表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
変な魔法使い、異世界に行く  作者: 八艘宗八
第1章 街での『平穏で優雅な』生活編
23/116

5-A 身分証はお持ちですか? スパイラル

「ねぇ、嘘って言ってよ」

「スライム、1万は倒したのよ。寝る間も惜しんで五日間! それはもう、スライムの心臓を潰すのがもはや癖になるくらい、剣術と防御の基礎訓練やって、準備万端、いざ危険と隣り合わせの旅に出発……だったのに」


「なんで何も無く目的地着いちゃってんのよぉぉ!」


 ルクメリア永世王国の街、ウルメラ。

 一部の国が果敢に行う人族と魔族の戦争に一切影響されず、独自の発展を進めている平和を愛する街。元々川があった地域を開拓し作られたようで、街を真っ二つにするトリオン川が有名。その他には、数多のダンジョンを攻略した冒険者を有する古豪ギルドや、何度も街への脅威を防衛した騎士団がある。


 赤と白を独占したような色合いの神クラリム、濃紺のローブに黒髪橙眼の魔法使いリンドー、白髪短髪のミミックを背負った少女ミークの三人は、そんな都市と言ってもいいぐらい大きな街の門の前、中に入る為に必要な住民の検査列の中にいた。


「旅人を付け狙う盗賊は? 山越えの行商人を襲う山賊は? 財宝を求めて四方八方する海賊は? 賊の三種盛りの妻すらないとか……」


 私の特訓地『スライム溜まり』を出発した七日間。

 それはもう、平穏な旅だった。もはや、歩いた記憶しかないぐらいに。


「祈ってみた。クラリム(神)ではなく自身の幸運に。その結果がコレというだけの話だ」

「みんな、無事、よかった」

「せめて神(私)に祈りなさいよ。なんで、誰も襲って来ないの? 村を襲う魔王軍残党とか、逆に魔族を虐げる人族とか、そういうイベントも無し! せっかく、特訓頑張ったのに……」


