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変な魔法使い、異世界に行く  作者: 八艘宗八
序章 『変な』魔法使い、異世界へ
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1-B 世界を救う勇者の召喚

 カラオケボックス程度の縦長の小部屋。

 部屋にはあるのは壁際にある黒塗りテーブルのみ。


 いや、厳密には壁と天井には本棚が埋め込まれていて、ファンタジー図書館じみてはいるが、何分狭いので凄さが足りない。入っているのも、異世界の郷土史や分厚い歴史書なので味気ない。

 後は、足元に書かれた此れ見よがしな魔法陣。特に意味はない。ニホンの漫画を読んで、あった方が良いと思ったから書いただけ、意味も効果もない。


 これが異世界救済斡旋事業所の、異世界案内ガイドの仕事部屋。

 ここで異世界へ送り込む転移や転生を行なっている。長時間いないので、飲み物一つ無い。


 一応、昇進すればコレが高級マンションのリビング程度の広さの個室が与えられ、好きな物飲み放題、食べ放題、漫画や雑誌は毎週新しいのが自動追加、疲れたらマッサージしてくれる天使が付く。正に天国対応。


 ()にとっての極楽。もはや、コレの為に頑張って来たと言っても過言では無い。

 それに足が掛かっているので、ウキウキが止まらない。

 まぁ、未来の事は置いておいて。


「……魔希薄世界スカベルム」


 テーブルに置かれていた資料を手に取り捲る。

 上司こと所長から渡された、今回の派遣先(目的地)

 一応、先週の間に資料には一通り目を通していた。

 魔族を統べる魔王が世界を滅ぼそうとしていて、人族は世界を救う勇者を求めている。

 それだけのオーソドックスな世界。


 魔王は魔王軍なるものを指揮し、人族魔族問わず敵対する者を悉く滅ぼした。幾万もの死体の山の上で笑い、殺した強者の頭蓋骨を自室に飾っているという。

 魔を倒し、人を救う。疑問の余地がない、神のお仕事。


 私は、手に持った資料をテーブルに戻し、今度は壁の本棚から青いラベルのバインダーを取り出す。

 それをパラパラと捲っていく。

 これは今回送り込む候補者のリスト。

 休みに入る前に候補を五人程に絞っていたので、後は今回の世界にあった適格者を選定する作業をして、召喚するという流れなのだが。


「よーし、いたいた」


 私は、とあるページで手を止めた。

 そう、もう送り込む人は決めていたのだ。


「魔法使いリンドー。超魔法世界アゼアベング出身。十八歳、男。戦闘経験及び魔法指南経験有りの即戦力。死んでいないし、魂の穢れも控えめ、免許証の裏に転移同意の丸もしている」


 定番で行くなら、私と同じ神聖魔法が使えて高い身体能力がある勇者適正のある者を死んだ魂からピックアップしたり、転移交渉したりするものだが、今回は魔法使い。

 詳細は分からないが、戦えるなら何でも良い。灼熱の火球を投げたり、何も無いところから水を出したり、木や土魔法でもオーケー。


 何故、魔法使いなのか、それは。


「『魔法使いフローラ・フレキシブル』面白かったなぁ。やっぱり氷の魔法が最強なのよねぇ。帰ったら見返そ」


 昨日一気見したアニメの影響……いやいや、仕事にそんな私情を挟んではいない。仮にも世界を救う為の人材を選定しているのだ。そんな雑な理由ではない。

 うん。一応、今回の世界は魔力が薄くて魔法使いが育たないから、魔法未経験の勇者候補より経験者の魔法使いが良いと思ったのだ。


「他の事務所にもまだ取られてないし、ウチからも打診は出してない。決まりね。サクッと魔王倒して、昇進昇進♪」


 私はテーブルの前に立ち、魔法陣に向かう形で一冊の本を構える。


「慈悲の女神クラリムの名で呼びかける。超魔法世界アゼアベングに住まいし、魔法使いリンドーよ。世界を救う意思あれば、この声に応えよ」


 私の声が小部屋に響く。

 すると手に持っていた本は、パンパンのポテトチップスの袋のように膨らむと、モクモクと煙を吐き始めた。

 私がその本を魔法陣の上に放り投げると、落下する直前にパンと弾けた。弾けた後も、そのまま煙はモクモクと広がり、クローゼットくらいの直方体を作る。


 そして煙の箱から、現れたのは濃紺のローブに身を包んだ男。


 胸元には菱形の赤いペンダントをしているくらいで、魔法使いとの前情報から大仰な杖でもあるかと思ったが、腰に枯れ枝のような見窄らしい杖が刺さっているくらいで、武具や荷物などはなく身軽であった。

 フードで顔は隠れていて顔は見えない。

 ちょっと待ったが、微塵も動かず、取る気も無さそうなので話を進める。


「初めまして。私の名は慈悲の女神、クラリム。この状況に、さぞ、驚いていることでしょう。しかし、貴方は天界規定により選ばれた運ある者なのです。その、お力をお貸し頂けないでしょうか?」

