16-F 『天珠』フルムヘン
『天珠』フルムヘン。
『黄金の誓い』という名のギルド随一のパーティを引っ張り、数々の難関依頼を熟してきた英雄的人物にして、かの前魔王軍四天王の1人を打ち破り、国内外問わず優秀な冒険者として有名。
物腰は丁寧で、仲間が起こしたイザコザの後始末をしっかりする面倒見の良さがあり、その男性とも女性ともとれる中性的な端正な顔立ちにより、男女問わず告白が絶えない。
ここまでが一般的に知られているフルムヘンという人物の概要で、慈悲の女神クラリムはフルムヘンの事を美少年と認識しているのだが、
フルムヘンは歴とした女性である。
それに加えフルムヘンという名は偽名で、本名はマリーという可愛らしい名前があり、元々リーダーなんてキラキラした役職とは縁遠い引っ込み思案な少女だった。
彼、いや彼女が自らの素性を誰にも言わず、冒険者を続けているのにはとある理由があった。
◇
4年前、『試練に抗う者共』併設の酒場。
「よし、これで今日から俺たちは冒険者だ! 頑張って行こうぜ、我が愛しの兄弟姉妹達よ」
乾杯と大きく叫び、酒の入ったジョッキを掲げる青年。
その青年をジトジトした目で見るのは同じテーブルを囲んでいたのは三人の男女。
「ローグ兄。ボクとマリーはまだ酒飲めないし勝手に頼むなよ……はぁ、冒険者、冒険者かー。まさか父さんと母さんが流行病で死んで、家を追い出された後に冒険者になるなんて、ちょっと前には思わなかったよ」
「そうよねー、ローグ兄さんっていつも思い付きで生きてるから、今更何を言ったって仕方ないけど……ま、仕方ないわよね。働かないと、お金ないし」
「でも、怖いです」
「マリー、安心しなさい。なんかあったら、そこの馬鹿達が守ってくれるから」
「……ミラー姉は何するんだよ」
「私? 私は……そうねー。アンタらが馬鹿やった時の後始末くらいはやってあげるわ」
少し大人びた少女は、癖毛の少年から目を逸らしグビグビと酒を呷る青年に話題を振り直す。
「で、パーティの名前は何にするの?」
「あぁー、ボクも気になってた。バラバラで活動する訳じゃないんだから、パーティ名はあった方がいいよな」
「あぁ、もちろん決めてる! 『黄金の誓い』だ」
ポカンとする三人。
「どういう意味?」
「『黄金の誓い』とは黄金のようにキラキラと輝く永遠に続く家族の絆! 決して分たれないと誓った願いの証! そして果てには最強の冒険者、最優秀ギルドアワーの栄冠を頂く。どうだカッコイイ名前だろう?」
「ちょっと……恥ずかしい」
「……正直ボクも」
「ローグ兄さん、他のヒトには言っちゃダメよ。絶対笑われるから」
「なぜ! どうして! ベーベーヤーガに来るまで必死に考えたってのに」
長兄ローグ、次兄ヴェータ、姉ミラー、そして末の妹マリー。
一文無しの四人家族はこうして冒険者としての一歩を踏み出したのだった。
最初は武器を買うお金もなく、街の便利屋として活動することも多かったが、その間にダンジョンに潜れるように鍛錬を怠らなかった四人は、ダンジョンでの依頼を受けれるようになると、戦闘技術が開花し、着々と名声を高めていった。
そして、遂にはギルドマスターから最優秀ギルドアワーへの参加を打診されるまでに至った。
順風満帆とはこの事で、四人が四人、更に努力を重ね、最優秀ギルドアワーを目指していた。
だが、
「なんだァ? テメェらもアレを探しに来たのかァ? 残念ながら、ここには無かったぜ。あー、残念だ、残念だァ。ゼッテェ、ここに、魔王様に下剋上出来る力があると思ってたんだがなァ」
暗いダンジョンの奥底で、魔族の男と出会った。
蜘蛛のように複数の腕を持つ魔族。
その男はジャッカル。魔王軍四天王と呼ばれる人物だった。
