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変な魔法使い、異世界に行く  作者: 八艘宗八
第3章 最優秀ギルドアワー編
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16-G 雷のような第2試合

「鼻血吹いて負けるって、そんなアホみたいな負け方ある?」


 一試合目終了後、予想外の負傷をしたケンザブローを医務室まで運びベッドに寝かしつけた。

 リンドーと持ち運んだのだが、見た目よりもかなり重たかったので、腰が痛くなり、休憩がてらベッド脇の椅子でリンドーと一試合目の感想を話していた。


「あんなに勝ちそうだったのに?! 『貴君程度の雑魚風情が威心逸拳道場師範代ケンザブロー=マサヨシ=ベルナデッタに勝てるとでも思ったか!』なんてカッコつけてたのに?!」


 熱い戦いに昂ったのか柄にもなくフルムヘンを煽っていたのに、負けるとは。

 普通に負けるなら、手伝ってくれてありがとうと言うのだが、こんな負け方だと文句を言いたくなってしまう。

 とは言っても、私自身、フルムヘンの事を少年と思い込んでいたので、文句を言える立場ではないのだが。


「負けは負けだ。過去に戻ることなど出来ない。反省を活かす機会が無い以上、今考えるべきは未来だ」


 リンドーは闘技場のスタッフのヒトがお見舞いにくれた林檎で兎を作り皿に乗せると、それを眠っているケンザブローのお腹の辺りに置いた。


「はぁ、それもそうね。えーっと、次はっと」


 服に忍ばせていた対戦表を広げる。

 第2試合、『雷』シャーロット vs ミーク


「ミーク、か。相手は『雷』シャーロット……確か天候を操る魔法使いなんだっけ? あれ、そもそも、この世界って魔法使いが絶滅してるって話じゃなかったの?」

「他の世界に比べてヒトが操れる魔力が薄いから魔法使いが減少しているだけだ。『白き星を望む鳥(アナティテラ)』の団員や前魔王軍四天王のシェパナも魔法を使っていただろう」


「……ごめん、全く覚えてない」


 本当に何の話か分からない。私がそれを目撃しているのかも怪しいが、私も見ていたという前提ならば、きっと自分の事で頭がいっぱいで気に掛ける余裕が無かったのだろう。


 まぁ、それはさておき。


「『雷』なんて大仰な二つ名が付いてるからきっと凄い雷魔法を扱うんでしょうけど……ミークかぁ。モンスターなら神聖魔法使えるし勝てる気がするけど、相手はヒトだし、ミークが本体(ミミック)ぶん投げて不意打ちで噛み付くとかしか戦法思いつかないんだけど」


