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変な魔法使い、異世界に行く  作者: 八艘宗八
第1章 街での『平穏で優雅な』生活編
25/116

5-C 新しい苗字はヴァルデエランデ

 騎士団、屯所。


 それは『白き星を望む鳥(アナティテラ)』に所属する騎士が、訓練や緊急事態に備える為の施設である。王都から派遣されたものや希望者が住む為の寮も併設されている。


 その屯所の一室、取調室と名付けられた狭い部屋にいたのは三人。

 入り口側にバンダナを付けた騎士とモジモジと下を向く騎士、その机を挟んだ向かい側には手錠を付けた魔法使いの男が。手錠を付けられているにも関わらず、何一つ気にしていない様子である。


「名前はリンドー。魔法の調査の為にこの街にウルメラ(この街)にやってきた、と」

「凡そ、間違いない。ただ、名前の後ろにヴァルデエランデが付く予定だ」


 リンドーの発言に耳を紅潮させたのは下を向く金髪の騎士、ストーナ=エル=ヴァルデエランデ。

 ストーナはリンドーを見ないように、顔を上げると、隣に座っていた騎士の耳元でゴショゴショと何か耳打ちをした。


「『なんで私なんですか』と団長が聞いてるっす」

「全てにおいて、最適な人材だったからだ」

「『ひゃゃああああ……わ、私も一目見た時から、ちょっとカッコいいなって思ってました』って言ってるっす」

「そうか、なら問題ないな。取り調べが終わったら、家に案内してくれ。俺の部屋を確認しておきたい」

「『い、一緒に住むんですか?』って聞いてるっす」

「何を言っている。家族になるんだから当たり前だ」


「『ひゃああああああ!』……あの、俺経由して、リンドーさんにメッセージ送るのやめて貰っていいすか。クソ面倒くさいんで」


「ふざけんじゃねェ! アタシはどう喋ればいいんだ!」

「そのままで良いんじゃないっすか。知わないっすけど」


 通訳と化したバンダナ騎士の男は顔を曇らせながら、そう突っぱねた。


「ところで、俺はなんで取り調べられているんだ?」

「ぶっちゃけ、何も無いっす。そもそも通報では不審者がいるってだけだったのと、まだ何もしていなかったようなんで……ただ」


 バンダナ騎士が思い浮かべたのは、役所での一幕。


「団長が、リンドーさんに告られて、ぶっ倒れたので、仕方なくって感じっす」

「アタシは倒れてねぇよ。ちょっと立ちくらみがしただけだっつうの! それをオメェらが騒ぎを大きくして……」

「団長、普通のヒトは頭から倒れることを立ちくらみって言わないっす。あの時、リンドーさんが抱えなきゃ、下手すりゃ頭割れてるんすから」


 ストーナはその光景を思い出し、顔を真っ赤に染め、顔を手で覆った。


「とりあえず、一時滞在の許可は出してたんで、二人はしっかり話し合ってくださいっす。リンドーさんも団長に対して、何か思うことあるかもですし」

「含みがある言い方だな」

「いえ、別に大したことじゃありません。直に分かるっすよ」

「軽く言っているつもりはない。どんな問題があろうとも俺はストーナを手放すことはない」


 止めと言わんばかりの、どストレートの言葉はストーナをノックアウトし、椅子ごと背中から倒れた。


「結婚がどうこうは当人同士の話なんで、干渉はしないっすけど。とりあえず、仕事場でやんなっす」


 バンダナ騎士は呆れるようにそう言った。


 その後、三分程の質疑応答を終え、リンドーの腕から手錠が外れた。


「またな、ストーナ。仕事が終わるまで、外で待っている。俺たちの家に帰る為にな」

「ひゃあああああ」

「団長、一旦、落ち着いてください。多分、このままだったら仕事出来ないっす」


 部下の呆れ声を背中に聞きながら、リンドーは屯所を立ち去った。



 濃紺のローブ姿の男が、騎士団屯所から出てくるのが見えた。

 遠目でしっかりと視認出来ないが、恐らくリンドー。

 魔力が薄い影響で、比較的魔法使いが少ない為、魔法使い感あるローブ姿が見えれば、それだけでリンドーと判別出来るのだ。


「あっ、出て来た。おーい、リンドー、こっちこっち」

「クラリム、ミーク。待ったか?」

「まぁ、そんなに? もっと掛かると思ってたから、あんまり気にならなかったわ」

「おかえり」


 取り調べを受けていたのはリンドーだったので、私とミークは屯所のすぐ近くの喫茶店で待っていた。リンドーはこちらへ来ると、椅子に座った。


「それで、どういうこと? 何かあるんでしょ?」

「そのままの意味だ。俺はストーナと家族になるつもりだ」


 私の質問の意図は伝わっているが、欲しい答えでは無い。


