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変な魔法使い、異世界に行く  作者: 八艘宗八
第3章 最優秀ギルドアワー編
109/116

16-O 試合のゴングは鳴らない

 そして、時間は無情にも過ぎ行き、第四試合の開始時刻となった。

 この祭りの勝者が決まる事となる局面に大観衆が期待を寄せ、今日一番の歓声を上げている。


 だが、舞台の上に立っていたのは全身鎧の人物のみ。

 そこに対戦相手であるストーナの姿は無かった。



 同時刻、闘技場から数日掛かる街ウルメラ、『白き星を望む鳥(アナティテラ)』屯所。

 荒々しい金髪の女性ストーナは仕事をしていた。



「団長〜、書類のチェックお願いするっす」

「んぁァ」

「なんか元気ないっすねぇ〜。どうしたんすか?」

「んでもねぇよォ。ちょっとぼおっとしてただけだァ」


 アタシはクラリムやリンドーと別れ、一人先にウルメラに帰ってきて、仕事を再開していた。

 休暇中にも沢山仕事が溜まっており、一日二日残業した所で終わる見込みがない。ただ、今、家に帰っても誰もいないので、特に問題はない。


「あっ、分かったすよ! アレっすよね。闘技大会に参加する予定だったけど、その試合前にボコられて尻尾巻いて逃げ出しちゃったから、皆んなの事を心配してるんすよね!」

「おい、ラクロット。なんでその事を知ってんだ。まだ誰にもベーベーガーヤの土産話をした覚えはねぇぞォ」

「リンドーさんから手紙が届いたんすよ。それこそ団長が帰ってきた、すぐ後に。そこにここ数日の出来事と、落ち込んでるかもしれないから慰めてやってくれって書いてあったっす」

「あの野郎、余計な事を……」


 リンドーなりの気遣いなのかもしれないが、騎士団長たるものとして、冒険者に負かされたという事は恥なので言わないで欲しかった。


「ん? 慰める? ラクロット、テメェ、なんかアタシを慰める」

「もちのろんすよ。悩み事なんて大量の仕事を押し付けたら忘れるっす。だから自分の分も団長にプレゼントしたっすよ」

「なるほどなァ、道理で異常に仕事が多いわけだァ……自分の分は自分でやりやがれ!」


 帰ってきてから碌に休めなかった原因が判明し、心の中の炎が燃え上がる。

 ニコニコとポケットからチョコレートを取り出し食べ始めたラクロットの顔面を掴み、書類と一緒に出口へと放り投げた。


 色んな意味で厄介な人物を追い出し、静かになった執務室の天井へよ視線を向ける。

 急いで自分の仕事をやらないとと思いつつも、思い出すのはあの日の出来事。


『やはりヴァルデエランデの落ちこぼれだったか。あまりにも弱そうだった故、見落とす所だった……まぁ父親があの男ならば仕方がないことだが』


 ミークと一緒に食事を取っている時に、不意に告げられた言葉。

 ミークもいるし、旅行気分でベーベーガーヤを訪れていたのだ。喧嘩など買うつもりなど無かった。実際、普通の喧嘩なら買わない自信はあった。

 だが、その喧嘩文句には聞き捨てならない言葉が含まれていた。

 

『作らされた強さなどに負ける道理はない』


 その結果は敗北。

 為す術もなく、リンドーの魔法を借りた上での完敗。


 『白き星を望む鳥(アナティテラ)』の騎士団長として情けないだとか、売られた喧嘩を買ったのに負けた事が恥ずかしいとか、色々な感情はあったが、一番は、最後に履き捨てられた言葉がアタシの心を見透かしたものだった事に衝撃を覚えた。


 その後の事はあまり覚えていない。クラリムが色々言っていた気がするが、気付けばウルメラの街に帰ってきていた。


 尻尾を巻いて逃げた。

 確かにその通り。ボケっとしていたとはいえ、その事は事実。せめてリンドーやらクラリムに直接謝ってから帰って来れば良かったのだが、それが出来なかった。それほどまでに全身鎧の人物に恐怖してしまった。

