5-D ナチュラルな家
歩くこと30分。
この間、私はほぼ、このストーナのスピーカー兼翻訳家として従事した。
その内容はというと、仕事出来なさそうだったから有給をとったとか、好きなことはなんだとか、嫌いな食べ物はなんだとか、そういう合コンやお見合いで話すような会話をしていた。
因みに一番盛り上がったのは、リンドーの好きな魔法について。
恐らく、私を含め誰一人理解出来ない専門性の高い話だったが、ストーナはキラキラとした瞳でリンドーを見ていた。
道中、何故か、ジロジロと見ては離れていく、住人たちの姿があった。
噂好きの井戸端主婦かな?
まぁこんな風に四人横並びで歩いているのに、声を出して話しているのが中心の二人だけとなると気にはなるか。
ただ、そんなことが理由では無いことは、ストーナ家に着いてすぐに分かることとなった。
庭付きの一軒家。白を基調とした色合いに、赤煉瓦の屋根。
一人暮らしには大きな屋敷。
「なんじゃ、これ」
年齢の割に良い家住んでんな、とか、これ一括で買ったのかな、とか、そんな豪華な家に対する驚きの感想では無い。
『目』がある植物が家に絡み付いていた。
偶に、古い家に蔦が絡まっているのを見ると、レトロでいいなって思うのだが、これは、レトロというか、ジャングル。
「想定より広いが、少し日当たりが悪いな」
「もっと言うことあるでしょ」
「お花、綺麗」
「そうだねー、でも花は家じゃなくて庭で咲いていた方が良いと思うわよ〜」
「なな、なんだこりゃァ」
「なんで、アンタも驚いてるのよ。持ち主でしょ」
リンドーとミークはともかく、ストーナにまで突っ込まなくてはならないとは。
「もしかして、あの野郎か?」
「一応聞くけど、あの野郎、とは?」
「前のカレシだよ。私に告白したくせに、家に招き入れた瞬間に振りやがった、トンチキ野郎。あの野郎、植物が好きつってたからぜってぇ……」
ストーナはハッとした顔になると、リンドーの方に顔を向け、すぐに私の耳元に口を持って来た。
「しまったぁぁぁ! 前の男をチラつかせちまったぁぁ……おい、アカシロ、今のを、良いように伝えろ」
「いや、もうリンドーにも聞こえてるわよ。あと、多分、そういうの興味ないと思うし大丈夫よ」
リンドーを見るが、ミークを肩車し、日が当たりそうな部屋を探しているようだった。
ハナから、ストーナの話を聞いているかも怪しい。
「で、ここに住むの? 嘘でしょ」
鬱蒼とした葉、何本も生えている木、そして家の屋根に咲く一輪の赤い花。
花の大きさは普通の家の屋根くらい、それもこの世の物と思えないのだが、特に際立つのは花の中心にあるギョロッとした瞳。
ここに住むとすれば、毎日アレと目を合わせることになるのか。
「そもそも、アレ、モンスターとかなんじゃない? ……あっ、なんか出て来た」
赤い花の瞳は、涙のような液体を垂らすと、そこから、出て来たのは、木の根や蔦で出来たような生命体。一目見て分かるモンスター。
一歩一歩は遅いが明らかにこちらに向かってくる。
「リンドー!」
「家を消し飛ばす訳にはいかない」
それは、まぁ、そう。
「ミーク!」
「お腹すいたから、むり」
さっきアイス食べたじゃん。
「ストーナ!」
「剣がねぇ」
騎士団長なんだから、非番でも剣くらい装備しといてよ。
三人が私を見つめる。
唯一戦えるのは剣を持ち、盾を装備した、この私。
私はこちらを見る、ウネウネとした触手を持つ植物型モンスターを一瞥し。
「……退却!!」
号令を発した。
腕試しがしたいんじゃって? 痛いのは嫌。気持ち悪いのも嫌。勝てるか分からない戦闘はしないのだ。
◇
「えー、植物型危険モンスター育成、及び街へモンスターを放った容疑で逮捕っす」
私達は、助けを求めた騎士団の屯所で手錠を掛けられた。
◇
取調室と思わせる部屋、入っている人数もあって狭苦しい。
ニコニコする頭にバンダナを巻いた騎士。
対面するのは私、リンドー、ミーク、そしてこの屯所の主人であるストーナ。
「オイ、コラ、ラクロット。こりゃあ、いったい、どういうつもりだァ?」
「街を守るはずの騎士団の団長の家からモンスターが発生したとあれば、事実確認が済むまで拘束しとかないと、住民の皆様も不安になるでしょう?」
「アタシじゃねぇって言ってんだろ」
バンダナの騎士は耳に手を当て。
「えっ? なんか、言いました? 団長?」
「この野郎!」
「いいんですかー、そんな乱暴な言葉をだしても」
「……くっ」
と煽っていた。
なんで、このバンダナ騎士は上司を捕らえて、こんな、楽しそうなんだろうか。
日々の業務の恨みか何かを晴らしているとか?
