3-B ミミック売りの魔法使い
「ここか」
雑木林を抜け、魔王城から一番近くの町、カロンの入り口に近づいていた。
あと小一時間歩けばもう少し大きな街もあったのだが、歩くのに疲れた上にお腹も空いていたので、近場に案内した。
リンドーはフードを目深に被り、顔を完全に隠し、なんとか乗り越えるようだ。
一方私は。
「行くぞ。ミミックガール」
先ほどのミミックを顔面にセットしていた。
口が開いた宝箱に頭を突っ込み、歩く私(神)。
私は黒に染まった視界の中、前を歩いているだろう魔法使いの男の腰目掛け、飛び蹴りを放った。
「アンタは私を、いえ神をなんだと思ってる訳? バカなの? アホなの? 普通に痛いんですけど!」
「……不死身の旅先案内人」
「はぁー? 不死身だったら何しても良いわけ?! それはね、立派な不死身ハラスメントよ。フジハラで訴えてやる!」
私は、顔を覆うミミックをぶん投げ、地団駄を踏む。
腰を摩りながら、ゆったりと魔法使いの男は立ち上がると、ピクッと耳を揺らすと私の背後に回り込み、手を当ててきた。
「トロマ・イポスブリオス」
「あばばばばば」
一度味わったら忘れることのない気持ち悪さを再び味わうと、魔法使いの男の手には魔王を一撃で屠ったメカメカしい大砲、決戦兵器が握られていた。
「急に何すんのよ! それ、無いなって思ってたら私の体に戻ってたんだ……いつの間に、怖」
「警戒しろ、敵だ」
私が文句を発する前に、ダッダッダッ、と小走りで数人の魔族が接近して来た。
数は五人。皆一様に青い蝙蝠翼を背に生やした彼らは剣や槍を持って武装しており、その切先を私たちに向けていた。
一人だけ少し距離を置いているのは魔法使いだからであろうか。杖を持っていることから、遠距離で攻撃する戦闘スタイルなのだろう。
「貴様ら、一体こんな所で何をしている! 人族か。武器を置いて投降しろ、そうすれば命だけは助けてやる!」
村に入ろうとした不審者を捕える町の自警団といったところだろうか。
ただミミックを売りに来た流れ者といえば、矛を収めてくれるかもしれないなと思いつつ、物騒な物を持っている隣の男に声を掛ける。
「ねぇ、どうするの?」
「決戦兵器起動……」
私の疑問に対する答えとしては最悪だった。
判断が早すぎる。
「嘘、でしょ。に、逃げてぇぇぇぇぇぇ!」
「発射」
リンドーは持ち上げた決戦兵器なるものの照準を上に向け放った。
一閃。
光を飲み込み、音を掻き消し、時間を置き去りにする一撃。
私は近くにあった木を死ぬ気で掴み、体の吹っ飛びに耐える。私は、文明の一つを破壊しそうな光を見ながらこう呟いた。
「あれー、さっき使わないでって約束したはずなんだけど、おかしいな、気のせいだったかな」
死を悟った魔族の男達もまた一人の魔族が使った防御魔法に身を隠していた。
しかし、決戦兵器のレーザーの余波は、その防御魔法らしいものを粉々に砕き、魔族達は腰を抜かしていた。
魔法使いの男の足元もまた、かなり抉れていたのだが、何も気にせず、魔法使いの男は肩に決戦兵器を担ぎ、魔族達に近づく。
「落ち着いたか? 落ち着いたのなら、俺たちを街に案内しろ」
縦に何度も頭を振る魔族達。
「これは……威嚇射撃を通り越して脅迫射撃だわ」
なんか、デジャビュだなと思いながら、ツッコミを諦め私は流れに身を任せることにした。
◇
ということで、無事? に町に入れた私たちは、私たちを襲おうとした魔族の方々に取り囲むように護衛? され、ひとまずの事情聴取と言わんばかりに、空き家に招かれた。
「さ、先ほどは失礼いたしました。まさか旅の方だったとは。それを知らずに攻撃しようとするなど……」
「いえいえ! 誰にでも間違いってありますよね。このヒト、変なんで気にしないでください!」
私たちと話をしているのは、先ほどの五人組のリーダー。
やはり自警団のような集まりだったようで、このヒトがシフトを組んだり、率先してグループを纏めているらしい。
このヒトも腰を抜かしていたのだが、私たちの正体を突き止めるために、決死の覚悟で推定ヤバい奴ら(私たち)と会話をすることになったのだろう。
あはは……すっごくビビってる。
大丈夫、安心して、この状況に本気でビビってるの私の方だから。魔法使いの男の魔法の再発射まで時間がかかる上に、私達に武器一つ無いから、襲われたら、すぐ負けるのだ。
「町に入ってもいないのに、投降を呼びかけるのだな。そんなにも人族への敵対心が強いのか」
「そーねー、確かに。事前の調べじゃあ、そんなに差別とかは無かったはずだけど」
この世界の人族と魔族の歴史は長くて深い。
天界の情報を駆使しても、知っている事は多くはない。何か確執でもあるのだろうか。
「いえいえ。我々にそのような意思はありません。最近は魔王様がお強い方だったので、この町まで人族が来ることも無く、驚いたのは事実ではありますが……」
「どうしたの?」
