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変な魔法使い、異世界に行く  作者: 八艘宗八
序章 『変な』魔法使い、異世界へ
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4-C 神様という職業を辞める日

「で、ここ何?」


 町を出て、三十分ぐらい、魔法使いの男に先導された平原の一角。

 雨が降った後のような水溜まりが大きく複数点在しており、温度と湿度が高めな感じでジメジメしているだけの場所。

 余りにも何も無いので、観光スポットには思えない。


「モンスターの一種、スライムが発生しやすい場所、通称『スライム溜まり』だそうだ。待っている間に、戦闘の初心者が腕試しをする場所を尋ねたら、ここを紹介された」


 スライム。


 それは異世界で初めて戦う生物として有名なゼリー状の動く物体。


「もし仮にガセ情報だとしても、スライムを誘き寄せるお香がある」

「……はいはい。私に戦闘させる為の準備は万端って訳ね」

「不服か?」


「別にー。そのお金で戦士雇えばいいのにーって思っただけー」

「安心しろ。スライムの素材を売る条件で、手に入れた物だ。費用は掛かっていない」


 くっ。本当にくっ。


「出たぞ、スライムだ」


 近くの水溜まりがふっくらと膨れ上がり、両手で抱えるくらいの大きさのスライムを出現させた。

 色は青、体は透き通っており体内に丸い球体が浮いている。


「……美味しそう」


 ジュルリと唇を濡らすミーク。

 ゼリーに見えなくないが、美味しいとまでは思わない。


「体の中に浮いている黒い球体。アレがスライムの心臓だそうだ。アレに剣を刺せば倒せる」

「その情報は?」

「町で聞いた。この世界の常識だそうだ。前世界なら、魔法で木っ端微塵にしなけば何度でも復活する厄介な魔法生物だったんだがな」


 地面を青く染めながら、ゆったりと近づいてくるスライムに私は引き抜いた剣を向ける。

 神生、初めての戦闘。

 怖さは特に無い。不死身からの安心感か、たかがスライムだと思っているからか。


 思っているのはせいぜい、あの体液が飛び散って服が汚れたら嫌だなくらい。


「せい!」


 覚悟を決め、少し近づき、それっぽく剣を横凪ぎするが、距離感がズレていたのか完全に空振る。


「目を開いて近づけ。そのスライムなら、攻撃されても少し蹌踉めく程度だ」

「分かってる!」


 少しイラつきながらも、スライムに再度視線を傾ける。

 あーあ、汚れるな。

 もう一歩、スライムに近づき、剣をスライムの心臓目掛け振り下ろした。

 正に少し弾力のあるゼリーをナイフで切る感覚だった。スラリと剣がスライムに入ると、そのまま心臓を真っ二つにした。

 飛び散るスライムの体液。


 ベトっと、新調した服に付着する。


「スライムの心臓は売れるそうだ。拾って瓶に詰めておけ」


 投げられた瓶を拾い、半分に割れた黒い心臓を手に取る。


「……うげっ、ベトベトする」


 臓器と言っているが熱は無い。

 冷ややかな感覚。纏わり付いた粘着物が石鹸で擦らないと取れないベタつき。


「プチってするの、楽しそう」


 側で見ていたミークは、そう言うと、ミミックの口から杖を取り出す。

 そしてそのまま、別の水溜まりから出現したスライムを何度か叩き、露出した心臓を叩き割っていた。

 強い。そして意外とパワフル。

 動きが鈍いスライム程度なら、戦士でもないミークでも倒せるのだろう。

 その一方で、口が開きっぱなしのミミックは自身に近づいたスライムを丸呑みした。


「一口で……」

「んー、いまいち」


 ミークがそう呟き、ミミックがペッと吐き出すと割れたスライムの心臓が目の前に転がってきた。

 拾おうとしたが、ミミックの唾液かスライムの体液かベトっとしており、手から零れ落ちた。

 魔法使いの男は私に近づいてくると、ソレを平然と拾いながら口を開く。


「一体目は倒すという目的だったが、次からは攻撃を盾で受けるということを行う。防御し、敵が怯んだ隙を狙い、心臓を刺す。これを何度も繰り返し体に覚えさせる」


「コレを、何度も? 普通に疲れるんだけど」

「疲れるなら休めばいい。休めば休むほど、時間は掛かるだろうが仕方ない。何に置いても基礎が大切だ」


 淡々と言葉を並べる魔法使いの男。

 何もしない癖に。言う言葉だけは一丁前。


「へぇー。アンタ、魔法使いになる前は、戦士か何かだったって事ね。だからそんなに、自信満々に教えられるってことなのよね?」

「いや、違うが?」


 何を言っているんだコイツと言わんばかりの顔。

 剣を握る手が強くなる。

 なんで、この男は、神である私に命令をしているのだろうか。


「俺には近接戦闘の心得は一切無いが、指南書を買っておいた。この通り進めれば、一人前の戦士になれるようだ」


 本を取り出し、パラパラと捲る魔法使いの男。


「…………なにそれ」

「なんだと?」


「やーめた。やめやめ。もういいわ。私、そういうチマチマしたこと嫌いだし。戦士として一人前になる気もないし。もう勝手にしたら? 私は私で好きにするから」


 ガンと音を鳴らし、剣を鞘に収める。


「……どこへ行く?」


「思い出したの。この世界には私(神)の信者もいるんだし、その人を頼って天界に帰ることにするわ。予言システムが残っているなら神託で私の状況を伝えられると思うし。あぁ、別に心配しなくていいわよ。私、不死身だから。どんなモンスターや魔族が襲ってこようが死なないから!」


