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変な魔法使い、異世界に行く  作者: 八艘宗八
第3章 最優秀ギルドアワー編
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16-M 諦めの星は何度でも瞬く

 三回戦終了後、闘技場関係者控室。

 ロミオを捕獲して放り込んだ所とは違い、一流芸能人とかの楽屋ばりにメイク道具やら差し入れが揃っている部屋。


 そこで私とミークは二人で差し入れの箱を開封し、様々な味を堪能していた。


「このベーベーガーヤ銘菓は二位かなぁ。リンゴオムレツサンドよりは美味しいけど、シンプルな手作りクッキーには負けるのよね〜」


 二回戦目の八百長問題に、三回戦が両者降参による引き分けが問題となり、闘技試合運営委員会に代表者が呼び出される事態となっていた。

 どこをどう考えても私が神で代表者なのだが、実際に呼ばれたのはリンドーで、その話し合いの結果を控室で待つ事になったのだが、待ち始め二時間経過し、完全に暇を持て余していた。

 差し入れにランキング付けぐらいしかやる事が無いくらい暇。

 

「クラリム、この、アイスは?」


 ミークから手渡されたのは高級な筆が入っていそうな木箱。

 しかし、その箱の蓋に書かれていたのは『胡椒、塩、唐辛子、胡麻、マヨネーズ。五種の味わいを一つに! 新発売、五つ味アイス!!』という文面。


「胡麻だけだったら一位確定してたのに……ミーク、私の分も食べて良いわよ」


 シンプルな手作りクッキーに勝てる逸材だったのに、唐辛子が入っている時点で全くいらない。

 開けなくても私には美味しいとは考えられそうに無い、狂気染みたアイスに、先程のロミオを連想しつつ、最下位の場所に置いた。


「うん、まぁ……負けなかったし感謝しかないけど」


 ロミオの平常時と狂気の演技のギャップが強すぎて、マトモに会話出来る自信がないが、とりあえずアリステラと幸せに暮らせる事を軽く祈っておこう。

 五つ味アイスもロミオも、理解出来るヒトだけで理解すればいいのだけの話なのだ。

 私が全部を理解する必要はない。


 だが私が理解したくとも、その機会すらないヒトもいる。


「じゃあ、リンドーの分も、食べて良い?」


 ミークに服の裾を引っ張られ、考え事から離脱する。

 両手に禍々しい色のアイスを持ちながらミークは私を見上げていた。


「何がどうなって、じゃあに繋がるか分からないけど、リンドーの分だったら食べていいわよ。どうせ何も言わないだろうし」

「ストーナの分は?」

「ストーナは怒りはしないだろうけど、後でこっそり悲しんじゃうだろうから、残しといてあげなさい……ってストーナはいないから、気にしなくていっか。うん、やっぱり食べて良いわよ。それでミークが美味しいと思ったら、ストーナにお土産に買って帰ればいいんだし」

「うん。わかった」


 箱に入っていた四つ全てのアイスを可愛らしく丸呑みするミークを尻目に思い浮かべるのは、ストーナのこと。


 第四試合に出て欲しいという気持ちもあるが、それ以上に、先日全身鎧に負かされてからの様子が少し変だった。

 いつもより静かだったという事もそうだが、体を動かす事が好きなストーナが、武闘試合という絶好の機会を捨て、何も言わず逃げ出す様にウルメラに帰ったというのが信じられない。


 何か悩んでいたのかもしれない。

 今更ながら、何か出来る事があったのではないかと思うが時は既に遅し。


「……どうしようもない、か」


 この暇な時間に帰れるほど近い場所にウルメラは無いので、いくらストーナの事を想ってもどうすることも出来ない。


「よぉーし、この中から最高の差し入れを見つけて沢山お土産買って、慰めてあげるか! ミーク、ガンガン行くわよ!」


 試合参加者集めで四苦八苦していたけど、相談に乗れば良かったなと後悔を胸にしつつ、今できる事を実行に移そうと、鮫の素揚げクラッカーに手を伸ばした時、控室の扉が開いた。