「……逃げるぞ」
パーティのリーダーである長兄の悲痛な顔が残りの三人に伝わる。
四人はジャッカルの正体を知らなかったが、対面しただけで強さがヒシヒシと伝わっていた。
「あー、ムシャクシャするムシャクシャする! 憂さ晴らしに付き合ってくれるよなァ!」
ジャッカルが一人で叫んでいる間に少しずつ後ずさっていたが、ジャッカルはそれに気づき襲いかかった。
「走れ!!」
「逃す訳ねぇダロ」
四人の中でも一番の立つ長兄が剣を抜きジャッカルから弟妹を守る盾となるように動いたが、ジャッカルはそれを嘲笑うかのようにスルーし、逃げようとしたマリー達に襲い掛かった。
そう広くない地下の一室の中、すぐさま退路を塞がれ、縦横無尽に動く化け物相手に戦闘を余儀なくされたのだった。
結果としては、4人兄妹で力を合わせて戦い勝利した。
だが、
「ローグ兄さん!! ミラー姉さん!! ヴェータ兄さん!!」
マリーを除く3人の体からは大量の血が流れていた。
それは大雨が降った後の川のように、時間が経つまで治らないような勢いで、パーティで唯一治療が出来る姉も倒れており、マリーにはどうすることも出来なかった。
マリーが特別力を持っていた訳ではない
兄が姉を守り、姉が弟を守り、弟が妹を守った結果。ある意味では自然で分かりやすい結果だった。
一人生き残ったマリーは程なくして冷たくなった三人を前に呆然と立ち尽くし、永遠と涙を流し続けていたのだった。
◇
「フォー、スリー……」
衝撃からか発生した耳鳴りの中、聞こえてくる数字がどんどんハッキリしていき、マリー、いやフルムヘンと名乗る少女はゆっくりと瞳を開けた。
胴着の男によって一瞬気を失い、過去を思い出す。
「そうだ……ボクしかいないんだ。ボクが誓いを果たさないでどうする」
長兄が語った『黄金の誓い』。
家族亡き後、フルムヘンに残ったのは、その誓いを果たす事だけだった。
だから、
「ガハッ」
口から血を吐き出し、フラフラとしながらも立ち上がる。
家族の絆はなくなったが、『黄金の誓い』が喪った家族との最後の繋がりで。
最優秀ギルドアワーを手にいれ、最強に至る為なら、どんなメンバーでも仲間に引き入れる。
姉のように仲間を想い、次兄のような口調で明るく、長兄のように頼れる人物にならないといけない。
この朦朧とした意識の中で思いだされた出来事は、このたった一言の為にあるのだ。
「諦めてたまぁるかぁァァ!」
例え剣を握る力さえ残っていないとしても、負ける訳にはいかない。
胴着の男の前に立ち、睨む。
「その意気や良し」
男は横にいた赤白の女性を離し、拳を握りしめる。
小突かれただけでも気を失うような状況だとしても、決して諦めることは出来ない。
「だが、これまでのようだ」
男の言葉はひたすらに道理。
なにか強い言葉の一つでも返そうと思ったが、そんな体力も残っていない。
最後に一撃をと、拳を握った時だった。
「よもや……………………女子であったとは」
道着の男は、鼻から血を吹き出し倒れた。
かつてダンジョンで見た血と同じくらい、大量の血が舞台に舞っていた。
「ハ?」
舞台脇に逃げた女性の素っ頓狂な声が耳に入り、道着の男が完全に気を失った事を理解する。
そして、
「決着ゥゥゥーー、勝者ャー、フルムヘンンンン!!」
実況兼審判の無精髭の男の叫びが耳に入った。
決まり手は道着の男ケンザブローが放った五連打、その内の二つ。
とある箇所に触れた事により刺激された、彼の女性不慣れによる出血多量となった。
エピソード的にこれが100投稿目になるようです。
毎度お付き合い頂きまして、ありがとうございます。多々読みづらいかもしれませんが、少しでもお楽しみ頂けているようでしたら嬉しいです。




