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変な魔法使い、異世界に行く  作者: 八艘宗八
序章 『変な』魔法使い、異世界へ
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2-F 魔法使いの散歩 回想

 時は少し巻き戻り、全員の面接後。

 魔法使いの男、リンドーは宝物庫を探しながら、魔王城をプラプラと散歩していた。


「おっ、さっきの面接の人じゃないか! さっきはありがとな」

「ふん。現れたな我が道を定める者よ。もう未来を決定させたのか?」


 リンドーに声を掛けたのは、悲しい過去を持つ元勇者ルクスと蝙蝠翼の魔族ジンペ。

 無言。疑問に対する言葉を発しないリンドー。ジンペは自身の面接を思い出し、顔を青ざめる。


「ああ、えと、ジンペは新魔王が誰になったかって聞いてるみたいだぜ」

「いやまだだ」

「ま、そりゃあ魔王だもんな。すぐには決まらんねぇか」

「ふふふ、我が覇道譚は直に開幕する。その時が待ち遠しいが、この僅かな時もまた甘美なもの……」

「二人とも、魔王城の宝物庫を知っているか?」

「「知らん」」


 容赦無く話を割って入るリンドーだが、二人は息の合った返答をした。


 というのも、魔王候補達五名が待っていた時間は、準備やらなんやらで半日は経とうとしていた。

 そんなこんなで暇を持て余した候補者達は、互いに魔王を志すライバルだと言うのに、待合室で和気藹々と話をしていたということである。

 片や人族の勇者、片や魔族の自宅警備員という異なった経歴の二人なのだが、初対面とは思えない程、仲が良くなっていた。


「何を話していたんだ?」

「我が歩みが運命に否定されしとき、新たなる希望は何を指し示すのかと思ってな」

「要するに魔王になれなかった場合の就活をしていたってわけ」


 この二人の組み合わせは、ジンペの難解な話し方に付き合えるのがルクスしかいなかったというのも大きいが。


「ま、分かるぜ、働くって難しいよな。俺も昔、身分を隠して雇ってもらった宿屋の女将に売られそうにそうになったしな。ちゃんとした職場じゃないと人間不信になるってもんだぜ」