「そうだとしても、身内である騎士団長を捕らえたとあれば、騎士団の信用にも関わる。そうしてでも捕らえたとだとすると、あるんだろう? ストーナを拘束する正当な理由が」
「リンドーさん、そうなんすよ。証拠がちゃんとあるんすよ」
バンダナ騎士はどこからか、紙の資料を取り出した。
「団長、ジハル=ベーンウゥって名前の男、勿論知ってますよね? 元彼なんですから」
ストーナはコクリと大人しく頷いた。
さっきまでバンダナの騎士に煽られて荒々しい様を出していたのだが、一転して大人しくなっていた。
リンドーに本性を隠そうとしているのか? もう、手遅れではないだろうか。
「でも、元彼なら、ストーナは関係ないでしょ」
「まぁそうなんですが、そうならないんすよねー。だって、このジハルって男、団長の家に入るところが目撃されているみたいですので」
「は、はあああああ?」
素っ頓狂な声が響く。
煩い。真横で叫ぶな。
「ジハルと別れたと公言していたが、その裏では、危険モンスターへと成長する植物の育てる手助けをしていた……これが団長を拘束している理由っす。それで、残りの皆さんは、その団長の助けで街への違法侵入を行った危険植物業者ってことっす」
なんか、とばっちりを喰らっているようだ。
実際、街へは無理矢理突破したようなものだが。
「ちょっと待って、私達は」
「まぁまぁ、赤白のお嬢さん落ち着くっす。ジハルがまだ団長の家にいるのだとすれば、突入した団員がジハルを捕まえて、で事情聴取して無実そうなら皆さんは解放するっす」
「ジハルが家にいなかったら?」
「団長をこのまま有罪にする訳にはいかないっすから、皆さんをジハルの共犯者として、今回の騒動を終わらせるっす」
「そ、そんな!」
「ま、神にでも祈っとくっす。無実なら神も悪いようにはしないでしょうっすからね」
神は私だ! と叫びたくなったが、これ以上場を混乱させる訳にも行かないので黙っておく。
が、しかし、これは不味い。
ジハルなる男がいれば問題無いが、いなければ、リンドーに決戦兵器を使わせて、街から脱出とか、そういうことになる。
「ただ、先程出ていた植物型モンスターは騎士団員で処理出来たという報告が来たんですが、中に入る為の扉が蔦やら根やらで中々入れないらしくてですね、もう家ごと燃やしてジハルを炙り出すって話も」
「ちょっと待て! 今、なんつった」
「ジハルが団長の家にいるよう、神に祈っててくださいっす」
「その後だ」
「団長の家を燃やして、ジハルを炙り出すっす」
ストーナはダン、と机を鳴らし顔をバンダナ騎士に近づける。
鬼の形相になっているが、もうリンドーに見られているということは頭にないようだ。
「あの家はアタシ達の、アタシとリンドーの家になるんだ! 燃やすなんて許す訳ねぇだろォが!」
「と言われましても、手をこまねいているんすから仕方ないでしょ。それともなんですか? ジハルを放置しても良いとでも言うんすか?」
「アタシがなんとかする。だから、頼む、ラクロット。アタシを解放してくれ」
家を燃やされると言われたストーナだったが、冷静だった。
全てを守る決断。私達の無実や元彼がやらかしたケジメ、そして未来に来るリンドーとの幸せな日々を背負った。そんなような横顔だった。
当のリンドーが『変』でなければ美談なのだが、リンドーはリンドーなので、ストーナの行動は少し哀れである。
「待て、一人で行く気か」
そんな哀れな女性に声を掛けたのは問題の男。
「俺も同行しよう。モンスターを生み出すのは、あの花だけとは限らない。犯人の男が、家の中にいるのだとすれば、強力なモンスターを用意しているかもしれない」
「だがよぉ、リンドーを危険に合わせるわけにゃあいかねェ」
「お前も言っただろう。あの家は俺達の家なのだと。それならば、共に過ごす俺が動かない理由は無い」
リンドーの揺れない瞳に、ポッと顔を赤らめるストーナ。
どうしよう。凄く盛り上がってるところアレなんだけど。
リンドー、今んとこストーナのこと騙してるようなもんだからね。そんなにゾッコンだと後がシンドイよ。てか、なんでこんなにゾッコンなの? この子。
「ミークもいく。おなか、すいた」
アレを食べるの? スライムよりは美味しそうだけど。毒とか入ってたら怖いな。
「はぁーあ、放って置けないから私も行くわよ」
知人がいない所、というか屯所で一人ぼっちになりたくないので、渋々賛同する。
向いている方向が違いそうだが、一致団結した私達。
しかし、どんな理由があるとしても、このバンダナ騎士が許可を出さなければ、何も出来ない。
「くく、くくく」
バンダナ騎士は顔を押さえながら、声を殺しながらも笑った。
「くく、分かってるっす。団長、もう何年、貴方の部下やってるって思ってるんすか。今回の騒動、団長が悪く無いのは分かってるっすよ。いつものアレっすよね?」
「いつもの、アレ?」
「あっ、まだ聞いてなかったんすか? 団長、口は悪いっすけど、見た目はいいでしょ。だから男が寄ってはくるんですが、悉く問題児なんすよ」
「要は、団長って問題吸引機なんすよ」
「今回も大概っすけど、その前なんか女性の彫像を作りたいって言って、水浴びをしているヒトを粘土に無理やり押し込む変態だったっす」
それ以上言うなとばかりにキッと睨むストーナ。
まだいそうだな。ヤバい元カレ。
「きっと、リンドーさんも同じなんすよね」
おおー、凄い、ズバリ的中。
私とリンドーとミーク。
私はまだそんなだろうけど、悉く厄介を持ち込みそうなメンバーと関わってしまった上に、その変な魔法使いから求められてる。
性格か体質か、トラブルを引き寄せるフェロモンを発している、といった所か。
災難な。
そういえば、リンドーもそんなことを言ってた気も。
「いやぁ、俺だったら、こんなトラブルを引き寄せる女、死んでもごめんっすけどね」
快活に笑いながら喋るバンダナ騎士の喉元に、ストーナの手が。
「おい、テメェ。こっちが捕まっているからと、言いたい放題言いやがって」
「冗談っすよぉ、団長ぉぉ。そんなカッカしないでくださいっす」
「それじゃあ、行くっすか」
ケホケホっと咳き込みながら、バンダナ騎士は取調室の扉を開いた。




