4-A 回復の魔法が使えない慈悲の女神
第4話 神様の転職活動誌
「ぶっちゃけ、なんとかなると思ってた」
「天界に帰るってことも、魔法使いの男は、なんやかんや言いつつも手伝ってくれるって。私への好感度が勝手に溜まり、自分から率先して私を天界に返してくれるものだってね」
「でも、三人で旅をし始めてから二日目くらいかな」
「あることに気づいたの」
「私、いらなくね?」
「このままじゃ、天界へ帰れなくね?」
まぁ、つまり。何の話かと言うと。
濃紺ローブを纏う黒髪橙眼の魔法使い、リンドーは、私の案内を全く信用せず、旅をしていたということだった。
ちゃんと調べてるって言っているのに、不安だからと、道ですれ違うヒトに声を掛け、道を尋ねていた。
なので、神聖回復魔法が使えない私(神)の唯一残された技能、案内までもが不必要になっていたのだ。
「仮ポンコツが名誉ポンコツに昇進ということだな」
「アンタが私を信頼してくれたら、いいだけなんだけど」
歩き疲れ、ちょうど良い時間帯なので、三人で食事をしていた。
よし、異世界案内人としてのメリットは捨てよう。
戦闘や技能だけが私の長所ではない。
この身も麗しい服に包まれ、慈悲を配り歩く威光こそが真の長所。側にいるだけで、魔法使いの男も私を見直し、好感度が蓄積することだろう。きっと。
「それにしても、今んとこ何も危ないこと無くて、平和な旅ね。もし仮に戦闘になったとしたら、私達には大量の骸骨兵を一撃で殲滅したミーク先生がいるんだし、余裕ってもんよ」
宝箱をランドセルのように背負う白髪短髪の少女、ミーク。
ランドセルにしては少し大きいが、背格好も相まってまるで小学生のようだと思った。
戦闘に関して、まぁ、その為にキープしたようなもんだけど。
ちょっと、申し訳ないかな。とは言っても、私も、隣の魔法使いの男も当てにはならない。決戦兵器の威力が高すぎて取り扱いに難がありまくる。
「生命流轉はあんまり使いたくない。使ったら疲れるから」
「へ? 疲れるの? バンバン使えないの?」
首を横に振るミーク。
嫌な予感がして私は顔を青に染める。
「まさか、分かっていなかったのか? ミークは、あの魔法を使ってすぐ寝ていただろう。常人の魔力量であのレベルの魔法を放てば、すぐ魔力は空になるのは明白だろう。お前自身、神聖魔法は凄いと散々言っていたから、それぐらい理解していると思っていたが……そうか」
「ミミックの魔力量なんて把握してないわよ! なんか普通に使ってたし、仮にも魔王城に配置されていたミミックだし、なんか色々凄いのかなって」
こうゲームで言うなら、こうボスステージの最強武器を拾って、序盤ステージを無双するイメージだったのに。
「でもそうは言っても、魔族特攻魔法や人族特攻魔法の一つや二つは使えるんでしょ」
首を振るミーク。
「オーマイガッ」
「……オマエは神官をなんだと思ってるんだ」
「一部回復と痛緩和は使える」
ミークが言った、その二つは説明なくても分かる。
高位神官クラスの神聖魔法以外は、神官どころか、一年修行程度の聖職者レベルの魔法だ。
なんでこうも一発屋が多いのかしら。
決戦兵器、モンスター特攻魔法。どちらも回数制限付き。
「あれれー、じゃあ今の状況は?」
「魔法使い1、回復1、ポンコツ1だ」
それだと計算が合わない。
「なるほど、回復1、ポンコツ2ね」
「おい」
「何にせよ、前衛が圧倒的に足りないわね。一般的な戦闘集団として致命的過ぎる……」
私は手に持っていた硬いパンを頑張って噛みちぎりながら話を続ける。
「異世界案内のベテラン神として、助言してあげるわ。感謝に咽び泣きながら聴きなさい。ポンコツ2は一旦置いておいて、ミークは後方支援職、つまり前には出ず回復等の支援をする係なの。で、私達に必要なのは前衛戦闘職なの!」
「前衛で剣振ったり魔法使ったりする『勇者』や、大きな盾を持ち狙われた味方を庇いながら横槍を入れる『戦士』がベターな前衛戦闘職ね。これがいないと戦闘になったら、困る!」
つい最近の設計では、無双の看板を引っ提げたミークが前衛後衛関係なくワンパンし、それを私とリンドーが応援する。という構図だったのだが、出来ないものは仕方ない。
「まだ全然魔王領の中だけど、前の町みたいに、人族と交友してくれそうな街で、冒険者ギルドに立ち寄り、戦士を雇う! これが当分の目標ね。この近くなら一日歩いた所にあるベヘケレーかな。目的地の方角じゃないけど、こればっかりは仕方ないわね」