「あっ、リンドー」

「おかえり。結構遅かったじゃない。何か問題でも起こったの?」

 


「良いニュースが一つ、悪いニュースが二つ、どちらから聞きたい?」

「どう足掻いても良い気持ちにはなれなさそうね……じゃあ、とりあえず。悪いニュースからお願い。私、好きな物は最後に食べるタイプだし」


「一つ目、先の三試合の結果により一勝一敗一引き分けとなった事で、決着が付かない可能性が発生するようになった為、五試合目を無しとし、四試合目の結果でこの闘技試合の勝者を決することになった」

「えっ、それじゃあ、次の試合に勝てば、私たちの勝利って事?」

「そうだ」


 それのどこが悪いニュースなのだと想ったが、四試合目に出場予定にしていたストーナはおらず、代替候補者のアテも無い。

 つまり不戦敗が確定という最悪のニュースだと気付いたが、もう一つ別に、思いつく事があった。


「それなら、五試合目のヒトを四試合目に出させたらいいんじゃない? 未だに誰か知らないけど」


 試合数が減ったという事は、一人余るという事で、その浮いた一人を次の試合に出せば万事解決。

 リンドーが用意した五人目の試合出場者。

 リンドー選出の部分に少し不安はあるが、今から誰か探すよりかは遥かにマシなはず。


 しかし、私の言葉にリンドーは首を横に振った。


「それに関してが二つ目の悪いニュースだ。俺が用意した五人目の試合参加資格が取り消された」

「はい? どういうこと? なんで始まっても無い試合の出場者が出ちゃダメって言われるのよ」

「総合的判断だそうだ」

「具体的に……いえ、誰が五人目だったの?」


 要領を得ない言葉に首を捻るが、何やらダメな予感が頭を過り、核心を直接問う事にしたのだが、


「俺が用意していたのは、ギルド『試練に抗う者共グロリアス・トリックスター』のギルドマスターだ」

「………………」

「対戦相手の上司という立場を利用し、降参を強要すると考えたのだろう。全く、言い掛かりも甚だしい事だ」

「そりゃあ上司と部下の関係性ならそういうこともあるから仕方ないわね……って、なんで対戦相手の親玉がウチの仲間として戦う予定だったのよ!」


 頭真っ白の状態で理解しようとしたが、意味がわからなかった。


「この試合に課せられた制限は二つ。俺とクラリムの参加が出来ない事。どこのギルドマスターであろうと参加は出来る」

「ルール違反とかそういう話じゃなくて、なんで、対戦相手の親玉が手を貸してくれるようになったかって聞いてるの!」

「この闘技試合の詳細を詰める為に何度か話す内に、戦いに飢えているのを感じ取り、それを元に交渉しただけだ」


 裏取引とかじゃなく、とてもクリーンな交渉だった。

 一度しか会っていないが、確かに強者感溢れるオーラの持ち主で、言われてみれば戦闘大好きっ子な気もする。


「それなら、『黄金の誓い』側で出れば良かったんじゃ」

「戦いに飢えるような人物が、弱い者との戦いに乗り出すと思うか? 興味を惹かれるのは強者との血湧き肉躍る戦いだろう。『黄金の誓い』の五人目が、それに値する者だと思ったから、交渉に応じただけだ」


 いいのか、それで。

 私としてはありがたい限りだけど、本当に勝っちゃったら、ギルド内での今後の活動に影響が出るんじゃないだろうか。

 結局、五試合目も流れ、出場資格もないらしいので、考えるだけ無意味だけど。


「じゃあ、良いニュースは?」

「土産を買うなら、その緑の紙袋の商品がこの街一番の人気商品だ。この情報があれば、土産に迷う時間の浪費を防げる」

「……それだけ?」

「あぁ」


 重すぎる悪いニュースを打ち消す、希望が粉々に砕け散った。


「終わった」


 もう両手で数えられないくらいの諦めと共に、いつからか手に持っていたお菓子を口に入れると、舌を焼く激辛をマヨネーズで中和したにも関わらず鼻にツンと来る塩の味が口に広がった。


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