16-U 『最優秀ギルドアワー』への道 エピローグ
二勝一敗一引き分け。
こうしてベーベーヤーガで行われた武闘試合は、私の勝ちとなり、私は晴れて自由の身となった。
鼻血による戦闘不能、八百長、選手共謀による引き分け、観客緊急避難。
どれもが、闘技試合で初めて起こった珍事であり、今後は規制やら何やらが付くらしいが、勝った私には関係がない。
「一歩間違えれば、今頃、『黄金の誓い』の一人として、あくせくダンジョンに篭ってたと思うと、ぞっとしないわね」
ベーベーヤーガからウルメラに帰る乗合馬車の中で私は呟く。
神聖魔法も使えず、不死身の斥候として魑魅魍魎が住まうダンジョンに挑む。
ありえない。そんな生活、断固として認められないし、耐えられるわけがない。私にはのんびりと昼まで寝て、ほどほどに家事をする生活があってる。
冒険なんてやりたい奴にやらせればいいのだ。
まぁ、移籍云々の前にとんでもない怪物が街をメチャクチャに仕掛けたのだが、まぁ、うん。
やって良かったリベンジ修行。
スライム科じゃなかったら、ホント、どうなっていた事やら。
「後ろ髪引かれるのか? 何なら慈悲の女神として、今からでも『黄金の誓い』に参加したらどうだ? ロットンはもちろんのこと、アリステラも辞め、シャーロットと二人だけになり人手不足のようだしな」
「何人いようが嫌なもんは嫌。それにヒトが減ったら減った分だけ、一人当たりの負担が増えるじゃない」
「そうか」
濃紺ローブの男は本に目線を落としながら、そう答えた。
いつものように平然としているが、本が逆さ。
リンドーはいつになく落ち込んでいた。
理由は単純。
闘技場の勝者を予想する賭場で、私達側に全財産を賭けていたのだが、今回の大会の試合結果があまりに酷いということで無効になったのだ。
魔法に関する本のオークション資金が無くなりガッカリということなのだろうが、明日になったら新しい金策を始めていそうで怖い。
巻き込まれないようにだけ祈ろう。
「食べ物、いっぱい、楽しかった」
「良かったわね、ミーク……そういえば、ケンザブロー呼びに行くのに、すっごい時間掛ってたけど何かあったの?」
「寝てる横に、たくさん、食べ物あった、美味しかったよ」
「ミーク、ヒトの見舞い品勝手に食べたらダメだからね。今度から気をつけた方がいいわよ」
大事そうに宝箱を抱える白髪の少女は、ニッコリと味を思い出すように笑った。
ケンザブロー、地元だし、名家の坊ちゃんみたいな話があったから、美味しい菓子やフルーツが届いたのだろう。私もお土産に貰ったら良かったかも。
『黄金の誓い』の一人、『雷』シャーロットというヒトとの契約で今後もちょくちょくベーベーヤーガを訪れることになったそう。
あの勝利が無ければ幻の五試合目があったのだろうから、本当に感謝しかない。
ミークに面倒を掛ける事になりそうで少し申し訳無かったのだが、ミークはシャーロットを食べ物をくれる優しいヒトという認識らしく、シャーロットの全財産を食い尽くすまでは楽しむようだ。頑張れ、あまり知らない魔法使いのヒト。
ん? 今、思ったが、ミークって、この街に来て色々あったのに、食事しかしていない気が。
まぁ、満足してるならいいか。
「あっ、やべェ」
「どうしたの、ストーナ?」
「……ウチの連中にベーベーヤーガに行けって命令出して放置してらァ。もう終わったってのに、国の一大事だって思って必死にベーベーガーヤまで走ってるんだろうなァ。まー、緊急の軍事演習だと思えばそんなもんかァ」
「唐突の地震速報で避難したのに誤報でしたって感じのヤツね……うん、可哀想だから教えてあげた方がいいわね」
魔法で作られた黒の全身鎧を解除し、普段の騎士装束を纏っているストーナはボンヤリと呟く。
バンダナ巻いた騎士の子が、汗水垂らしてひぃひぃと団長に文句を言っている姿が想像できる。
ストーナ自身、訓練だと言えば何をしてもいいとか思っていそうなので、騎士団の皆んなと馬車ですれ違ったら声を掛けて上げよう。探しに行ってワザワザ言うほどの仲ではないので、出会わなかったら、それまでである。もっと私を敬い崇めなかった事を後悔するがいい。
今回のドタバタ劇、ストーナも色々と悩んで苦しんだようだが、今ではすっかり元気。なんならベーベーヤーガを訪れる前よりも清々しい顔になっている気がする。
『怪血王の遺児』がストーナに執着した原因に、彼女の母が関係している事が、『怪血王の遺児』を倒す間際に知ってしまったが、それは伝えていない。
私が家族関係に首を突っ込む気質でもないし、ややこしいなら余計に遠慮する。言って良い方向に転ぶならそれでも良いが今は言わない。
正に神のみぞ知るというヤツだ。
そしてもう一人。
馬車には顔馴染みの者が紛れていた。
「ミス・クラリムを獲得しようとしたばかりに、『黄金の誓い』は壊滅、最優秀ギルドアワーは遠ざかり、『試練に抗う者共』も収入低下間違いなし。そしてワターシもクビ。ミス・クラリム、アナータは疫病神か何かでーすか?」
「私は! 慈悲の女神だっての! 言うならば、こっち、このリンドーがそれ! リンドーと関わったのが運の尽き、関わったらダメなのよ。基本的に碌でも無い事になるから」
目の下に大きなクマを作り肩を落とす男、オッキー。
彼自身が危惧した通り、闘技試合の後、なんだかんだで所属するギルドからクビを言い渡されたらしい。ベーベーヤーガに家もあったが、当面仕事も無いので、当座の資金として売り払い、ウルメラで心機一転、再起を図る為、同じ馬車に同乗していた。
「はぁー、何方にせよ、お先真っ暗でーす」
「ならば、ウチに来ると良い」
「へ? ミスター・リンドー。それはどういう?」
「『黄金の誓い』に加入させるピースとしてクラリムを選んだのは間違ってはいない。今回はただ色々と噛み合わず失敗してしまっただけだ。その慧眼をもってすれば、俺たちのギルドをもっと発展させることも出来るだろう。どうだ? 専属のスカウトマンとして、一からギルドを発展させる気はないか?」
「おおぉー、おおぉー。ミスター・リンドー。いえ、マイ・ゴッデス。アナータの為に、存分に働きましょーう」
目を腫らしながら涙を浮かべる男。
職を失ったばかりの彼にとって、本当に奇跡の様な勧誘だったのだろう。
でも、
「……リンドーの所為で追い詰められたのに、最終的にリンドーを崇めちゃってるって。これ、マッチポンプって奴なんじゃ?」
そう思うのはリンドーの事を信じられていないからなのだろうか。
そもそも、ほぼ活動していない幽霊ギルドで何をどう働くのか想像付かないし、断った方がオッキーの為になると思い言おうかとも思ったが、リンドーに振り回される生贄は多いに越した事はないと思い黙ってる事にした。
慈悲は完売、売り切れであった。




