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変な魔法使い、異世界に行く  作者: 八艘宗八
序章 『変な』魔法使い、異世界へ
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3-E ミミックと魔法使い

 村の自警団リーダーの魔族に、豪華な晩御飯をご馳走してもらい、夜も更けているということで、そのまま空き家に泊まらせてもらった。

 疲れていたのかスヤスヤと眠った私は翌朝目が覚めるとお昼時だったようで、そのまま昼食もご馳走になった。


 気付いたら、朝どころか昼。夜更かしをしていれば、よくあることだが、今回の場合は一日が濃かったということなので、疲れが出たのだろう。仕方がない。

 魔法使いの男は朝には目が覚めていたようで、自警団の面々から付近の土地の特徴を聞いたりしていた。その上、二十体分の骸骨兵討伐の報酬として、人族の街までの七日分の食料と少額の路銀を交渉し勝ち取っていた。

 この男、色々ちゃっかりしているようだ。



 そうして、町の魔族達と、ありきたりな別れをした私達は次なる目的地へ足を進み出すのだった。

 照りつける太陽の下、食料などの荷物を分担して持つ。


 私が傍に抱えているのはミミック。

 どうやら、このミミックは昨夜の宣言通り完全に私持ちらしく、他の荷物は均等に二等分されているが、ミミックを持っている分、総重量は私が優っていた。


「ぐぅぅはぁあぁ。はぁぁはぁぁっ」


 無論、今まで神様ポジションをキープしてきた私が、荷物持ちなどしたことはないのでこうなる。すぐにバテた私はミミックを地面においた。


「仕方がない」


 魔法使いの男はついでだと言わんばかりに詠唱すると、地下墓と同じように、ミミックから白い短髪の少女を取り出した。

 猫のように首元を掴まれ現れた白髪の少女はスタッと地面に立つ。

 私から出てくる決戦兵器もそうだが、ミミックのサイズ感から少女が出てくるのは違和感が凄い。

 サーカスでキャリーバックに入る軟体美女くらいの驚き。

 理屈は分かるが、超常みたいな。


「今後の食事についてだが、お前、魔王城で過ごしてた時は、何を食べて暮らしてたんだ? 宝物庫にわざわざ死体とかを運んでもらってたのか?」


 白髪の少女は首を横に振る。


「丸くて、キラキラしてるもの」

「丸くてキラキラ……宝石? それだと懐事情的にちょっとキツいかも」


 再度、白髪の少女は首を横に振った。


「これか」

「うん」


 魔法使いの男が袋から取り出したのは金貨だった。

 白髪の少女は金貨を受け取ると、ミミックに向かって投げた。ミミックは口を開き、白い肌の腕を伸ばすと、金貨を掴んで、口の中へと。


「ぎゃあああ、腕、腕が」

「少ないけど、美味しい」

「……感覚共有しているのね。ミミックがこの子だと知っててもドキッとするわね」

「お肉も食べたい」

「干し肉でもいいか」

「うん」


 白髪の少女はリンドーから干し肉を渡されると、そのまま自身の口に運んだ。

 肉はヒトの体で食べるんだ。

 まぁどっちも本人だから、どっちが食べてもお腹が膨れるのかな?


「このまま、俺たちは旅をする予定なんだが、一緒に来るか? 最低限の食事は、この女……荷物係……自称神がなんとかする……いや、猪突猛進を絵に描いたような……」

「そんな何回も言い直さなくても、指差しで十分伝わってるわ!」

「付いてくるのが嫌なら、今から魔王城に戻すのでも構わない」

「えっ、なんで、この子を用心棒にする計画は?」

「それは、お前が勝手に言っただけだろう。ミミックが元の暮らしをしたいというなら、奴らに事情を話し、ちゃんと養わせる」


「勝手に持ってきて、勝手に売ろうとしたって?」

「……」


 無言。

 この魔法使いの男、不利になったら、こっちを無視するのズルイと思う。


「どうする?」


 私は当たり前のように連れて行くものだと思っていたが、リンドーはミミックを一人のヒトのように接し、意思を確認していた。


「この体は、貴方のおかげ?」

「あぁ……俺の魔法だ」

「そう」

「気に入ったか?」


 コクリ。

 感情の色は特に見えないが、何度も自身の腕や顔を触っているので、きっと喜んでいるのだろう。


「一緒に行ったら、このまま外を歩ける?」

「あぁ、元に戻るのも、その姿になるのも、好きにするといい。最初は俺も詠唱で手助けするが、慣れれば自分の意思で出入り出来るだろう」


 割と衝撃的な情報。

 えっ、じゃあ私も慣れれば、あの決戦兵器、自分で取り出せるようになるの? それは……それで、なんか嫌だけど。なんか喉の奥から刀出してるみたいで、慣れる気がしないし、あんな物騒な物を使いたいとも思わない。