「一回落ち着いて、深呼吸してー、はい、はいてー……うん、どういうこと?」


「身分証発行の最短ルートだった」


 戸籍が無いので、戸籍を持っているヒトの戸籍に入る。

 街に入る為に四苦八苦していたので、それを打開するリンドーなりの打開策。


 ただ、やり方ぁ。

 なんで、この男、問題を速攻で片付けようとするかね。


「正直、ドン引きなんですけど……『急がば回れ』、って言葉知ってる? アンタの行動、『急いで突っ込む』だからね。それも道じゃなくて、壁とか池とか通れない場所を」

「それが近道ならそうするだろう。どこもおかしくない」


 流石、この世界に来て速攻で魔王を倒した奴は思考回路が違う。

 迷いというリミッターを取っ払ってる。


「ねぇ、ミークもこの変な奴に、言ってやって」


 私はミークに助け舟を求める。

 ちゃんと私の味方に付くように、事前にアイスで買収しておいた。抜かりは無い。


「わたし達は、どうするの? 捨てるの?」

「安心しろ、一緒だ。ミークもクラリムもストーナの家族にする」

「……それって、ようはハーレム的な?」

「俺は家族になろうと言っただけで、結婚するなど行った覚えはないんだが?」


 リンドーの怪訝な顔。冷たい視線は私の背をヒリつかせる。

 ミークは、役目を果たしたとばかりに、いつの間にかアイスを口に運び顔を喜で染める。


「家族になれるなら、なんでもいい。俺を義父、残りを養子にして戸籍に入ってもいいし、ストーナとクラリムが結婚し、その養子に入ってもいい」


「なんで私がアンタの指図で初対面の女の子と結婚しなきゃなんないのよ……あの子、絶対勘違いしてると思うんだけどどうすんの?」

「どう、とは?」

「そのまま騙して利用するのかってことよ」


 リンドーに告白のような言葉を言われ、正直満更でも無さそうだったストーナ。このまま、リンドーがストーナを上手く乗せれば、私たちが身分証を手にいれるという作戦が成功する。

 ただ、それは余りにも可哀想だ。

 恋心を利用して、ストーナがリンドーに利用されるのは、私は慈悲の神として、賛同することは出来ない。


「勘違いしているなら、正す。断られるようなら、利点を提示、再交渉を行うつもりだ。誰にでも言う訳ではない。あの場で断られたからといって、他の騎士に声を掛けるつもりは無かった。ストーナだから、俺はこの手を打った」


 リンドーは淡々と答える。

 私を見つめる澄んだ瞳。

 其の場凌ぎのデマカセではない。心の奥から言っているように思えた。


「ふーん。何がそんなに気に入ったの?」

「…………………………心の奥」


「……アンタ、今、答えるのが面倒くさくなったでしょ」


 抽象的が過ぎる。

 今度は私の視線から逃れるように顔を逸らすが、私は見つめ続ける。

 心の色でも視えるのか? 表情を読むのが得意なのか? なら、もっと私を気遣え。


「さっきのヒト」


 ミークは私たちの話し合いには飽きていたようで、キョロキョロと辺りを見渡していたのだが、何かを見つけたようで、指を差した。


 その方角は屯所の入り口。

 そこに立っていたのは肩を露出したパンクな服装の女性だった。体のスタイルが良いのもあって、似合っている気がする。

 そして、金の髪で形成された荒々しいポニーテール。


 その女性は、先程まで騎士姿だった騎士団長こと、ストーナだった。


 私達……恐らくリンドーを見つけたストーナは悠然と近づいてると、リンドーの前で止まった。


「…………」


 何か口が動いたようだったが、キュッと足先を変え、ストーナは私の耳元に口を近づけて来た。

 

「えっ、なんで初対面で耳打ちしてくるの、この子」

「待たせて悪ぃな。って伝えろ」


「怖っ、耳打ちしてくるタイプの言葉遣いじゃない」


 小さな声なのに、大きな言葉。


「なんか、待たせて悪ぃな、だって……えっ、なに? また?」


 ぐいって、袖を引っ張られる。


「なんで、そのまま伝えんだよっ! もっと可愛くお嬢様っぽく言えや! これで嫌われたら、牢屋に放り込むかんなァ」


 リンドーには聞こえないように小さな声で悪態をつくストーナ。

 め、面倒くせぇぇぇぇぇ。

 チラッとミークを見るが、何かを察したのか、座席をぴったりとリンドーの横に移動させていた。

「おら、さっさと行くぞ。アタシの家を見せてやる。って伝えろ。ちゃんとな」


 うぜぇ。

 くそ、なんだ、この面倒くさいの、一瞬でも可哀想なんて思うんじゃなかった。私が可哀想だわ。


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