4-B 新装備! と魔法使い
ヘベレアンの町。
地下墓があったカロンの町よりかは広く、賑わっていた。
歩いても歩いても、魔族。
前と違うのは、町からまだ離れている場所で決戦兵器を放ったからか、私達がヤバい奴とはバレておらず、奇異の目に晒されていない。
まぁ、人族判定なので、無理に関わろうとする魔族はいない。店を構える商人達でさえセールストークを飛ばしてこなかった。
少し歩くと、賊は止まり、腰を抜かした仲間を小屋に放り込んだ。
何やら中で騒いでいたが一人で賊は出て来て、何も言わず私達を武具屋に案内した。
ストックベッジの武具屋。剣や槍、斧と近接武器に始まり、弓や投擲ナイフなど種類が様々、奥には部位ごと鋳造した鎧から始まりただ鉄板を組み合わせたものまで様々置かれていた。
服を飾るマネキンは流石に無いようで、中には一本の木を通し支えられているようだ。値段が高いものは、鎧の胸の辺りに歴戦の勇士みたいな絵が描かれている。
もはや芸術ね。私(神)を描いたものとか無いかな?
「しっかりしたトコじゃん、なんで賊なんかやってんのよ」
「どんなにしっかりしてても、需要が無いとやっていけねぇんだよ。最近、軍との契約が切れて、今は大衆向けの武具屋になったんだ。もちろん、軍人でもない一般市民は、武具を買うくらいなら冒険者ギルドで傭兵を雇うって訳だ」
「じゃあ、その冒険者とか傭兵に買って貰えば?」
「で、この町には冒険者ギルドが無い。冒険者ギルドがある街にも武具屋はある。わざわざ遠出してまで買いには来ない」
「それは……何て言うか、ドンマイ」
需要と供給が破綻して、賊暮らし。
世の中世知辛いことだ。どうしようもない。
「ふん。それで、どんなのが欲しいんだ」
「女性用のはあるか?」
「サイズは?」
「この女のサイズで見繕ってくれ」
そう言って、魔法使いの男は私を指差す。
ん? 痛いの嫌って言いまくってるから、私の分も買ってくれるのか。私、前衛になることはないから要らないし、不死身じゃない自分の防具を買ったら良いのに。
「予算は?」
「安いに越したことはないが」
「一番安けりゃアレになるが?」
三枚の金属板を防具と言い張った、露出度が非常に高いアレ。
通称、ビキニアーマー。大事な所だけを守り、残りは筋肉でガードするという身軽さと実用性を兼ねているらしい防具。
うわー、本当にあるんだ。久しぶりに見た。
ちょっと自分が着た姿を想像する。
上半身の赤の胸当は胸を覆い尽くしてはおらず、肌がはみ出る。股関節を守る三角の白い板は金属のチェーンで腰巻かれている。
ダメだ。鎧以外がぷにぷにしすぎて剣が簡単に突き刺さる。
てか、普通に恥ずかしい。かなり際どい水着で歩いているものだ。
「気に入ったらなら、それでもいいが……街では、俺達とは距離を置いて歩いてくれ」
「着ないわよ!」
「だそうだ。高性能でかつ見た目に優れ、安価なものを頼む」
「むちゃくちゃ…………ちょっと待ってろ、探してくる」
賊(武器屋)の男は店の奥へと入って行った。
決戦兵器にビビってるのかもしれないが、商売人の魂はギリ残っているのか頭をポリポリと掻きながら奥へと入って行った。
「リンドー、リンドー。別に私、不死身だし、今のままでもいいよ。それよりもアンタとミークの装備を良くした方がいいんじゃないかしら」
「そういう訳にはいかない。一番大事な者を守るのは当たり前だろう」
「えっ」
思わず声を上げて、リンドーの方を見る。
揺るがない橙の瞳。
しかし、柄じゃ無い。
変だ。
変なのは元からだが、セリフと人物像が一致しない。
この男なら「不死身なのだから、防具どころか裸でもいいだろう」と平然と言いそうなのに。
しかししかし、どうしよう、武具屋で言われるセリフじゃないのに、ちょっとドキッとする。
「そんな、真っ直ぐ告白さ…………」
「ウチのパーティは、後衛が二枚と自称後衛のポンコツが一枚だ。これがバランスが悪く、旅路が危険というから戦士を雇うという話だったが……」
嫌な予感。
「コンバートした方が早いと思っただけだ。お前、神様から戦士にジョブチェンジしろ」
ぼくぼくぼく、ちーん。
理解が追いつかない。
「生まれながら麗しい慈悲の神であり、死者蘇生クラスの超回復の神聖魔法を使える私が、戦士?」
感情のジェットコースターがしっかりと勢いよく降下した。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「お前は不死身であるからこそ、戦士に適正があると考えた。不死身のタンクなんて、逸材でしかないだろう。それに神聖魔法については覚えていても使えないのなら、無いのと同じだ」
「嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌」
