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変な魔法使い、異世界に行く  作者: 八艘宗八
第1章 街での『平穏で優雅な』生活編
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5-G トロマ・イポスブリオス『最強騎士物語』

 リンドーの手がストーナに触れる。


「んっ……………………ん? 背中をそんなに摩って、あ、あばばばばばばばば!」


 ストーナの絶叫。

 私は知っている。コレが痛くないが、気持ちの良いものではないことを。

 身を持って知っている。


「トロマ・イポスブリオス。現出せよ。『最強騎士物語』」


 ストーナの背中から、まるで株でも引っこ抜くように、リンドーは腕を抜いた。

 何度と見た衝撃波。


 リンドーの手にあったのは、一冊の本。


 辞典をも思わせる分厚いソレを、リンドーはパラパラと開く。


「『第四章、冥王』」


 それは意図したものなのだろうか。それとも、本による導きか、リンドーが開いたページは光を放っていた。


 すると、今度はストーナの体を包み込むように黒い糸が現れ、一瞬で、ストーナを覆った。

 糸はグルグルとストーナに絡みつくと、丸い形を作り出す。


 それはまるで、


「えっ、繭?」


 ストーナの体を包み隠したのは黒い糸で出来た繭。

 まさに蝶でも生まれるのかという、丸い繭だった。丸い繭は倒れることなく、悠然と糸を張り巡らせ立っていた。


 何かへの変化、その一端なのだろうが、モンスターは待ってはくれない。

 変身シーンだろうが、口上を垂れてようが、相手からは関係がない。


 それに、さっきリンドーも不意打ちを喰らわしているので、何も言えない。


 ブォォォォォォォォォォォ。


 咆哮と、接近。

 赤花瞳の大きなモンスターは根と蔦で出来た触手を鞭のようにしならせると、黒繭に向かって振り下ろした。


 風を無理矢理抉じ開けるような轟音が鳴り響く。


「ストーナぁぁぁ!」


 思わず叫ぶ。

 いくら優秀な騎士団長といえど、あの攻撃を防御もせずに受け止めれば、体の節々が壊れる。


 私が駆け寄ろうと動くがスッと、リンドーの手が体の前を塞いだ。


「問題ない。冥王は、天使が堕ちた後、確かに爆誕する」


 何を言ってんだコイツ。

 突然、厨二チックになった魔法使いにツッコミを入れようとしたが。


 パキパキパキ、卵が割れるように黒繭は亀裂を走らせるのが見えた。


 次の瞬間、中から光が漏れたかと思うと、黒繭に触れていたモンスターの触手を弾き飛ばし、バタリとテーブルを割り、椅子を潰し、ジハルの横に倒れ込んだ。


「モンスター(ギギウッド)! ギギウッド! 立て! 立つんだ!」


「あー、ったく、一体何がどうなってやがんだァ。体は気持ち悪いし、なんか背中が重いし、急に真っ暗になるし、それに……き、す、待っちまったじゃねぇか恥ずかしい……」


 黒繭は糸を光に変え、人影と共に少し照れた荒々しい口調を響かせた。


「す、ストーナなの?」


 口調に、顔、聞くまでもない。

 いや、その人影は紛れもなく、ストーナだった。


 だったのだが、私は思わず自分の目を疑った。


 どういうわけか、繭から現れたストーナの姿が変わっていたのだ。


「ん? うおっ! なんじゃこりゃあああああ!」


 まず目についたのは蝶々の羽。まるで妖精女王ティターニアのような、その羽はストーナの背中に張り付き。

 先程までの騎士服と打って変わり、踊り子のように肩、ヘソ、胸元、太ももと露出度が上がった、ドレスのような服。

 そして手には薔薇の飾りが付いたレイピアが握られていた。


 髪型も変わり、靴も変わり、ネイルの色も変わり、それこそストーナ本人であることを除けば全てが変わっているようだった。


「……コスプレ?」

「『最強騎士物語』、第四章『冥王、爆誕』に描かれている挿絵通りだ」

「いや、あれ、騎士でも冥王でもないと思うんだけど……なに、その本。あぁ、アレか」


 それは、リンドーがストーナの背中から引き抜いた黒塗りの本のことだろう。

 冷静に見ている私達と違い、ストーナの様子はというと。


「ひゃああああああああああああ! マジで、どうなってんだぁあ!」


 ストーナは腕で胸元を隠し、もう片方の腕でお尻を押さえ、絶叫しいていた。

 私服であろうパンクな服を着ている時も、少し肌を露出していたが、更に過激。

 流石に、ビキニアーマーよりかはマシだが、アレを着ている彼女と、並んで買い物をしたいとは思わない。

 三歩ぐらいは離れるかも。


「いやぁ、よかったー。私のはタダの決戦兵器で……」


 別に良くはないけど、訳わかんないし。ただ、アレよりはマシ。

 それにしても、リンドーの魔法はとんでもない魔法だ。

 機械仕掛けの大砲、ヒト(ミーク)、と来て変身コス。まったくもって理解出来ない。

 狙って出しているのだとすれば、癖すぎるラインナップである。