 呆れたような、少し怒りを交えた声。

 別に魔法使いの男の指導方針に怒ったわけじゃない。

 小さくとも大きな私の許せないことが積み重なり我慢が出来なくなっただけ。

 変わっているとはいえ、私が導いた転移者をサポートしなければいけないだとか、これさえ終わったら天界で昇進出来るとか。いつかきっとどうにかなるっていう気分とか。


 私にやる気を出させていた熱が、急に冷めたのだ。


 私は吐き捨てるように言うと、腰に下げていた鞘ごと剣を投げ捨て足をスライム溜まりから逆に向け歩き始めた。



 リンドーとミークとミミック、そして残された剣の間を風が通った。

「行っちゃったね。いいの?」


 ポツリとミークはリンドーに話しかけ、近づくスライムをミミックの口を使い処理する。


「…………」


 リンドーは言葉を返さない。ただジッと、立ち去るクラリムを見つめていた。



 魔法使いの男とミークと別れた私は、先ほどの街に戻り、賊(武具屋)に教会の場所を尋ねた。賊は私の冷めた声に驚いているようだったが、知らない。説明する気もなかった。


 そうして、一番近い教会の場所を聞いた私は町から少し離れた山の麓にやってきていた。

 神の教えを信じる者に人種の差はない。

 魔族だろうが人だろうが信じるならば同胞。


「ここにアデレネス教の教会があるって聞いたんだけど、案内してくれる?」

「教会ですか……」


 アデレネス教のアデレネスとは私の上司に当たる大神『フル』の異名である。そしてその教徒なら、私のことも知っているはず。


 私は村に入ってすぐ歩いていた魔族に声を掛け、教会まで案内させた。

 古びた教会に入ると、奥から年老いた魔族が現れた。

 服装やこの教会のボロさを考えると、神の言葉を聞ける神官でなく普通の聖職者だが、問題はない。

 その魔族が私について尋ねるよりも早く、言葉を浴びせる。


「聞きなさい。私は慈悲の女神、クラリム……エーデアミニアと言えば分かるかしら」

「あ、貴方様がエーデアミニア。そ、それは真なのですか」

「えぇ、そうよ。貴方、神官ではないようだけど、アデレネス教の教徒なら私のこと分かるわよね」

「もちろんでございますとも。それで神よ、なぜこのような所に降臨なさったのですか?」


 目をぱちくりさせ、深々と頭を下げ、私から目を逸らす老人。

 そう、これが私(神)に対する本来の態度。

 あの魔法使いの男がおかしい。現地人でも異世界人でも、敬意を持って私に接するべきなのだ。


「天界から魔王討伐の命が下り、それを全うしました」

「ま、魔王様が、死んだ?」


 老人は寝耳に水というように、私に目を向けた。

「えぇそうよ。魔王は死に、この世に平穏が訪れたの。もういい? 分かったら、アデレネス教の大聖堂にコンタクトを取り、神官を呼びつけなさい」


 神託が出来る神官に上司へのコンタクトをとってもらい、天界からの迎えを呼ぶ。

 これが思いついた天界に帰る方法。

 出来るかどうかは分からない。神託が出来る程の信者がこの世界に残っているかも怪しい。神が世界を作った頃なら、まだしも、もうかなり時間が経っている。可能性は低い。


 だが、もうコレに縋るしかない。

 一刻も早く帰りたい。


「……魔王様が、魔王様が」

「早くしなさい。呼ぶだけでいいから。後の話は神官とするから」

「……かしこまりました、こちらでお待ちを」


 何やら狼狽えているようだったが、神が現れることよりも驚くことなどあるのだろうか。


「あとは待つだけね……待てば天界に帰れる。簡単なものね、やるだけやれば良かった」


 あの変な魔法使いに流されてしまった。

 なんとなく、手を貸さないといけないと思った。慈悲の女神だからだろうか。

 そんなことしなくて良かったのに。


「なんか、疲れたな」


 不老不死の神は、眠らなくても活動し続けることが出来る。

 しかし、眠気が全身を襲った。

 さほど体を動かしたワケじゃない。精神的な疲労だろう。ソファがあれば、仕事服のまま寝ちゃうレベル。


「少しだけ寝よっかな」


 どうせ、今はあの老人が命令を完遂するのを待つだけ。やることがない。

 そう思い、私は近くにあった長椅子に座り、ゆったりと瞼を下ろした。

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