3-C 薄暗い地下墓を照らすのは魔法では無く、マッチ
件の地下墓は長い階段の下にあった。
前を進むリンドーは暗闇などお構いなしと言わんばかりに進んでいくので、真っ暗闇にならないよう、ハイテンポでマッチを擦り、蝋燭に火を灯す。
魔法使いの男は暗闇でも関係なく、スタスタと進んでいく。
さっきは、私にやらせるみたいなこと言ってたけど、なんだかんだ着いて来てくれている。
口では面倒臭いだの関係ないだの血も涙もない風を装っているが、実際の所は面倒見がいいのだろう。
直接聞いても、夜に独りぼっちになるのが嫌とか言いそう。
「それで、骸骨兵を倒す自信あるんだよね?」
「無論だ。決戦兵器で殲滅する」
「だから使うなって。それに、ここ地下なのよ。あんな破壊力を、こんな場所でぶっ放したら、骸骨兵どころか地下墓ごと崩れて、上の町が降ってきてペシャンコよ、私達!」
先に聞いておいて良かった。
危うく生きたまま地下墓に埋葬されるところだった。
「あー、前の世界に骸骨兵はいなかったの?」
「いる。骸骨兵は魔法使いが生成運用する魔法生物の一種だった。主に未開拓地域の索敵や囮に使われ、かつ低い魔力量で行使出来ることから人気らしい。初学者は単純な命令しか出来ないが、魔法に慣れてくると視界共有や複数召喚などが出来る。召喚呪文は……」
「専門的な話は聞いても分かんないからいい。つまり?」
「行動不能にする呪文がある。広く知れ渡った魔法というのは得てして対処法も多いということだ。モンスターであれ魔法生物であれ、魔力で動いているなら、やることは同じだ」
「おおー、それでいいじゃん。それで行こう!」
先ほどの欠陥戦法に比べると、なんとも頼もしい。
あのトンデモ魔法しか使えないと言っていたが、前世界で学んだことは魔法でなくても活かせるようだ。
「他の世界に行っても、前の攻略法がそのまま使えるって優秀なのね。超魔法世界アゼアベングか。今度後輩ちゃんに、オススメして上げよっかな……いや、アンタみたいにトンデモ兵器魔法出されたら嫌だし、やっぱやめとこ」
「そうだな。アレぐらいの威力なら、俺以外にも再現出来る奴はいる」
「人外魔境過ぎるでしょ」
「それに、あの魔法は……」
「あっ、着いたみたいわね」
何か言おうとしたようだが、また魔法の長い説明をし始める前に、数段飛ばして階段を下り切った。
大広間の壁際に蝋代が見えたので、パッパッパっと蝋燭に火を灯していく。
地下にしては、まぁまぁ広い。全部に火を灯すのに五分くらい掛かった。
運動場の半分くらいはあるかな。
明るくなってから、部屋を眺めてみると、壁には蜂の巣のように穴が沢山空いており、そこに古びた棺桶が敷き詰められていた。
奥の方は棺桶が綺麗なので、最近天に召された方々なのだろう。
「普通に怖。なにここ、私ホラー、ダメなんですけど」
「奇遇だな、俺も驚かされるのは嫌いだ」
「その感じで、寂しがり屋でビビりって……なら、さっさと終わらせないとね」
見渡して、気になったものに近づく。
部屋の至る所に、棺桶が散らばっていた。
「あー、これが骸骨兵用の棺桶なのかしら? 空だし」
「十、いや二十はあるな。数も多いということか」
「大丈夫? 私、まだ神聖魔法使えないけど」
「問題ない。最初から期待はしていない」
「勝手に期待されても、何も出来ないけど、それはそれで傷つくわね。言っとくけど、私が元通り神聖魔法使えるようになったら、この程度のモンスターなんて一撃なのよ……ふふふ、そんじょそこらの修導師じゃ手も足も出ない、正に神の奇跡。そうこの慈悲の女神である相応しいモンスター特攻の魔法を……」
「使えるようになってから言ってくれ」
魔法使いの男の無慈悲な言葉の矢は私の胸を貫いた。
冷ややかな視線が飛んでそうなので、逃げるように、ぼうっと部屋を見渡す。
なんとなく、気になったので、散らばっている棺桶を並べようかな。
そう思ったのが間違いだった。
「危ない!」
「ぶべぇえっ」
脇腹をくの字に折られるような衝撃。
「急に抱きかかえないでよ。変な声出しちゃったじゃない!」