「なんなんだ。オマエ達は! 僕を無視して、はしゃぎやがって! モンスター(ギギウッド)! さっさとその羽虫を潰せ!」


 大事な花を壊されたり、ファッションショーを見せられている、ジハルは癇癪を起こしていた。

 赤花瞳のモンスターは巨体を揺らし、今度は何本もの触手を絡み合わせ、それをそのまま振り下ろす。

 逃げられないほど広い範囲の押しつぶし。まるでビルが倒れてきたようにどうしようもない一撃は、ストーナを飲み込んだ。


 しかし、その攻撃は掠りもせず、いつの間にか、ストーナは部屋の端に移動していた。


 正に迅雷の如し。目にも見えぬ、速さ。


「うぉっ。なんだなんだ。行きすぎちまったぜ!」

「い、いつの間に」

「なんだか体が軽いみてぇだ。こんな奇天烈な服が何かしてるってのか」


 何度も何度もストーナに振り下ろされる触手の叩きつけ。それに対しストーナはまるで踊るように優雅に躱していく。


「ちょ、ちょこまかと逃げやがって。やれ、さっさと叩き潰せ」


 歯噛みするジハルは、赤花瞳のモンスターに叱咤を飛ばしている。


「冥王は蝶の羽を生やすと、疾風の如き速さで幾万もの矢の雨を掻い潜り……」

「それ、なんなの?」

「知らん。本に書いてあることをそのまま読んでいる」


 リンドーが知らないんだったら、誰も知らないんだろうな。


「でも躱しているだけじゃ」


 赤花瞳のモンスターが触手を這わせ四方八方から攻撃を試みるが当たらない。

 対するストーナはレイピアを差し込むが、刺し傷は赤花瞳のモンスターを止めるほどではない小ダメージ。

 

 場は膠着していた。


「……」

「くそっ、それなら、これで終わらせてやる」


 先に動いたのはジハル。

 ジハルは服の内側から何かを取り出すと、それを赤花瞳のモンスターに貼り付けた。

 すると、赤花瞳のモンスターは、その瞳を凝らし、目の前に大きなエネルギーの塊を作り出した。

 咄嗟に予測したのは魔力の放出による攻撃。

 それが、向けられているストーナもまた予測したのか、ジグザグに動き、照準を絞らせないようにしていた。


「なんか大技、放とうとしてない? ……ってリンドーどこ行っ!」

 

 さっきまで隣で話していた男は、いつの間にか、その赤花瞳のモンスターの隣で、モンスターから這い出ていた蔦を触っていた


「おい」

「オマエ、オマエ、オマエ! ギギウッドから離れろ!」


 ジハルの命令で、赤花瞳のモンスターの目はゆったりと動き、その放とうとした何かの照準をリンドーに変えたように見えた。


「リンドー!」


 私は声を上げる。

 足を動かし、魔法使いの男の元へと走る。

 押し飛ばして、攻撃を避けさせようと思った。

 だが、間に合わない。


 赤花瞳のモンスターが生み出した魔力の塊が形を変え、縦長の槍のように尖り回転を始める。


 リンドーの体が貫かれるのは容易に想像出来た。


 しかし、当の本人は依然として平然としていた。


「冥王は決して機を逃すことはない。使い方が分からずとも、想いは自ずと技を生み出す」

 

 ジハルの、モンスターの視線が、ストーナから外れる。

 しかし、その場でただ一人。リンドーだけが、ストーナを見つめていた。


 ストーナの足元の床がバキッと声を上げる。

 地面を蹴り、赤花瞳のモンスターの元へと一直線に駆けた。


「蜂のように鋭い一撃、それは寸分の狂いもなく敵の急所へと放たれる」


 リンドーが指を差すのは、赤花瞳のモンスターの首元(茎)。

 ストーナは近くにあった椅子を踏み跳躍すると、上空に浮かんだ。


 ストーナの瞳はただ一点、リンドーが示した箇所。

 レイピアを握る手に力が入り、まるで空中を蹴るように、その場所へと急降下ダイブした。


「『冥王瞬星フローリア・ラ・ピエル』」


 ストーナの体は、レイピアは、煌めきを放ちながら、

 一直線に、

 モンスターの太い茎を貫いた。


 大きな赤い花を支えていた茎に生じる、大きな穴。

 モンスター赤の瞳は、皺皺になり最終的に枯れた実のようになると、粉々になった。


 リンドーが最初に赤い花の茎をへし折ったように、そのモンスターの茎は折れ、間違いなく、植物型モンスターの命を絶っていた。

 

「ギギウッドぉぉぉぉ」


 男の悲痛な叫びが木霊する。

 ストーナは剣を鞘に納め、ジハルの腕を掴む。


「……ジハル。不法侵入及び近隣迷惑、モンスター育成、街へのモンスター放出、公務執行妨害、他諸々で連行する」


 ジハルは抵抗をしなかった。

 意識が虚ろになっているのか、呆然と枯れはじめたモンスターの残骸を見ながら、外へと連れ出された。


「団長! うおっ、なんすかその格好」


 外に出て、最初に声を掛けてきたのは、バンダナを頭に巻いた騎士。


「ん? ひゃあああああああ! 見るんじゃねぇ!」

「ぐへっ」


 その言葉で、自分がかなり恥ずかしい格好をしていることを思い出したストーナの拳は、バンダナ騎士の鳩尾を撃った。


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