「じゃ、着いて行く」

「そうか」

「やったーー! これで、あっ、でもまだこのミミックを誰が持つか決めないと……」


「わたしが持つ。わたしの体だから」

「重くない? 全然、二人で交代して持つけど?」

「おい勝手に、数に数えるな」


 くそっ、バレた。

 とは言っても、重そうな箱を少女にだけ持たせるのは世間体が悪い。


「この状態の時は、重さがこの体に移ってるみたいだから、大丈夫」


 白髪の少女はそういうと、その細腕で軽々とミミックを持ち上げた。


「ほへー、すごい、まるで魔法みたい」

「だから魔法だと言ってるだろう」

「比喩よ。一々、突っ込むな。よーし、色々悩みも解決したということで、私はクラリム。天界からこの世界を救いに来た麗しき慈悲の女神様よ」

「神様、って何?」

「あー、神の概念ない系かー。神様って言うのはー」

「不死身の旅先案内人とだけ分かってれば良い」


「もうちょっと、いい表現無い? 神様を表すには、こう雑味に溢れてるって言うか、畏敬の念が感じられないというか」


 えっへんと腰に手を当て、名乗りを上げたが、ポカーンとする白髪の少女。


「不死身? 案内人?」

「うん。もう、ちょっと丈夫なお姉さんでいいわ」


 神様の概念が分からない高位神官なんて、涙出ちゃう。

 聖職者感ある服を着崩してるし、なんとなく不真面目感は薄々察してたけど。

 いや、そもそもモンスターだし。


「アンタも名乗りなさいよ」

「……リンドーだ」

「変な魔法使いのリンドーって覚えればいいわ。あっ、こっちは普通のヒトだから、私よりヒョロヒョロしてるから、私の時みたいに噛んだら死んじゃうから食べちゃダメよ」

「その代わり、クラリムは丈夫だから、もしヒトの味が恋しくなったら噛んでいいぞ」

「言い訳ないでしょ! 痛いんだから」


 自己紹介に茶々入れ返そうとしたら、危うく事故り掛けた。

 ツッコミの油断も隙もあったもんじゃない。


「クラリムとリンドー。頑張って覚える」


 それぞれ指を刺して、名前を反芻するように何度も繰り返す白髪の少女。

 白髪の少女って面倒だな。でもミミックって呼ぶのもちょっと。


「貴方は? なんて名前なの?」

「? わたし? わたしは、ミ……ミ……」


「ミミックじゃなくて名前。種族名じゃなくて、なんていうかな個体名? 固有名詞? 個人を表す記号?」

「この女でいうところの、神ではなく、クラリムないしは破壊神というものだ」

「慈悲の女神! 普通にクラリムで良くない? なんで茶化すの? ツッコミ待ちなの?」

「個体名? それは無い。わたしは、ミミック」

「無いのか〜。まぁ、モンスターだしね。リンドー、アンタ、名前付けてあげたら?」


 私は名前を考えるのは苦手だ。

 私の信者に新しく生まれてくる子どもの名前何にしたらいいと思います? って聞かれて、それっぽい名前を伝えたら、ちょっと引かれたのはトラウマだし。


「必要か?」

「……わからない」

「だそうだ」


 面倒くせぇ。そりゃ、今まで名前無かったモンスターにいるかいらないか聞いたらそうなるでしょ。


「名前は必要か必要かじゃなくて必須なの。名前があってこそ私達生きる者はコミュニケーションを取ることが出来るの。どんな名前でもいいの。嫌なら後で変えちゃったらいいお思って気楽に気楽に…………………………………………エー、とか、ビー、とかでも……」

「じゃあ、オマエの名はエー、だ」

「面倒くせぇぇぇ」


 思わず、心の声が漏れた。例えでも名前の候補を出したのが失敗だった。


「何か言ったか?」

「いいえ。面倒臭くて鬱陶しいな、出来れば星と共に砕け散ったらいいのにな、と思っただけ」

「破壊神極まれりな発言だが……そうだな、名前、名前か。ミミック、宝箱、えー」


 リンドーは顎に手を当て、クルクルと腰掛けていた岩の周りを歩き、そのまま考え込んだ。


「ミーク」


「うわー、悩んでた割に安直」

「…………」


 顔を逸らすリンドー。

 あっ、コイツ面倒になったな。

 私の神様直感がそう感じ取った。何かの本で読んだ名前から取ったとか、そのまま文字ったと言ったところだろう。


「ミーク……それが名前?」

「そうよ。貴方だけの名前よ。ちゃんと覚えて、呼ばれたら返事しないとダメだからね」


 白髪の少女は、私達の心中など察することなく、何度もミークミークと名前を連呼しては大事な物を扱うように、言葉を抱き抱えた。そんな気がした。


「わかった。わたしの名前はミーク。よろしく」

 

 テッテレー、ミミックのミークが仲間になった。

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