神様なのに駄々っ子だと言われても構わない。正論だろうが今は我を通す。
「私は神よ。なんで私が前衛やらなきゃなんないのよ! 私じゃなくて、アンタがやりなさいよ! 決戦兵器使った後、暇じゃない!」
「俺が魔法使いを辞することは、断じて、あり得ない。俺が魔法使いを辞める時、それは俺が死ぬか、世界が壊れるかだ」
「覚悟が、怖い……ほんとのほんとのほんとに?」
深く頷く魔法使いの男。
まずい、なんかおかしな方向になってる。私は遠目で戦闘を観戦する係なのに。
このテコでも動かない男は一旦置いておいて、会話には参加せず楽しそうに飾ってる武器を眺めていたミークに声を掛ける。
「ミークちゃーん。どうかなー、戦士興味ない? 神様信仰してないんだから、神官でなくてもいいよね。偶々ちょっと神聖魔法使えるだけだもんね。ほら、その飾ってる剣振って戦うのとか格好良いと思わない?」
「……痛いのイヤ」
「私もだわ!」
ダメだ。この場に私の神としての肩書で怯む奴がいない。
「この話題が上がった最初から思っていたことだが、仮にその冒険者ギルドなるもので戦士を雇うにしても費用はいくらだ。骸骨兵の報酬もそんなに多くは無い。食費を抜いたら、精々、ここで一人分の防具を買えるくらいだ。費用対効果を考えれば妥当だと思うが?」
「ぐぬぬぬぬ」
まだだ。まだどこかに私の反論の余地はあるはず。
私以外なら、誰でもいいんだ。さっき私達を脅そうとした賊を肉壁にすれば。
「何もオマエが神の魔法を使えないことを責めている訳では無い。ただ、オマエがこのまま道案内しかせず、旅を成功させた時、素直に喜びを分かち合えないだけでなく、オマエは何もしていない自身の不甲斐なさに腹を立ててしまうだろう」
「それは本意ではない。三人で行動することになった以上、俺が注意を向ける対象が増えたということだ。俺も万能ではない。お前達、両方が危険に陥った時、俺は死の危険がある方を守る為に行動する。つまり、お前は、お前自身で身を守る場面があるということだ」
「防具や剣は、戦わない神である、お前には似合わないかもしれない。しかし、装備しておくだけでも、俺たち二人を守るだけでなく、延いては自身を痛みから遠ざけるということになる」
「………………………………はい」
正論の嵐は、私の体に何度も矢を刺すように突き刺さり、私は渋々シブと戦士の武具選びをすることになった。
もう、嫌。この変なの。
一瞬でも大事って言われたの信じたのバカみたい。
絶対、天界に帰ってやる。
◇
「美味いか?」
「うん。食べる?」
「いい。甘い物は飲み物が無いと、口に甘さが残ってしまうからな」
「なんで、ちょっと観光してるのよ」
武具屋で武具選びをすること、二時間。
私が新しい武具を纏って外に出ると、どこで売ってたのか、紫色のソフトクリームをミークはペロペロと舐めていた。
かなり羨ましい。
「ミーク、ちょっと頂戴」
「いいよ」
「ミーク、アンタだけが私のオアシスよ」
食べかけのソフトクリームに舌を伸ばす。
美味しい。お芋のソフトクリームかな。芋の甘さが癖になる。
ガラんと店を出てくる賊(武具屋)。
「大楯に長槍を装備した重装備でも良かったんだが?」
「重いのはイヤ、ゴツいのはイヤ、可愛く無いのはイヤ、配色は白と赤のみって言ってたからよぉ。大変だったんだぜ」
お気に入りな赤いドレスを諦め、新たに身に纏った衣装。
基本的には動きやすいを重点においた軽装。
お気に入りポイントは、下半身。健康的感じを演出する為に、スカートの丈は右足と左足で違うように切り、ふとももはちょっと見せて。ふとももにはベルトを巻き、いざと言う時用に短剣を刺しておいた。
「一応、服の下には鎖帷子。材質が木で軽量の円盾。剣は貴族が喜びそうな装飾が付いた、女性の筋力でも簡単に振れる軽い直剣。下手したら元々のドレスの方が重いかも……」
「……それで戦えるのか?」
「予算があれっぽっちじゃな。まぁ無いよりはマシじゃねぇの? 一応言っとくが、これでもさっきの詫びも込めて安くしてるからな」
「感謝する。もし今後、魔王に会ったら、ここの店を紹介しておく」
「どんな伝手だよ。普通に怖えよ」
「その代わり、賊はもうやめておけ」
「へいへい。今回で懲りることにするよ。あんな化け物火力みりゃ、命あっての物種って思ったからな」
魔法使いの男は私を上から下まで眺めると、今度は私の顔をじっと。
あっ、やべ、口にクリーム付いてた。
「これ以上はイヤよ。そうなったら、私、ここから動かないから! 天界からの救援を待ち続けるから!」
「……それは俺が困るからやめてくれ」
賊(武器屋)が眉を顰める。
リンドーもそれ以上の文句は無かったようで、一つのソフトクリームを完食した私達は賊(武具屋)と別れ町を出た。




