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変な魔法使い、異世界に行く  作者: 八艘宗八
第3章 最優秀ギルドアワー編
106/116

16-L 第三試合の敗者

「神聖魔法ハイ・エストローネ・エレ」


 光を縄のように束ねた大きな槍。

 それはアリステラの頭上から、拘束され地面に伏しているロミオへと一直線に放たれた。


 ロミオはその攻撃から逃れようとするが、アリステラの拘束の神聖魔法は頑丈で、ロミオの動きを阻害している。


 闘技場にいる誰もが決着が付いたと思った、その時。

 その大きな槍はロミオに突き刺さろうとした瞬間、糸が解けるように霧散した。


「……いったい何が起こったのでしょーうか?」


 決まり手となる攻撃が中断された事に驚く実況。各々の推測でザワザワとし始める観客達。

 そして、神聖魔法を放った本人であるアリステラでさえ、目の前の光景に唖然としていた。


「どうして? ワタシはトドメを刺すつもりで……み、皆んな〜、力を貸して!!」


 アリステラは驚きながらもう一度、同じ挙動から神聖魔法を放とうとするが何も起こらず、己の教徒に呼びかけるが返答は返ってこない。


「どうして! 何がどうなってるの!」


 いつものコールアンドレスポンスも起こらない異常事態。

 途方に暮れながらアリステラは、悲鳴のように疑問を上げると、一人の声が観客席から響き渡った。


「ふふふふふ、残念だったわね! もう『聖女一等星』アリステラ。貴方が神聖魔法を使えることはない!!」


 それに答えたのは、赤と白を基調とした一人の女性。

 その人物は闘技場から格好良く飛び降り、足首を摩りながら、そのまま声を大きく張り上げる。


「自分の教徒の信仰を力に変えて神聖魔法を使う? そんな羨まし……ゴホン。ズルい方法で神聖魔法を使うだなんて、他の神が許しても、この慈悲の女神クラリムは許さないわ!」


 飛び降りた際に足をグネったのか痛そうに涙を浮かべながらも、クラリムは少しずつ舞台へと近づくとその姿をアリステラの前に見せた。


「アナタはあの時の……神? ……改宗させられた? いえ、例えアナタが神だとしても、私の教徒は他の神に靡くはずは無い!」

「例えじゃなくて神だっての。ま、今はいいわ。先に種明かしをしてあげる。簡単な話よ。貴方とそこのロミオが付き合ってるって話を貴方の応援に来ている教徒(ファン)に教えてあげたの」

「……は? はぁ? はぁああああああああああ?!」


 耳を疑いながらも、クラリムの言葉を飲み込んだアリステラは顔を真っ赤に染める。


「そ、そんな嘘、誰が信じるって言うの!」

「うん、まぁ、私もそこまでは行ってないんだろうなぁと思ってたけど、この際、事実か虚構かは、あんま問題じゃ無かったのよ。要はこの熱愛報道が信じられる噂なのか、どうか。そして、結果はご覧の通りって訳」


 ヒトが変わったように狼狽えるアリステラを横目に淡々とクラリムは説明する。


「貴方の反応的にロミオの事が好きなんだろうなって、貴方と一瞬しか関わってない私ですら気付けたのに、この街で貴方達をよく見るヒト達が気付けないと思う?」

「はわ、はわわわわ」

「教徒の皆んなは見てみぬフリをして盲信してたんだろうけど、心のどこかでその疑念があった。そして私の素晴らしい根性説得で納得した彼らは、貴方への信仰を辞めてしまった。ま、貴方は熱愛報道されたらマズい系のアイドルだったって訳ね」


 クラリムが思い付いた策とはこれだけの事で、アリステラと教徒の関係性は、そんな噂話で途切れる程、簡単なものだったということだった。


 色々と予想だにしない事がアリステラに襲いかかり、力が抜けたアリステラは舞台の上でへたり座った。


 戦意を喪失した様子のアリステラ。

 クラリムは勝ちを確信し、実況兼審判のオッキーはジャッジを下す為に舞台へと駆け寄ろうと動き始めた、その時。

 鎖が外れた獣が動き出した。


「ぐっがああぁぁ!!」

「——しまっ」


 呆然とするアリステラの背後に立ったのはロミオ。

 ロミオを拘束していた神聖魔法も消えており、自由の身になったロミオはさっきまで攻撃をされ続けた相手に報復すると言わんばかりに狙いをアリステラに定めたように見られた。


 クラリムはアリステラを庇う為に舞台に上がるが、距離は遠く、狂った獣の腕がアリステラへと伸び、そして、次の瞬間。


 ロミオはアリステラを、抱きしめていた。


「へ?」


 クラリムの素っ頓狂な声が闘技場に響く。

 アリステラもさっきまで狂っていたロミオの温かみに触れ、目を丸くする。


「ロ、ロミオ?」

「アリステラ様。例え狂ったとしても僕が貴方を傷つける訳がないでしょう」


 目まぐるしく動く状況でアリステラは抱きしめてきた男の名前を呟くと、返ってきたのは優しいヒトの言葉。


「アリステラ様が僕の事をそんなに想っていてくださったなんて、僕は感激しました。そんな想いも知らずに勝手にパーティを辞めてしまって申し訳ありませんでした……アリステラ様は僕がいなくなって寂しかったんですね」

「ふえっ? ロミオ、ま、ま、ま、まさか、全部聞いて……」

「はい。小さい声でしたけど、独り言も全部聞こえてました」


 意中の男が普段と変わらない様子で抱き締めている事を理解したアリステラは再び顔を真っ赤に染めた。

 突如二人だけの世界が展開されたのだが、そこに水を刺したのは混乱し始めた神。


「ちょ、ちょっと待って。ロミオ、貴方、トマトの匂いで狂っちゃったんじゃ」

「クラリムさん。冗談は辞めてくださいよ。どこの世界にトマトの匂いで暴走するヒトがいるんですか」


 アリステラを抱きしめたまま、舞台に上がってきたクラリムに向き合い笑うロミオ。

 当たり前の事を当たり前のように返されたクラリムは、テキトーな事を信じ込ませたリンドーを恨みながら、一つの推測を問い返す。


「……え、じゃあ、演技だったって事?」

「はい。クラリムさんに縛られている時に色々考えてたんですが、」

「頭痛い。何がどうなったら、人格を捨てた獣のように暴れるって話になるの……あー、いや、そういえば、貴方、トマト嫌いを克服する為に餓死寸前になるヤベー奴だったんだったんだった」


 額に手を当てながら、どっちも意味がわからないという風に唸るクラリムから目を離したロミオは、抱き締めを緩め、アリステラに向かい合う。


「アリステラ様。僕は貴方の本音が聞きたくて、こんな事をした訳ですが、それも終わった今、一刻も早く、僕は貴方と一緒に食事がしたいんです。一緒に買い物に行きたいんです。一緒に過ごしたいんです。なので、決着を付けましょう。僕達の未来を歩む為に」

「ロ、ロミオ」

「でも、やはり色んな意味での恩人にお礼はしないといけませんよね」


 怖いくらい豹変したロミオはアリステラの手を取り立ち上がると、小さな声である事をアリステラに耳打ちした。

 その言葉にアリステラは頷き、そして、ロミオの合図と共に。


「「降参」」


 二人の敗者が決まった。



 第三試合 『万能』ロミオ 対 『聖女一等星』アリステラ、

 両者、引き分け。

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