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変な魔法使い、異世界に行く  作者: 八艘宗八
第1章 街での『平穏で優雅な』生活編
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5-F 戦う乙女

「さぁ、やれギギウッド! さっさと、その女を潰せ!」

「チィッ!」


 何やら強そうな巨大なモンスターと戦う騎士団長。

 どっちも強そう。

 私達は、完全に蚊帳の外。


「なんか、さっきから、こう、ガッツリ戦闘してるんだけどさぁ。私達場違いじゃない? 決戦兵器がどう、とか神聖魔法がどう、とか置いといてさ。ついこの間までスライムと戦ってたんだよ」


 レベルの高い戦いに一切加勢出来ずにいたのを少し、申し訳ないと思う反面。

 どうしてこうなった感が増していた。


「なのに、なんで騎士団長みたいな明らかに強いヒトが苦戦するような場所にいるわけ? これがまだ外の植物型モンスターを一体頑張って倒そーなら、そこそこ頑張るかもよ。でも、それの何倍も強いのを前にしたら、もう見守るしかなくない?」


 成り行きで着いてきた、野次馬が三人。

 戦っているのは一人だけ。割と異質な状況な気がする。


「いいんだぞ、混じってきても」

「アンタ、私をどうしたいの? 私、どんなになっても神様だからね。慈悲の女神様だからね」


「ミーク、アレ、食べたい。だから、倒してきて」

「一応言っとくけど、多分まだミーク先生の方が強いと思うわよ。私、スライムいっぱい倒したけど、骸骨兵消滅させるほどの力は絶対ないから。ということで、ミーク先生が戦ってきたら?」

「いや」


 そうでしょうね。でも私も、行かないからね。

 どの攻撃喰らっても瀕死だからね。不死身でも瀕死になりたくないからね。痛いの嫌だからね。


「アタシは! リンドーと明日を掴むんだァ! 今まで、誰とも上手くいかなかった。だけどなァ。今回はうまく行く気がすんだァ! リンドーとの新生活を邪魔する奴はなんだろうと許さねェ!」


 頑張っているのは恋する乙女。


 何度か攻撃を喰らったらしいストーナは口から血を吐きながらも、攻撃を放ち何本からある触手の一本を落としていた。


 そんな戦闘シーンだろうが、こっちは雑談は辞めない。


「どうする? 私とミーク、絶対、あの子の思い描く新生活の邪魔者なんだけど。どうしよっか、戸籍だけ入って別住居でも借りちゃう? あんなに頑張ってたら、ちょっと申し訳ないわよ」

「いや、ミークはリンドーと、一緒。クラリム、独り暮らし」

「なんで異世界で独り暮らししないといけないのよ。するならミークも一緒よ」


「いや、ミーク、宝箱になれる」

「インテリアになるの?! なるほど、確かにそれならストーナにバレずに一緒に生活できる」

「クラリムも、なったらいい」

「そうよね。私も神の彫像みたいになったら、一緒に暮らせるわね。大理石みたいにピタッと固まって……ってやらんわ!」


 ちょっと見ていないウチに、ストーナは片膝を突いていた。

 剣を持つ手は返り血に毒でも混じっていたのか、一部変色し、体を灼いていた。


 ちゃんと見てなかったが、あの酸っぽい攻撃を喰らったのだろうか。


「はぁはぁはぁ。くっ」


 顔にも毒が付着しており、体の至る所には切り傷ができていた。


 そんな風になっても剣を手放さないのはきっと、根気。

 自分が倒れたら、次に狙われるリンドーや私達を守る為に、ストーナは武器を手放さないようだった。


「もう終わりだ。ストーナ。オマエの魔力はマズイからロクリスには食べさせられないが、そのマズイ魔力も肉も、そのモンスター(ギギウッド)が平らげてくれるから、安心しなよ」

「ま、まだ負けてねェよ」

「そんなに吠えても無駄だよ。もうオマエの命は僕の掌の上なのさ」


「負けるかァ……あん?」

 意気込みを発した、ストーナは突然、目を丸くさせた。


 なんだろうと思って、ストーナの視線の先を追うと、ジハルの横に、もう一人。


「ロクリスというのはこの花だな。どこが気に入ってるんだ?」

「ロクリスかい?! ロクリスはねぇ、まず、この花びら、見て見て、この色、艶、そして、この曲線、カーブの形を見て……」


「——そうか、もういい」


 急にジハルの隣に立ち、話を聞くように相槌を打っていた男、リンドーは気持ちよく話すジハルが両手で抱えていた植木鉢を叩き落とした。


「は? はぁぁあぁあああああああ?! ロクリス、ロクリスぅぅぅ!」


 ジハルは地面に手を当て植木鉢の破片と土をどけ、震える手で花を回収する。

 しかし、ロクリスは、花を支えていた茎がポッキリと折れ、瞳は閉じられていた。


「…………ひっどぃ」


 なんか頑張って戦っている人達の心境を考えることなく、ガッツリ横槍を入れる魔法使い。

 決闘でもなんでもないので、隙さえあれば、倒してしまうこと自体は何も間違ってはいないんだけど。やることがエゲツナイ。毎度毎度、斜め上の方法で問題に対処している気がする。


 命令が途絶え固まる巨大な植物型モンスターの横を通り、リンドーはストーナの前に屈んだ。


「ストーナ。大丈夫か、まだ動けるか?」

「あ、あァ……おい、リンドー、離れろ。まだ終わっちゃいねぇんだ! 危険だ」

「安心しろ。俺はお前を残して死にはしない」


「ストーナと出会ってからキザ男になってるけど。何アレ」


 ストーナの顔についた毒を気にせず手で拭き取るリンドー。リンドーの手もまた毒の影響か、灼けていく。


 そういえば、私を神様だって旧魔王の側近に言ってた時も、妙に演技掛かっていた。もしかして、そういう演技をするのが得意で、このキザ男もそれと同じ?


