れで、平然と言うんだな、ソレ。悪い、それは出来ねぇ。アタシのことを好きでも無い奴に貸す部屋はねぇよ」

「……そうか」


 リンドーも了承を得る確信があったのではないだろう。

 その顔はどこか寂しげで、思わずストーナは言葉を裏返しそうになったが、ぐっと堪えた。


「もし、アタシの事を好きになったら考えてやる。安心しな。今回の礼として、身分証はなんとかしてやるよ。こう見えて国を守る騎士団長だからよォ。それぐらいのことは訳ねぇてなァ」

 そう言った声には張りがあった。

 リンドーに顔は見せない。虚勢と堂々、あっけらかんが混じったような声だった。


 そう、諦めるのは難しくはない。心の中で引き摺るだけだとしても。



「といった訳だ」


 リンドーの回想を聞いて。

 ちょっと可哀想だが、勘違いのまま話を拗らせるよりかは良かったと思う。


 今までも変な男が寄って来てたらしいし。いつか普通の男が現れたら、きっと幸せになるだろう。


 少しの間だったが話した仲だ。素敵なヒトが現れて星欲しいと私(神)の幸運に祈る。


「なんだ。それじゃあ、身分証なんとかなったんだ。これで全部の問題が解決。強いて言うなら住むところの心配ぐらいだけど、これから冒険者ギルドで登録して、コツコツ地道に稼いで宿借りたり空き家探して買えばいいわよね」


 リンドーの面倒臭いを体現した顔。

 その顔、ヤメロ。大したお金ないんだからコツコツやるしかないでしょーが。


「で、その身分証は? 持ってないわよね。まだ準備中とか?」

「断った。いらんと言ってな」

「……」


 言葉に詰まる。

 ダメだ。なんだろう。神の直感がいつもの変な魔法使いの真骨頂を予感させる。


「ナンデェ? それさえあれば、この街で過ごせるじゃない」

「今更、身分証の一つ手に入れた所で何になる。全てが上手くいけば、家も手に入り仕事もせず養ってもらえるはずだった。だと言うのに、何故、コツコツ働かなければならん」

「ストーナを騙さないって決めたんだからどうしようも無いでしょうが」

「安心しろ。手は打ってある」


 リンドーの冷静な声に呼応するように、遠目に見えた騎士団屯所の入り口から一人の人影が接近してきた。


「て、テメェ! こんなとこにいやがたのか! 探したぜ。こ、これはいったいどういうことだ!」


 現れたのはストーナ。まだ勤務中なのか、パンクな私服ではなく、騎士姿。

 手に持っていたのは一枚の張り紙。私はその紙を読むように顔を近づける。


「えー、なになに? 違法植物事件による被害を補填致しますので、騎士団長ストーナまでご連絡ください……何これ? どこか変なの?」


 ただの騎士団からの『お知らせ』に見える。


騎士団アタシらはこんな張り紙を作ってない! そもそも騎士団は被害を抑える組織で、被害を補填するのは役所の管轄なんだ。なのに、そこの男が勝手に作ってバラマキやがった」


 噛み付くように私の疑問を答えるストーナ。


 何してんだ、リンドー(コイツ)


 そういえば、私が朝起きた時には、リンドーは身支度を終え、外で待っていた。

 下手したら徹夜で張り紙を作り、街中にばら撒いたということか。


「ばら撒いた量も量で、今日の朝からひっきりなしに被害を訴える住民が後を立たねぇ。何故か、家に置いてあったはずのアタシの捺印も押されてるから、嘘だったと言うことも出来なくなっちまてんだ」

「被害総額は?

「6000万マニエだァ」

「……わぁーお」


 どうやら、家が何軒もリフォームしなければならないほどの被害が出ているようだ。

 途中から外を見てないので詳細は分からないが、結構長い間外で瞳を持った赤い花が泣き、モンスターを量産放出放していたとすれば、そういうこともあり得るのだろう。


「どうしてくれんだよ! このままじゃ、責任を取って、アタシが払わなくちゃならなくなっちまう。いくらなんでも、こんな額、払えなねェぜ!」


「被害にあったものに泣き寝入りしろとでも言うのか? 被害を訴えるものは何も悪い事をしていないというのに? 被害を出した者が責任を負って弁償するのは当たり前だが、それが出来なくなって、はい、おしまいでは納得がいかんだろう」

「それはだから、」

「だから、少しでも事件に関係があり、被害を出すことになった原因を作った被害を補填出来うるヒトに払わせるのがいいだろう」


 怒りと困りが混じり合った、その表情に、リンドーは絡み付く。


 ストーナがジハルを最初から怪しい人物だと気づいていれば。ジハルが事を起こす前に、ストーナが家に帰っていれば。それこそ事件が起こってすぐに、家を燃やしていれば、被害は広がらなかったかもしれない。

 ジハル(犯人)が百悪いとしても、街に住むヒトには関係がない。お金をくれるのなら、悪人だとうが善人だろうが、興味はない。


「なんで、そこまで」


 ただ、何故、この街の住民でもないリンドーが、この街の住民の味方をするのか。


 正義の心? 哀れみ? そんなものがリンドーにあるのか?


 その答えは。


「そこで、一つ提案がある」


 コーヒーをすっと、テーブルに置き、狼狽するストーナに向き合う。


「俺達三人と家族となると言えば、その借金、四等分してもいい。もちろん、家の改修工事費用も含めても構わない。これから住むことになるだろうしな」


「「は、はああああああああああああ?」」


 私とストーナの絶叫は街に響き渡る。


 そう答えは、ストーナの家を住居とする為に、ストーナに借金を負わせる為。

 しかもその借金を肩代わりをするという条件で。


 金が無いから、タダで手に入る家が欲しいのに、わざわざ借金を増やすと言う謎。


 そうして、リンドーは正論や脅迫まがいの暴論を並び立てた結果。


 リンドー=エル=ヴァルデエランデ、クラリム=エル=ヴァルデエランデ、ミーク=エル=ヴァルデエランデ、ストーナ=エル=ヴァルデエランデという、家族が誕生した。


 そう、いつ何時も忘れてはならない。

 この魔法使いは変であることを。



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