「実は魔王様が街の警備の為に置かれているモンスター、骸骨兵が制御を失って暴れ出してしまったのです。それも突然暴れ出したものですから、何人か怪我人も出て、少しピリピリしていたのです。旅の方には関係がないというのに、すみません」
いいえ、私たちに凄く関係があるので、謝らないで下さい。
少なくとも、こちらの魔法使いが魔王を倒した張本人です。
「それは厄介だな……前魔王は病気で死んだそうだぞ」
当たり前のようにしらばっくれる男。
「えぇ。我々もその知らせは受け取っております。あまり詳しくないのですが、昔からの伝承によると、魔王様の代替わりの際にモンスターが暴れ回ることがあるということなので、ある程度、時間が経てばスケルトンも落ち着くと思います」
「なるほど」
「……ちょいちょい」
私は魔法使いの男の服を引っ張り、耳元に口を持っていく。
「なるほど……じゃ、ないでしょ! 前魔王を倒した私達にも少なからず、関係のある話なんだから助けようとしなさいよ。困ってるじゃない!」
「時間が経てば解決すると言っている」
「そうかもしれないけど、神としては、困っている者に手を差し伸ばしたくなるのよ」
「問答無用で魔王殲滅を唱える神とは思えない慈悲深い言葉だな。同一人物か?」
うるさい。
そういう文句は、もっと上の役職に言えっての。現地で勇者とかをサポートする末端の神に言われても。
魔法使いの男を小突くと、渋々といった感じで頷いた。
「ここで出会ったのも何かの縁。よろしければ、何かお手伝い致しましょうか?」
私の言葉に顔を見合わせる魔族達。
うん、そうだよね。あんな脅迫紛いをした連中が急に手を貸すって言ったら裏があると思うよね。
「そ、それでしたら、この町には地下墓があるのですが、そこに現れるスケルトンが特に凶悪で、このまま放置していたら、死人が出るかもしれないので駆除してもらえませんか?」
背に腹は変えられなかったようだ。
うーん、地下墓か、暗くてジメジメしてそうだし、嫌だなぁ。やっぱ、断ってもいいかな?
私の少し困った顔を凝視してくる魔法使いの男。
何か言いたげのようだ。
いや、手を差し伸ばした以上、最低限は助けるから。多分。
「分かった。その件は、この女が何とかする。それはそうと、このミミックを売りたいんだが。引き取ってくれそうな場所を知っているか?」
「……ミミックをですか?」
私が受けようって言ったけど、もう少し協調性のあるような言葉は言えないのかな、この男は。
我慢しきれなかった魔法使いの男は依頼を私に押し付け、ミミックの買取の話を切り出した。
リンドーが紐で縛った宝箱を魔族に手渡した。
「これはまた珍しい」
「へぇー、珍しいんだ。ミミックぐらい、ダンジョンに潜ったらいそうなもんだけど」
「ええ、それは間違い無いのですが、ミミックを見つけたら殺すか殺されるかの二択ですから、そのまま持ち帰る方は珍しいかと」
言われてみれば、確かに。
ミミックを持ち帰る必要性って無さそう。
「ミミックは体を開けたものなら、人族魔族問わず食べるんですが。生き物を食べ、生きていく分の栄養を取った後、余った栄養で宝石を生成し、人を誘き寄せる餌とする危ないモンスターなんです」
「まるで真珠貝と食虫植物を合わせたような生態ね。想像していた三倍くらい凶悪な魔物なんですけど……アンタ、そんなのを私に二度も噛ませたなんて……一生忘れないでね」
「あぁ、一つの出来事として記憶しておこう」
うーん、懺悔感が感じられない。
「今更だが、この世界のモンスターは魔法で造られた物か? それとも、そういった生物か?」
「歴代の魔王の中に『怪血王』と呼ばれる方がいらっしゃいまして、その方が作った人外生命体を総じてモンスターと呼んでいます。今回問題になっている、骸骨兵もその王が作られ、歴代の魔王に引き継いだとかなんとか」
自警団のリーダーはそうやって詳しく教えてくれ、町のモンスターの素材を買取している業者を紹介してくれたのだが、その業者曰く、ミミックには価値が付けられないということだった。
テキトーに捨てて誰かが食べられても問題なので、結局、魔法使いの男はミミックを持ち歩いていた。
「ここが、先ほど話していた地下墓でございます。今の時間帯であれば近くの林にいるかもしれませんが、探すよりかは、夜になったらここに戻って来ますので、先ほどの空き家でよろしければ夜までお待ちになっていただいても大丈夫ですが、どうされます?」
「帰って来るところを待ち伏せして叩く」
「分かりました。お気を付けください。地下墓には燭台を設置してますので、適当に火を付けて使ってください」
それでは、と立ち去ろうとした魔族の男。
「ちょっと待って」
私はキチンと声を掛ける。
なんとなく、この後の状況に予想が付いたのだ。
「あのマッチ貰えます?」
リンドーを凄まじい魔法を使う魔法使いと勘違いしていた彼は、火の魔法が使えないという前提が無かったようで、少し驚きつつもマッチをくれた。