「あぁ、あああああ、あああああああああ!」


 喚き大粒を涙を流す、ちょっと可哀想な敵。

 ゆったりと立ち上がったジハルは手に持っていたロクリスをテーブルの上に置いた。


「もう、いい。誰もいらない。ギギウッド、全てを破壊し尽くせ」


 ブォォォォォォォォォォォ。

 ジハルの嘆きを代わりに叫ぶような咆哮が部屋を包み込んだ。


 すると、天井がガタガタと揺れ始め、屋根が突き破られた。


 部屋に外の光が差し込むのと同時、姿を見せたのは、外で咲いていた大きな赤い花。ロクリスと同種のそれは、チラッとロクリスの亡骸を見ると、大粒の涙を流す。


「天井も修理が必要だな。今の水も、床を腐らさるものだったら、張り替えが……」

「だから、その話は後で良いって」


 その涙からは何も生まれなかった。しかし、大きな赤い花は目を閉じると、そのまま、ギギウッドと呼ばれていた植物型モンスターに吸い込まれていった。


「……くっついた?」


 根、蔦で構成された巨大な体の頭部に赤い花が咲き、瞳を開いた。


 合体、いや融合とでも言うべきだろうか。

 異様な圧。我が子を失った動物のように、悲しみを露わにし、怒りを潜めた、そんな圧迫感がここにいる全てに与えた。


「これはさっすがにヤバそう。ミーク先生、神聖魔法でどうにかならない?」

「無理。たぶん、効かない」


「何をするつもりかは知んねぇが、生半可な技じゃ無理だろうな。コイツはマズイ。騎士団全員で当たってもキツそうなバケモンだろうよ」

「そんなに!? ストーナ、なんで、そんなヤバそうな人を彼氏にしちゃったのよ」


「会って2日くらいしか経ってなかったから、仕方ねぇだろゥが!」

「もっと知り合ってから付き合え!」


 いや、こんなことを叫びあっている場合じゃないな。

 ストーナも同じことを思ったようで、支えていたリンドーの体を引き離す。


「リンドー、テメェはあそこの二人を連れて逃げろ。今はまだ、体の動かし方を確認しているみてぇだ。今なら逃げられる」


 そう冷静に支持するストーナは顔には僅かに、恐怖が浮かんでいる気がした。

 逃げたくなるほどの恐怖、それでも、リンドーに逃亡を促しているのは街を守る騎士団の団長としての矜持だろうか。


「さすがにこれ放置したら、街滅んじゃうわよね。いや、もう影響とか出てそうだけど」


 神様としての経験則から、このモンスターが暴れた場合の被害を推測する。

 家が壊れるとか、そんなレベルじゃない。

 まるで戦隊ものに出てくる怪獣なのだ。それが街を徘徊すれば、家々は倒壊し、人死にも出るかもしれない。

 そして、それと天秤にかけるのは一枚のジョーカー。


「リンドー。いいわよ。決戦兵器の使用を神クラリムが許します。神の奇跡を持って、人類の敵を排除しなさい」


 私はリンドーに視線を送る。

 魔王を倒した決戦兵器なら、この危機を脱することが出来る。余波とか考えると、家は吹き飛ぶだろうが、背に腹は変えられない。


 ちょっと神っぽく、言ってみたのだが、リンドーは不服そうで、私を冷ややかな目で見つめてくる。


「神だァ? テメェはなにいって……」

「そりゃ、急に神って聞いたら驚くわよね。でも私は、この世界を救いに来た女神、そして、この男は、その勇者的な存在。まぁ、見てなさい。アレを見たら、すぐにそれを思い知ることになるわ」


 言葉よりも事実レーザーで分からせる。


「さぁ、リンドー。本当はすっごく嫌だけど、いいわ。サクッとやっちゃって」


 私は体を大の字に開き、背中をリンドーに向けたのだが。

 私の思惑を外れ、リンドーはストーナに語りかけた。


「ストーナ。体を貸せ」


「へ? ひぇええええええ! ば、バカヤロウ! こんな時に何言ってんだ! あ、アタシの体をどうしよって……そういうことはなぁ、もっとゆっくり順序をもって、それに周りの目もあんだからよォ」


 ん? まさか。

 聞き覚えのあるワードと、それに反応する初々しい感じ。

 デジャブ。私はこの後の光景を知っている。


「え、え、えええええええ! 本気なのかよ、しゃ、しゃあねぇな。初めてだから、痛くすんなよ」

「安心しろ。最初だけだ」


 ストーナは完全にこの状況を忘れ、剣を置き、瞳を閉じた。

 そして唇に訪れる人の温かみを待つように、唇をリンドーに向け……しかし、想定通りと言うべきか、ストーナに訪れたのは詠唱。


「終わった星の下、嗤う破壊者はもういない。忘れ物は無くとも、幼き日の切望は去る。ならば永遠に続く夢の続きを見せよう」


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