「なんで、クラリムは平和な旅が出来て怒ってのだろうな?」

「かみさま、むずかしい」


 少年漫画で主人公の特訓シーンがあったのに、強敵が病死した気分だ。私の努力の結晶を見せつける機会を失ったのだ、いくら平和だったとはいえ怒らない方が珍しいだろう。

 やりきれない。


「まぁいいわ。そろそろ、私たちの番、回って来そうね。よし、とりあえずシャワー浴びよ。無駄に暑かったから汗流さないと」


 門番の前に出来ていた街に入る為の待機列。

 ウルメラは平和を売りにしている以上、不審者は入れないらしく、観光客だろうが他国の使者だろうが、一旦この待機列に並ばないといけないらしい。


 前にいた老夫婦が入街の許可が降りたようで、奥にある門を通って行った。


「次」


「行くぞ」


 門番の男は、椅子に座って来訪者を待ち構えていた。

 鉄壁って感じの全身鎧を見に纏い、彼の武器だろうか槍を真後ろにある門柱に立てかけている。


「はい、止まってください。数は三人で間違いないですか?」

「あぁ」

「ウルメラへの来訪目的はなんでしょうか? 観光?」

「移住だ」

「種族は三人とも、人族のようですがご関係は? ご夫婦と娘さん? 似てないですね〜?」


 決めつけた質問なのに、そのコメントはどうなんだ。ちょっと失礼。

 まぁ、夫婦でも無いし、ミークは娘でもないけど。 

 それはそうとして、関係? 関係か。とりあえず街に入って仕舞えばこっちのもんだしテキトーにしてたらいいか。


「未定だ」

「素直かっ! 家族です。家族。それはもう私にラブッラブな夫と、素直でチャーミングな娘」

「おかあさん、ご飯」

「ミークちゃん、ご飯はさっき食べたでしょ……ちょっと、食いしん坊な子ですけど、仲が良いのが取り柄なんです」

「……その娘さんの背中に背負ってる箱? 何か入ってるんですか? 動いてますけど」


 へいへいへいピーンチ! 絶対入っちゃダメな理由指摘しちゃったよ。

 そうだよね、ぱっと見、デカいランドセルだけど、ガタガタガタ動いたらダメだよね。

 すっごい不審そうに見てる門番。

 なんとか、言い包めないと。


 あんな鋭い牙を持ったミミックを見せる訳にはいかない。


「ミミ……」


 バシッとリンドーの口を抑える。


「ミミ……みみ、みみ、耳です。パンの耳。焼き立てで、ちょっと活きが良いんです」


 やばい、やらかした。みみ、から始まる単語なんてパッと出る訳ないから、訳分かんないこと口走った。

 不審度が上がって、門番、近くにいた部下に声を掛けて、どっかに連絡しちゃってるよ。

 多分モンスターの持ち込みはダメだろうけど、この子良いミミックなんです。多分。


「それでは……身分証はお持ちですか?」

「身分証?」

「はい。なんでも構いません。各ギルドが発行しているものでも、お仕事先で渡される名刺でも、戸籍謄本でも」

「ちょっと、待っててください」


 リンドーとミークを引っ張り少し脇に避け、小さな声で問いかける。


「持ってる?」

「ない」

「身分証?」

「まー、そうだよね」


 あるとは思っていなかったけど、一応? 念の為? 聞いたが案の定。


「クラリムは持っていないのか」

「神様に身分証いると思う? 神様ってだけで絶対的な権力があるのに?」

「そうか?」

「あるの! 私、神だから! まぁ、見てなさい。神の威光ってもんを見せつけてあげる」


 密談を終え、門番に向き合う。

 うん、兵士増えてる。これ暴れ出したら取り押さえられる奴だ。


「結論から言うと、身分証は……無いわ」

「では、入ることは出来ませんね。規則ですので」

「あの〜、私、こう見えて神なの。知っている? 慈悲の女神、クラリム。そうね、アデレネス教で言うエーデアミニアって言えば分かるかしら……」

「私、無宗教なので」

 

 心の中で舌打ちをする。

 この世界の三大宗教の一角の神の名前くらい常識でしょうが。


「うーん、そかそか、ならどっかの王様から全国に通達とか行ってない? 世界の危機に勇者を連れて現れるとか神がいるとか、なんとか」

「神、貴方が? 勇者は?」

「このヒトです」

「さっき、ラブラブな夫婦って言ってませんでした?」


 不審そうに見るが、怪訝な瞳に変わる。

 それはもう、何言ってんだ、コイツというように。

 どうやら、さっきの夫婦の演技は悪手だったようだ。


「失礼ですが、神を証明出来るものはありますか?」

「…………ありませんけど」

「では通す訳にはいけませんね。規則ですので。だいたい貴方、神はおろか神官にも見えませんよ」


 私の頭から爪先まで向けられる門番の視線。

 赤と白を基調とした戦士服。

 確かに、そう思われても仕方ないが、それには深い深い理由があるんです。

 察してください。


「ターーーイム」

「あの、後ろで待ってる方もいるんですけど」

「それは……あっ、大丈夫、みたいね」


 大行列なのだ。あんまり一組に時間を掛けてはいけないと思って門番もそう言ったのだが、怒号の一つも無かった。

 と言うのも。


 いつの間にか、ミークがスライムの素材で稼いだ金を後ろのヒトに配っていた。

 間違いなく、リンドーの差金。無言で渡しているので、後ろのヒト達も困惑しているが、状況を察したのか、笑顔でこちらに向かって親指を立ててくる。いくら渡してるんだ。


 それ私のお金なんじゃ、っていうのは一旦置いておこう。

 ミークが頑張って配っている間、リンドーと脇に逸れる。


「ちょっと、無理そうね」

「……魔族の街は簡単に入れたのに、なんで人族の街には入れないんだ」

「簡単……だったっけ?」


 ダメだ。決戦兵器を使って脅して入った記憶しか無い。


「仕方がない。俺が行こう」

「決戦兵器以外でよろしく」

「分かってる。ここに住もうとしているのに問題ごとを起こす気はない」


 相談終了。リンドーは門番の前に立つ。


「どうやったら身分証は作れるんだ」

「一番簡単なのは、冒険者ギルドへ行って冒険者登録をするとかですかね」

「その冒険者ギルドはどこが一番近い?」

「この街ですね。門を通り、道を真っ直ぐ行って四本目の通りを右に曲がればあります」

「では、冒険者ギルドで身分証を作るから通してくれ」

「それは……ダメですね。身分証が無い方を通す訳にはいかないので。規則ですので」


 リンドーはトコトコとこっちに寄ってくる。


「…………1回ぶっ放してもいいか?」

「ダメに決まってるでしょ! さっきの言葉はどこ行った」


 いつの間にか、お金を配り終わったミークが門番の前に立っていた。


「入っていい?」

「身分証はお持ちですか?」

「持ってない」


 ミーク、涙を浮かべる。

 どこで覚えたんだ。そんな小っちゃい女の子の最強奥義を。

 バッと横の男を見たが、顔を逸らされた。

 いったい、何を教えているのかしら、リンドー。


「じゃあ、あっちの門から入ってすぐ右手にある役所で身分証を作ってくださいね」

「うん、わかった」


 涙効果はあったようで、ウルメラ侵入の攻略情報を手に入れていた。

 ちょっと納得がいかない。愛らしさでその情報が引き出せるなら、慈悲の女神である私が引き出せなかった理由が分からない。

 思い当たる節があるとすれば一つ。


「なんで、世界の男どもは、なんで幼女に甘いの?」

「男であれ、女であれ、小さい子を蔑ろにする奴はクズだという文化があるのだろう」

「その調子でこの麗しの女神様にも畏敬と崇拝を持って接してくれてもいいのよ」

「…………行くぞ」

「無視すんな!」


 ミークを迎え入れ、別の門へと向かう。


「ぴーす」

「よくやった」

「ま、ミークがいて本当に良かった。もしこのままだったら……」

「なんだ?」

「べつに……」


 深夜に無断で忍び込むか、街の門を吹き飛ばして入り込むかのどちらかだっただろう。

 リンドーが何をしでかすか、分からないから、普通の方法が使えそうで良かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