 全身鎧の人物の強さに恐怖しただけではない。次に戦えば、生き方全てを否定され、今まで築き上げてきたものが全て壊れる気がした。


「クラリム、本当にすまねェ。奴と戦う前に決着が付いていりゃいいんだが」


 クラリムの人生が掛かっているとも言える戦いから逃げてしまった事を後悔しつつも、今からどうする事も出来ないので、今はそう祈るだけ。

 あのリンドーがいるのだ。なんだかんだどうにかするだろう。


 仕事を再開しようと思い、椅子に座ると、扉が音を立てバンダナ頭の騎士が再度転がり込んできた。


「団長、手紙っす」

「んだよ。さっき、一緒に渡せばいいじゃねぇかァ」

「無理言わないで下さいよ。今来たんすよ。リンドーさんからっす」

「リンドー? なんだァ? ラクロット開けて」

「でもラブレターかもしれないっすよ。それも団長の事を心配して、褒め言葉で埋め作れた甘々の文面で」

「バッ、馬鹿言ってんじゃねぇ。さっさと開けやがれ!!」


 動揺してカタカタと揺れるペンを左手で押さえ込みながら、ラクロットを促す。

 ラクロットは雑に封を開け、その内容を読み上げた。


「『白き星を望む鳥(アナティテラ)』取り調べ記録。第125号第4事項の事案が発生可能性有り。至急応援求む」

「なんでアイツが騎士団(ウチ)の取り調べ記録を読んでやがんだァ」

「そういえば保管係の子を金で籠絡してたっすね。それで禁書やらなんやら読み漁ってたんで、その時についでに読んだんじゃないんすかね」

「どうやら組織改革が必要なよぉだなァ……まぁいい、とりあえず先に調べてくれ」


 ラクロットに言われてほんの少し恋文を期待したが、もちろんそんな事は無かった。

 かなり落胆しつつも、よく分からない内容に首を傾げる。


 ラクロットは執務室を飛び出すと、少しして事件記録とその犯人の取り調べ内容が書かれた書類を持ってきた。


「あー、これあのカボチャヘッドの時のやつっすね。団長の家がぶっ壊れた原因になった違法植物型モンスター事件の首謀者っすよ」


 確か、街外れの幽霊屋敷で逮捕したモンスター。

 色々準備していたらしかったが、結局家の被害くらいしか問題が起こらなかったので、牢獄に放り込んで終焉を迎えた出来事。

 自供も済んだ後の取り調べなので、大した事は書いていなかったはずだが。


「えーと『怪物貴族テラス・オブ・ノーブル』の重要危険人物について……スライム公爵(シェイプシフター)又は『怪血王の遺児』と呼ばれるソレはかつて発生した世界規模のヒトと魔の対戦の折り、敵味方問わず破壊の限りを行った」

「七つの山を割り、次々と人里を枯らした事を憂いた時の魔王及び人王は停戦し討伐隊を結成。激戦の末、とあるダンジョンの奥底に封印したものの、当時の四天王二名と勇者を主とした大人数が犠牲となった」

「『怪血王の遺児』は強者の死体を好み、前回の活動時には大凡一万人ものヒトが食べられた。仮に封印が外れ解放された場合、一国を捨てる覚悟が必要となる……以上っすけど、これって」


 とある可能性に気づいたラクロットは顔を蒼白に変えながら、アタシへと視線を動かす。


「まさか……ソレが、あの街に現れたっつうのかァ」


 つい先日訪れた街が廃墟と化し、血の海が出来る様が容易に想像できた。

 その中には、今もまだいるであろうリンドー達の姿も。


「そうだと思うっすけど。あっ、手紙にはまだ続きが……ベーベーガーヤでの聞き込みを行った所、『黄金の誓い』の一人である『元ベラエランデ騎士団』ロットン、ストーナと戦った全身鎧の人物が『怪血王の維持』若しくはそれを所持していると断定。現状何も行動していないようだが、闘技大会に出場予定であり、可能性の一つとして、その戦いを起点に本来の活動を開始する恐れがある」


 自分が恐怖を覚えた相手が話の中心にいることに一瞬眩暈をしつつ、全身鎧の人物を思い浮かべる。


 敵わない程の強者だったが、取り調べ記録に書かれるほどではない。

 それに。


「……リンドーにはあの魔法があんだろ。なんとかするんじゃねぇかァ?」


 どんな頑強なモンスターですら木っ端微塵にする魔法。

 光を凝縮した世界を滅ぼせるのではないかと思える程強力なもので、アレを受けて耐えられるものが存在するとは思えない。


「まぁ、それはそうっすけど。そんな凄い力を持っているリンドーさんがワザワザこんな手紙を送ってくるなんて。まるで自分の力じゃ対処出来ないみたいな……」


 リンドーの性格。

 確かに、色々と変な事をしているが、それはあくまでも自分で考えて自分一人で行動するものが多い。そして出来ない事はヒトに頼った上で無理難題を解決しようとするはず。


「団長!」

「片っ端から声を掛け、街を守れる最低限の兵を残して出発させろ! アタシは先に向かう」


 椅子を倒し立ち上がったアタシは、嫌な予感を胸に抱きつつ、一時間やそこらで辿り着ける程近くはないので、家に必要な物を準備しに帰った。

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