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変な魔法使い、異世界に行く  作者: 八艘宗八
第1章 街での『平穏で優雅な』生活編
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5-B 偽りの家族申請

 別の門に着き、そこの門番に先程の門番に言われたことをそのまま伝えると、するりと役所に通された。

 役所は、まぁどこにでもあるようなシンプルな施設。

 カウンターがあり、受付係が応対するスタイル。

 私たちは空いていたカウンターに腰を下ろすと、すぐに受付のヒトがやってきた。


「あの身分証を作りに来たんですけど」

「はい、かしこまりました。それでは身分証作成の為、いくつか質問させていただいてもよろしいでしょうか?」

「はい、私! が答えます」


 余計な事を言いそうな二人に対し、先に牽制を投げておく。


「それでは始めます。出身は?」

「えーと、グォレンです。三人とも」


 この世界における大王国、もちろん行ったことはない。事前調査で知ってるだけ。

 流石に、ウルメラの役所で、ウルメラ出身と偽るのはボロが出そうなので、一応の保険。


「どこかに住居はお持ちですか?」

「家は無いですね。借宿ぐらしだったので。三人とも」

「年間の所得は?」

「所得、所得、あー、300万マニエくらい? 三人とも」


 『マニエ』はルクメリア永世王国におけるお金の単位。金貨銀貨銅貨全部使えるが、この国では独自のルクメリア紙幣のやり取りも可。

 因みにスライム一万体狩って得た素材の売却額は1万マニエ。ちょっと良い晩飯で溶ける額だ。


「仕事とかされてます?」

「うーん、仕事ね……タイム」


 考え込む仕草を挟みながら、思考を整える。

 これは嘘ついたら、バレるかも。


「今は無いのよ。昔はちょっとブイブイ言わしてたんだけどね……この街では、そうね冒険者にでもなろうと思ってるの……三人とも」

「なるほど。では身分証のご提示をお願いします」


 時が止まる。今まで何をしていたのか、分からなくなる質問。


 ——は?


「身分証を作るのに身分証がいるの?」

「ええ、規則ですので」


 受付のヒトから出ている、文句を言うな、のオーラ。

 これは、粘っても無理っぽい。


「生まれた時の戸籍があればいいだけなんですが……この街で生まれたら、もちろん調べてお出し出来ますが、違う街や国なら、そこへ行って証明書を貰ってきてから来てください」

「別世界から転移して来た魔法使いとか、天界から世界を救いに来た神様とか、ミミックから生まれた女の子はどうしたらいいんですか!」

「…………そんなことあります?」


 まぁ、そうだよね。役場の受付の子に、こんなこと言っても仕方ないよね。

 もっと上の、国とか動かすしかないよね。

 所詮受付とはそういうもの。規則は絶対。これに文句を言うだけ、無駄。

 というか、言っちゃいけない。受付のヒトが可哀想なだけ。


「身分証がないなら、冒険者ギルドでも行ったら、いいんじゃ無いんですか?」

「えっ、行けるの?」


 それなら、話は早い。冒険者ギルドにさえ入れれば、身分証が作れる。

 この面倒な役所での一幕もカット出来る。


「あっ、でも、こっちからは行かないで下さいね。向こうの門から入ってください」

「貴方が向こうから入れって言っていたと、門番に行ったら、身分証が無くても通れるのよね?」

「さぁ、部署が違うのでなんとも。基本的に門でのことは門番の言うことに従ってください」


「……がっでむ」



 身分証が作れない。

 この動かしようのない事実を前に、私は、項垂れるしか無かった。


 役場の中の待合ベンチにて、私とリンドーは落ち着く為、座る。

 ミークは、何してるんだろうアレ。

 あー、空いてる受付一個ずつ回って、飴ちゃん貰ってるみたい。


 滅茶苦茶喜んでる。

 ニッコリしてパクパク口に入れてる。飴、舐めるものだけど、飲み込んで無い? 大丈夫?


 あっ、奥から、偉い感じのオッチャン出て来た。うわ、高そうなクッキー貰ってる。あれ、絶対誰かのお土産だ。有給取る時に、何するの? って聞かれて旅行行くって言ったばかりに職場に持って来なくちゃいけなくなった奴だ。天界でもよくあった。そうだ、帰る予定無いけど、この世界の人気土産調べとか無いと。経費で落ちるし、自分用と職場用買お。


「良し、ミークの可愛らしい動き見てたら落ち着いた。ねぇ、決戦兵器で、この世界作り直さない?」

「おい、自称、慈悲の女神。どうやら落ち着いていないようだぞ」


 面倒臭い。何もかもが面倒臭い。


「まぁ、仕事も無い、住居も無い、金も無い。こうも無い無い尽くしの身元不詳民なんて、怪しすぎて平和な街に入れたく無いわよね」


 どれか一つでも、主張出来れば何とかなりそうなものだが、マジで何も無い。


「どうする? 街変える? 別に、この街だって少しモンスターが出にくい地域なだけで、絶対安全! って訳じゃ無いし、ミークのことも考えて魔族の街に住んでもいいんじゃない?」