「そ、そうか。それは大変だったんだな。よく立ち直れた……ごほん、よく絶望の淵から帰還を果たしたものだ」


 ルクスの不幸話に親身になるジンペ。

 引き篭もって外の世界を知らないジンペに取っては、外が魑魅魍魎に思えて仕方がないのだが、その恐怖を押し殺して、話を聞いていた。

 ルクスはルクスで、変に気取った同情や嫌味な嘘を吐かないジンペを気に入っているようだった。


 リンドーは仲良さそうに話す二人に別れを告げ、散歩を続けていると、如何にも入っては行けないと言わんばかりの部屋を見つけた。

 厳かで重厚な扉。扉の端と端には扉番が四六時中立っていたといわんばかりの少しの凹みがあった。

 リンドーは何も考えず、扉を押すと、この世の財を集めたと言わんばかりの金銀財宝が目に飛び込んできた。


「ここが宝物庫か」


 歩み寄り、宝の山に手を伸ばすリンドー。

 手が一番近くにあった宝箱に触れようとした、その瞬間。

 艶やかな肌が喉に絡みつき、耳元で言葉を囁かれた。


「触っちゃダメよ。最終的に私のものになるんだから」

「シエラか」

「意外、人には興味無さそうなのに、私の名前覚えてくれているのね」


 右腕が蛇の女、シエラ。


「必要は事は覚えておくものだ。お前はなんでここに?」

「その問いの答えは、そうね、貴方みたいに、このどさくさに紛れて盗みを働こうとする奴らの首をちょんぎる為。かしら?」

「それは苦労をかけたな」

「苦労? 変なこと言うのね。私は好きでいるんだけよ」


 シエラは良くも悪くも自身の欲に忠実。

 仮に自分が魔王になった時、宝物庫が空では困るという考えでここにいた。


「そうだ貴方、例の神様の従者のようだし、私を魔王にするよう進言してくれるなら、命だけは助けてあげてもいいわよ」


 喉に絡みついた蛇が体を伸ばし、リンドーの目の前で口を開け、鋭い牙を見せた。


「残念だが、もう新魔王は決まっている。ここで俺を殺してもその決定は覆らないだろう」

「そう、それは残念ね」


 脅しを仕掛けた割に、あっさりと蛇はシュルシュルと離れていき、元の女性の右腕に収まった。

 リンドーは体を振り返らせ、シエラに向き合う。


「いいのか? 脅し続けたら、状況は変わったかもしれないぞ」

「別にぃ。魔王になるのもダメで元々だし、無理なら無理でいいわよ」

「そうか」


 望みはあっても執着をしない、冷めているような性格。


「で、貴方は何をしにきた訳?」

「散歩だ」

「本当に泥棒だとしても、もっとマシな言い訳考えといた方がいいわよ」


 少し、右腕の蛇ではなく、女性の口元が揺れたように見える。


 その後、近くにあった宝箱について雑談した後、リンドーは宝物庫の外に出た。

 歩き疲れたリンドーは探索を中断し、神クラリム達がいる面接室への帰り道を探していると、廊下で蹲っている巻角の少女と遭遇し、声を掛けた。


「ベルーニャ、大丈夫か?」

「あっ! さっきのヒトだ! こんにちわ!」


 リンドーの声に反応して、ニコニコとしながら立ち上がるベルーニャ。

 パン屋志望の女の子。

 先程面接室で見た時と変わらず、特に怪我が見当たらない。


「はい。なんか、歩いてたら、迷っちゃったみたいです」

「そうか、なら着いてくるか?」

「はい! ありがとうございます!」


 実はリンドーも少し迷っていたのだが、二人で寂しく助けを待つより、二人で行動することにした。


「さっき待合室で他の候補者さんと話してたんですけど、一個ビックリすることがあったんです。実は皆んなパンが好きだったんです! これって凄くないですか?」

「あぁ、そうだな」


 リンドーは率先して廊下を進むが、道に迷っているので合っている確証はない。また、横に着いて歩いているベルーニャはリンドーが正しい道を進んでいると信じきっていた。


「オルドさんはジューシーなホットドック。シエラさんはシャキシャキ野菜の入ったサンドイッチ。ルクスさんは味が付いているパンが好きで、ジンペさんはちょっと難しかったけど、多分アンコの入ったパンが好きみたいです!」

「ベルーニャは何のパンが好きなんだ?」

「私ですか? えっと、メロンパン、いやクロワッサンが好きです。あっ! でもカツサンドも捨てがたい……あぁー、一個に決められないです!」


 うんうんと表情豊かに悩むベルーニャ。

 ベルーニャは何とか絞ろうと、頭を抱えていたが、突如轟音がリンドーたちの間を割った。


「おおおおおおおおおおおお!」


 ドスンドスンと壁を突き破り、現れたのは筋肉が発達した巨漢の男オルドバラン。


「おおおおおおおおおおお、お? 見つけた! 探したぞ! ベルーニャ! まったく、手を洗いに行くと言ってから、一時間も帰って来ないから心配したぞ」

「ええっ、そんな時間経っちゃってたんですか? ごめんなさい、オルドさん」


 体に壊した壁の破片や何らかの家具の木片を体に食い込ませ、少し怪我をしていたオルドバランは、ベルーニャを見つけ、ドスンとその場で座り込んだ。


「もしや、貴様がベルーニャを見つけ出してくれたのか。感謝する!」


 快活な笑いと共に、リンドーの背を叩くオルドバラン。

 少し痛みを感じたリンドーは顔を曇らせたが、言葉には出さない。


「二人は、元々知り合いなのか?」

「否。しかし、同じ魔王候補として名乗り上げた同士であるからな。いなくなったとあれば、心配するのは当たり前であろう」


 余りにも必死に探していたようなので、リンドーは気になったのだが、このオルドバランという男はただ良い性格をしていただけだった。


「そうか。それも……そうだな」


 同行者が三人に増え、オルドバランが突き破った部屋を辿って面接室横の控室に辿り着いた。

 その中には何故か、誰もいなかったが、すぐに残りの候補者も現れた。


「おおーい! はぁはぁはぁ。良かった! 見つかったんだな。いやぁー、俺も迷って危うく二重遭難になるとこだったぜ」

「はぁ、はっ、我が本気を出せば、はぁ、幾万の星を探すより、はっ、簡単だったが、はぁー。今回は手柄を譲ってやろう」


 清々しく笑うルクスと、久ぶりの運動と言わんばかりに汗だくのジンペ。


「なんだ。どこかに隠れていたわけじゃなかったのね。ま、私は魔王城の色んなとこ見てただけだけど」


 その後ろから姿を現したシエラは溜息をつきながらも、左腕でベルーニャの頭を撫でた。


「四人とも心配掛けてごめんなさい」


 ベルーニャは一人ずつに何度も頭を下げながら、お礼を言っていた。


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