「そうか……本当に、そうなったのか」

 私の”対接客言葉”にピクリと反応したローブの男は、フードを外し顔を見せた。


 ——あら、やだ、高身長イケメン。


 星が映えるような夜をイメージさせる黒髪、蜜柑と同じ明るい橙の瞳。

 人を突き放すような鋭い目つきはクールさを醸し出している。それに、目とか髪型とかパーツパーツは普通だが、合わせると暗い印象を与えてくる。

 なのに、ピョコンと主張するように飛び出てくる髪の黒房、通称アホ毛がついてる。


 ちょっと、可愛い。ど偏見だが、可愛いって言ったら怒られそう。

 実は、候補者選定の際、見た目の好みも入っているというのは内緒の話。

 どうせ魔王を倒すとか言っても、十年とか二十年とか掛かるのだ、私(神)にとってもソレは短くはない。その間に何本のアニメやゲームが発売されると思っているのだ。それだけの時間を共に過ごすなら、気持ち良く世界を旅したい。


「状況は把握した。問題ない。話を進めてくれ」


 魔法使いの男は、笑みも何も無い、無機質な表情でそう呟いた。

 それだけの言葉なのだが、


 素直、きたああああ! 


 心の中でガッツポーズをした。

 とやかく質問しないから、やりやすそう。当たりだ。


「今回リンドー様には、魔希薄世界スカベルムという世界を救って頂く為にお越しいただきました。予算の都合上(天界規定により)、強力な能力は付与出来ませんが、付与可能リストを作成しております。ご確認の上、良さそうな能力があれば、仰ってください」

「必要ない」


 魔法使いの男は私が差し出したバインダーに見向きもせず、そう突き放したように答えた。

 自分の実力に自信があるということなのだろうか、


「かしこまりました。今回の旅路には私、クラリムが異世界案内兼神聖治癒魔法師として最低限のサポートを行わせて頂きますので、ご安心ください。それでは今回の救世条件ですが……」

「後にしろ」


 んーん? なんて言った? 聞き間違いかな?


「該当世界を支配し、世界を崩壊させようとする魔王のとうば」

「——何度も言わせるな。前置きは必要ない。説明等は歩きながらでも出来るだろう」


 唖然。心の中の好感度が十、下がった。


 どうしよう、面倒臭い。


 割と嫌なタイプだが、私も、百弱の勇者を案内してきたプロなのだ、こんな程度で、へこたれたり、喚いたりしない。それに顔は良い。まぁもう態度で、顔の良さ分の好感度は無くなっているが。

 ピキリと動きそうな、こめかみを抑え込み、笑顔を保つ。


「かしこまりました。それでは早速、参りましょう」

 私は、要望通り、説明を省き、とりあえず異世界に渡る為の本を本棚から取り出しパラパラと捲ったのだが、

「待て、どこに転移させる気だ」


 止められた。

 うーん? 説明いらないんじゃなかったのかな? ホントに聞く? 私の説明。


「比較的、モンスター等が生息していない安全な街で準備を整え」

「——場所が選べるなら、ターゲットの近くに飛ばしてくれ」


 遮られる言葉。心の中で舌打ちをして、男の言葉を理解する。

 この男が言っているのは、世界を救う為の討伐対象である魔王のことだろう。

 魔王って強いの? という疑問はないようだ。


「近くって……一応、魔王城から徒歩一時間ぐらいの場所なら行けますけど……危険ですよ」

「構わない」


 魔法使いの男は、眉一つ動かさず言い放つ。

 冷静な彼と、対照的に私はイライラゲージがかなり溜まっているが、マニュアル通り、異世界転移で舞い上がっているであろう、自信過剰な、この男に静止を呼びかける。


「あの、貴方が前の世界でどのくらい優秀だったかは分かりませんが、無謀なことは辞めて頂きたいです。敵の強さとか魔法を使う為の魔力の差とか、調整は必要ではありませんか?」

「必要無い」


 めんどくせええええええええええええ!!


 アンタが大丈夫でも私が危険だっつーの。分かる? 私、不死身だけど痛いのは嫌なの。バカが死んでも私は痛く無いけど、肉体のダメージはシンドイの。分からないかなぁ、ほんと。


 ゴクリ。

 愚痴は胃の中で消化し、感情を捨てた綺麗な声を吐き出す。


「……では、出発致します」


 異世界に渡る為の本を再度捲り、要望通りの場所に行けるようにセッティングする。

 いいや、危なくなったら独りで帰ろ。緊急避難用の一人分の脱出キットあるし。


「転移開始」


 私がそう呟くと、本は先ほどのように、煙を吐き、私達を包み込むと、天界から姿を掻き消させた。


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