 ミークがミミックというモンスターであることは紛れも無い事実。宝箱ミミック人型ミークも本体なので、切っても切り離せない。

 万が一、今回乗り切っても、普通に暮らしていたら、いつかバレるかもしれない。そうなると、辛いのはミークだろう。


「当面の資金は無いから、いっそのこと魔王城に間借りして、コツコツコツと悪質なモンスター退治とかして、で魔族の街で家買って…………なんて顔してんのよ」


 かなり自分でも嫌な妥協案だったのだが、リンドーは普段でさえ薄い感情を無に変えた。


「コツコツという言葉が性に合わないだけだ。それにミークなら問題ない。きっと、上手くやる」


 きっとテキトーな発言である。


「じゃあ、どうすんの?」

「こういう場合、決まりに従っている真面目な窓口に何を言っても仕方がない。しかし、方法はある」


 そう言うとリンドーは、ガムを噛みながらテーブルの上で足を組んでいる受付の女の前に立つと、麻の袋をボトリと落とした。


「住民権を買おう。いくらなら、売ってくれる?」


 目を開く役員の女。

 柄が悪くても、彼女は国家役員。どう考えても問題の種になる行為。


「ちょっと、待てぇぇい」


 私は咄嗟にリンドーの首をラリアットし、体の前に抱える。


「あ、アンタ……何を堂々と不正を働こうとしてるのよ」

「これが、最短ルートだ」

「そうね、きっとその考えは間違っていないわ。そう、街の牢屋に入るには最短よ」


 リンドーは、おかしいことをしているつもりはない、と思っているようなので、その思考を反転させる説得をしなければ、と私は頭をフル回転させようとしたのだが。


 ドタバタ、ドタドタと。

 役所の入り口が何やら急に騒がしくなった。


「貴様らかァ! ピーキャー喚いてるっつぅ、不審な奴らはよぉ」


 荒々しい言葉遣いが役場に響く。

 リンドーを離し、声のする方向に振り返る。


 そこにいたのは騎士姿の女だった。


 最初に目についたのは、金の髪で形成された荒々しいポニーテール。

 倒す為だけに作られたような無機質で両刃の大振りな剣を肩に担いでいる。歴戦を思わせる擦り切れ傷が付いた鎧は女性らしさより勇ましさを強調しているようだった。


 鋭い目つきは私とリンドー、そして少し離れていたミークを順に見つめた。


「はーい、集まって。そこの箱背負ってるお嬢ちゃんもっすよね? こっち来るっす」


 そう言いながら、荒々しい女性の横に立ったのはバンダナをした男。

 こちらもまた、騎士姿だが隣の女性に比べ、小綺麗だった。

 彼女らの奥を見ると、仲間と思われる数人の騎士が入り口を包囲していた。


「誰だ、お前は?」


 あいも変わらず、不遜な態度。


 リンドーさん、リンドーさん。少しはブレてください。

 せめて、置いた麻袋の金をパクろうと役人の首根っこから手を離してください。後で、思う存分やったらいいから。


 騎士姿の女はリンドーの言葉に呼応するように近づくと、リンドーの手首を掴んだ。


「アタシはルクメリア永世王国騎士団『白き星を望む鳥(アナティテラ)』、騎士団長ストーナ=エル=ヴァルデエランデ。テメェらみてぇな、無茶を言う輩をふんじばってる正義の味方様だァ!」


「……女騎士なのにヤンキー」


 口は悪いが別に変なことは言っていないのだが、よく硬そうなイメージがある騎士団に入れたな。

 方向性としては、ならず者の傭兵団とかにいそう。


 この街を守る騎士団のお出まし、それも団長自ら。

 今はそんなにおかしなことをしていないが、非常にマズイ。何がマズイかと言うと、リンドーという男はいつ何時、変なことをしてもおかしくない。

 つまり現行犯逮捕が迫っている。


 そしてもう一人。ミーク。ミミックであることが露呈すれば十中八九、槍玉に挙げられる。

 ミークに目を向けるが、もう一人の騎士が、ミークに近づいて行っていた。


 余計なことを言わないことを祈ろう。


「なるほど職業は王国騎士。国に従事している仕事。なるほど、安定していそうだな」


「年収は?」

「……500万マニエ」


「住所は?」

「……この街の南東にある暗い赤煉瓦で出来た屋根が目印の一軒家」


「一軒家か……一人暮らしか?」

「……あぁ」


「将来を約束した許嫁や恋人はいるか」

「……いねぇ、ってなんなんだよ! 何をさっきからペチャクチャ、アタシを舐めてんのか?」


 リンドーは力を入れられ、キュッと締まる手首の痛みを感じていないように表情を崩さず、ストーナに淡々と質問を飛ばしていた。


「いや、ほんと何してんのよ」


 ダメだ。何を考えているのか、ホント分からない。

 これが、この状況を打破出来る何か?


「わかった。名前は確か……ストーナと言っていたな」


 リンドーは。


「ストーナ、俺と家族になろう」


 告白をした。


「ということで世帯主はストーナで、俺らは扶養家族ということで頼む。身元が保証され、家もあり、ストーナは仕事に就ている。これで身分証は作れるな」

「は、はぁ。規則的には問題ありませんが……」


 役場にカラフルな悲鳴が上がったのは言うまでもない。


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