 ウルメラの街では正式な冒険者としてダンジョンに潜って依頼を熟してるという話は聞いているが、見てないから、実力の程が分からない。


 一応、仮にも魔王城に配置されていたミミックなので戦闘能力は高いんだろうけど、あんな沢山のヒトが見ている中で正体を現して良い訳がない。

 良くて出禁。悪くて緊急依頼で討伐対象にされてしまうかもしれない。


「問題は無い。既に手は打ってある」


 私の心配など無関係と言わんばかりに、リンドーは簡単にそう言い放った。

 ……大丈夫だろうか。

 いつものことながら、不安しかない。


「それで? 当のミークはどこにいるの? まさかストーナみたいに帰ったって訳じゃないでしょうね」

「安心しろ。武闘試合には興味が無いからと、出店の端から端まで食べ歩きをしている。一番端の店で待っていれば出会えるだろう」

「それは……いつも通りね」



 それから少し待ってもケンザブローは目を覚まさなかったので、闘技場のスタッフのヒトに看病を任せ、ミークを迎えに行くことにした。

 試合毎にインターバルがあるとはいえ、下手に迷子になって試合開始に間に合わなかったら、本当に終わる。初戦を落とした以上、残り四試合で三勝しないといけないのだ。


「あっ、来た来た。おーい、ミーク」


 闘技場の外周に密集して出店が


 リンドーの言った通り、ミークが姿を見せた。

 が、


「と、誰?」


 背中に宝箱を背負った白い短髪の少女の隣。

 大きめの丸い眼鏡を掛けた少女がミークと手を繋いで歩いていた。

 ミークと繋がった手とは逆の手には長い木の杖を握っており、その服はリンドーと同じようなローブで、頭にはとんがり帽が。

 それはまるで。


「知らないのか? アレが次の対戦相手、『雷』シャーロットだ」

「……なんでミークと一緒にいるのよ」


 魔法使いみたいだとは思ったが、そんなピンポイントで知っているヒトだとは思わなかった。


「リンドー、クラリム」


 握っていた手を離し、私とリンドーに気付いたミークはトコトコと駆け寄ってきた。

 ミークの口元にケチャップが付いていたので、リンドーのポケットに入っているハンカチを取り出し口を拭う。


「ありがと」

「ミーク、そこのメガネっ子とはどういう関係?」

「ブーフストロガノフのお店で、出会った。手を繋ぐ代わりに、お菓子買ってくれるって言われた。だから、一緒に歩いてた」


「えっ、なにそれ。怖」


 チラリとメガネっ子の方を見ると、確かにミークの手が離れた事を名残惜しそうに手を開いたり閉じたりしていた。

 そういう趣味でもあるのだろうか。

 身内ならまだしも、初対面の子どもにそういう事をするのはダメだし普通に引く。


「次の対戦相手は変態か……」


 全身鎧、美少年(少女)、ベクトルを少しミスった恋する少女と来て、幼女趣味の魔法使い。『黄金の誓い』とやらは変わった奴しか入れないのだろうか。


 このメガネっ子、騎士団に突き出して、不戦敗にしてやろうか。


「いや、周りが囃し立ててるだけで、実際、大した事ないかも?」


 雷は雷でも静電気ぐらいの威力かもしれない。

 と思っていると、ズカズカという足音と共にメガネっ子が近づいて来て私の顔の至近距離まで顔を近づけてきた。


「近っ! 鼻当たるって、離れて離れて!」

「失礼しました。なにぶん近眼なもので」

「じゃあ離れなさいよ。いや、そのメガネ意味ある?」

「伊達メガネです。ふぁっしょん、というものですよ」

「ファッションの前に近視なら、ちゃんと度の入った物使いなさいよ」


「メガネのことは良いでしょう。それより聞き捨てなりませんね。今、あなた、わたしの魔法が大した事ないと言いましたか?」


 メガネっ子はメガネのブリッジ部を中指でクイと上げ、私に杖を突きつけて来た。


「まぁ、言ったけど……なんとなくって言うか、そうでも思わないとやってられないというか。気分を害したのなら謝るわ。その、ごめん」


 少し距離があったので、聞こえないと思った呟きだったのだが、聞こえてしまったなら悪い。

 ん? 変態の部分は聞こえてない? そっちには怒らないんだ。


 メガネっ子は謝罪に満足したのか、杖を下ろした。


「わたしの事を知らないのですから、そう思ってしまうのは仕方がありません。魔法使いは少ないですからね。いいでしょう。わたしの魔法を見せてあげます」

「いや、別にいらない」

「遠慮はいりません。我が偉大なる師に捧げるついでです」


 どうせ直ぐに試合で見ることになるから、凄くどうでも良かったのだが私の言葉など意にも介さず、メガネっ子は杖を構えた。


「暗闇を照らす光の一筋。雲を駆ける龍。この姿、この轟は正に神の顕現。音を置き去り、放たれよ。終の魔法『イナツルビ』」


 それは突然だった。

 白い光が視界の世界を飲み込み、轟音が耳を襲った。

 目を恐る恐る開けると、近くにあった木が縦に真っ二つに割れ、雷で火が付いたのか燃えていた。


 詠唱後、0コンマ数秒で放たれる雷の魔法。

 これが狙いを定めて放たれたものであるなら。


「……無理じゃん」


 と早々に二試合目の結果を悟ったのだった。



「続きまして第二試合でーす! 登場するはこの二人。当代きっての大魔法使い『雷』シャーロット、対するは神聖魔法にて数々のモンスターを倒したという幼き天才ミーク。先程の白熱した武闘は鳴りを潜め、色鮮やかな魔法合戦が見られる事でしょーう」


 闘技場を包み込む万雷の拍手と歓声。

 それはケンザブローとフルムヘンの一試合目が観客をここまで盛り上げるに足る内容だった事を思わせる。


「それではいいでーすか? 始め!!」


 オッキーの合図と共に杖を構えるメガネっ子とボウっと突っ立っているミーク。

 先程見てしまった魔法が繰り出されるのであれば、ミークに勝ち目はない。


 観客がどう思うかは分からないが、すぐに終わる試合だと私は思った。


 そして、それは実況兼審判であるオッキーが実況席に帰ってくるまでの出来事だった。


「ふんす」


「ヤーラーレーター」


 ミークの可愛らしい鼻息が溢れたと思うと、シャーロットは前から倒れ込んだ。

 痛々しい衝撃音はメガネが砕ける音も加わり、思わず口に手を当ててしまうもので。


 その後、ピクリと動く事もなく、オッキーのカウンティングが十回刻まれ、


「しょ、勝者……ミークぅぅ」

「うおー」


 両の拳を突き上げるミーク以外の全員が、戸惑いで溢れ返ったのだった。

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