「…………面倒だな」
「急がば回れ、よ。私はともかく、油断して死んだら元も子も無いわよ。私は神だから死なないけどね」
魔法使いの男は不服そうだが、反論の余地も無い正論なので、文句は言わせない。
定命の命の為に、アレコレ考えてあげるなんて、なんて私は優しい神なのだろう。流石、慈愛の女神。異世界に行っても、健在……なんで、二人とも、ジト目なのだろう。考えていることが顔に出ているわけでもないのに。
三人共、食事を終え水を一煽りし、立ち上がる。
「方針も決まったということで、それまでは慎重に行きましょう。モンスター相手なら、貴方達二人でクールタイムをカバーしあえば、なんとかなるとしても、他が襲って来たら一溜まりもないし」
「人魔問わず、賊の類か。襲って来たらどうする?」
「逃げるしかないわね。ただそうならないように祈りましょう」
「神は何に祈るんだ」
「そりゃ私の幸運によ」
私の自慢げな顔を見下す魔法使いの男の瞳。
いったいどういう気持ちなのだろうか。
出発して、五分後。
「ぐへへ、お嬢ちゃん共、見ぐるみ置いてけ! そこの男は死ねぇ!」
「ヒャッハー」
簡単に賊にエンカウントした。
数は二。見た目はそんな似てないので友達で始めた感じかな。
普通に魔族。魔王軍ではないので、強くは無いだろうが、この三人では敵わない相手。
「おい、どうやら祈った相手が悪かったようだが?」
「……アンタの運が私の幸運を下回っただけよ」
「わたしもお祈りしたのに」
「うーん、それはごめんなさい」
「おい」
ミークには謝るが、魔法使いの男には謝らない。
私から見た好感度の差が歴然である。因みに最初からミークの好感度が高いのは、愛嬌の差である。片方が酷すぎるからか、滅茶苦茶良い子に思える。
ミミックだけど。
「ごちゃごちゃうっせえぞ、無駄な抵抗はするなよ。全員身包み剥いで、売り捌いてやるからよぉ」
「そうか」
ビクッと身の毛がよだつ。
予感。
神であるから、もはや予言。
私には次に起きるものを想定した。
「決戦兵器起動。発射」
リンドーは詠唱を早口で行った後、賊の目の前に、光を飲み込み、音を掻き消し、時間を置き去りにする一撃、の柱を見せた。
風に飛ばされかけた、ミークを必死に抑える。
「一発打つたびに、この世界の寿命が百年くらい減ってそうな一撃ね」
もう使うなと言うのは辞めた。
お決まりのように腰を抜かす賊。
普通にそこら辺を歩いているヒトが、巨大宇宙戦艦から発射されるビーム大砲みたいなの撃ったら、そうなるわよね。
賊も再犯だろうから、一切同情はしないが。
「ちょうどいい。道を尋ねたいのだが、ヘベレアンの町はこの方角であっているか」
首を縦にブルンブルン振る賊。
「あれ? 冒険者ギルドがあるのはベヘケレーって街よ。食料の補充に寄るの?」
「少し思いついたことがあってな。オマエの言う通り、旅の安全を確保しに行くことにした」
「ふーん。やっと私の言う事の重要さが分かったようね。急がば回れ、命より高いものはないのよ」
「そうだな」
おっ、やけに素直だなと思いつつ、カタっと音がしたので、そちらへ目を向ける。
賊はガクガクと足を揺らしながら立ち上がっていた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。ヘベレアンに何のようだ! 場合によっちゃあ、俺は死ぬ気で止めなきゃなんねぇ」
「家族がいるんですぅ! どうか、どうか! 命だけは」
対照的な二人。
あのレーザーを見て、立ち上がるとは骨があるな。私だったら、ひっくり返ってでも逃げ出すのに。
「少し装備を調達しに行くだけだ。オマエ達の身包みを剥いでもいいが、新品じゃないと嫌がりそうだからな」
あー、なるほど。それはそうだ。
今の私たちは所謂、初期装備。この世界に対応した防具や武器を持っていない。
一日とはいえ、冒険者ギルドで戦士を雇うまでの間、最低限自衛出来るものを揃えておくという算段なのだろう。
やっぱり、ちょっと変だけど、この魔法使いの男はしっかり考えてる。
「ちょうど家、武具屋じゃなかったか? コイツが案内いたしますぜ」
腰を抜かしてまだ立てない男(命乞いの方)は急に軽口になり、仲間を売った。
売られた賊も、観念した感じで。
「本当だろうな。嘘だったら容赦しないぞ……着いてこい」
と、腰を抜かした賊を担ぎ、私達を街に案内し始めた。