突撃を喰らった場所を摩りながら立ち上がる。
「助けなかったら、助けなかったで不死身ハラスメントだ、と騒いでいただろう」
「へ?」
「寝床を荒らそうとする不届ものに対して一体残して出て行っていたようだな」
さっきまで立っていた場所に瞳を動かす。
立っていたのは骨。
ヒトから肉を削ぎ落とし、瞳を抜き、水分を枯らした動く亡者。
骸骨兵。七不思議に数えられそうな骸骨にボロボロの鎧を着せた、文字通りのモンスター。
そして手に持っている円弧のように曲がった剣は地面に叩きつけられていた。
どうやら、別の棺桶に隠れ潜んでいたようだった。
殺意を持った敵、私は咄嗟にファイティングポーズを取る。
しかし魔法使いの男の視線は、その骸骨兵に向けられてはいなかった。
「……それに骸骨兵のお帰りだ」
耳を澄ませるまでもなく、ガタガタガタと鎧を揺らすような音が耳に入ったと思えば、先程の階段から骸骨兵が現れた。数は予想通り二十前後。
「わぁー、たくさんいるー。でも、大丈夫なのよね! さぁ、リンドーやっちゃいなさい!」
魔法使いの男は私の願いに呼応するように、私の前に立つと、ジリジリとこちらに近寄る骸骨兵に向かって。
「止まれ」
と唱えた。
何の変哲も無い三文字の言葉は静寂をもたらす。
もちろん、骸骨兵は止まらない。
「…………は?」
「動くな……なるほど」
「なるほど、じゃない! いやいやいやそれだけ? それが骸骨兵の止め方?」
「あぁ、これでなんとかなると、本に書いてあった」
「なるか! さっきの話、実体験じゃないんかい。えっ、えっ。他には? 沢山の方法があるんだよね?」
リンドーは大きく息を吸う。
「知らん。専門外だ」
口は開いたが、言葉が出ない。顎が外れるかと思った。
私たちのオロオロなどお構いなしと言わんばかりに骸骨兵が近づいてくるので、とりあえず同じような速度で後ろに下がる。
「どどどどどどど、どうするの?!」
「不死身なんだから、心配することはないだろう」
「フジハ……じゃなくて、私も痛いのは避けたいの! こんなの。どんなに頑張っても脱出までに体切り刻まれるじゃない!」
「死ぬよりかはマシだと思うがな」
魔法使いの男はずっと傍に抱えていたミミックを足元に下ろした。
「ミミック……なるほど、ミミックを戦わせるのね!」
私は咄嗟にミミックを縛っていた紐を外す。
「……」
応答なし。
「動かないじゃない!」
「箱を開けると作動するカウンターのようなものと、さっきの男が言っていただろう」
そう言っても、このまま箱を開けても食べられるのは私だ。
このまま下がっても後ろにあるのは壁。階段を見ても、まだ骸骨兵が屯っている。
「どぉぉぉぉすんのーー! よし。もうどうしようもないから、決戦兵器出してぶっ放しちゃお!」
「さっきの発言はどこ行った。それだと、埋もれるのだろう俺達は」
囲まれた。
もう何処にも逃げ場はない。
カタカタと骸骨兵は口を揺らす。まるで獲物を追い詰めた狩人のように、獲物には理解することが出来ない喜びを謳っているのだろう。
「来てる来てる来てる! 早くなんとかしてぇ!」
気づけば私は何かに祈っていた。
骸骨兵の剣が狙いを定め、ゆったりと振りかぶられた。
その瞬間。
「終わった星の下、嗤う破壊者はもういない」
魔法使いの男は言葉を並べた。
魔法。魔法使いの男の唯一扱えるといった物の詠唱。
しかし、扱えば共倒れになる諸刃の剣。
「助けは一度。希望は溶解した。あぁ、それはまさしく太陽だった」
ぐっと目を瞑り、体から背骨を抜かれるような魔法の衝撃に備えたが、リンドーの温かい手は私に触れていなかった。
「私、じゃない?」
「トロマ・イポスブリオス。現出せよ。『冥魂』」
魔法使いの男の手は私ではなく、宝箱の背へ。
ミミックに触れた魔法使いの男は、箱の背面から腕を突っ込むと詠唱と共に一気に何かを引き抜いた。
引き抜いた瞬間、発生した衝撃波は近づいて来ていた骸骨兵を吹き飛ばした。
私も思わず目を覆い、目をゆっくり開ける。
「女の子?」
そこにいたのは一人の少女だった。




