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厄災の魔王の息子に生まれたので人魔の破滅を回避します〜運命は千里眼によって塗り替えられる〜  作者: 瀬那つくてん(加賀谷イコ)


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第7章【2】

 ヘルカが下がると、ロザナンドはようやくひとりの時間を持てる。侍従たちを邪魔者の扱いをするつもりはないが、やはりひと息つける瞬間がなければ窮屈に感じてしまう。いまは特にそうだ。この時間がなければやっていけないだろう。

 もう眠ってしまおうとベッドに腰を下ろしたとき、そばで眩い光が瞬いた。報せ鳥だ。少々面倒に感じながら解体すると、やはり面倒な内容だった。ロザナンドはひとつ溜め息を落とし、転移魔法を発動する。簡単に話が済めばいいのだが。



   *  *  *



 ロザナンドが足を着いたのは、マダム・キリィの酒場の裏口だ。報せ鳥の主――ロレッタ・カルロッテは、月明かりのもと、背筋を伸ばして待っていた。

「突然に呼び出して申し訳ありません」

「なんの用かな」

「どうしても気になることがあるのです」

 ロレッタは真剣な表情でロザナンドを見つめる。その瞳は、ロザナンドを見ていないようだった。

「あなたの肩に、何かまとわりついています。とても苦しそうに見えるのです」

 ロレッタは聖なる力を持つ勇者。ロザナンドにつく“もの”が見えているのだ。

「何を抱えているのですか?」

 ロザナンドは小さく息をつき、肩をすくめる。

「その何かがなんなのかわかるのか?」

「わかりません……。ですが、殿下にとって災いのようなもの……闇に似ています」

 ロレッタの澄んだ瞳は、真っ直ぐにロザナンドを見据えた。すべてを見透かすように。

「災い、ね……。僕の父である魔王がなんて呼ばれるか知っているかい」

「はい。“厄災の魔王”ですね。その厄災が、殿下にも降りかかっているのでしょうか」

「それはどうだろうね。息子の僕も、厄災なんじゃないかな」

 厄災は、いずれこの世界に混沌をもたらす。反乱軍の誕生がさらなる混乱を招く。そのすべてが、破滅への道しるべなのだ。ロザナンドにもその血が流れている。彼自信が破滅を魔族に招く可能性も、現時点で消すことはできない。

「あなたの中に、あなたではない誰かが見えます。あなたは――」

「もういい」

 厳しく言葉を遮ったロザナンドに、ロレッタの澄んだ瞳が揺れる。

「余計なことを考えている暇があったら、明日の作戦でも練ってくれ。明日は三個の武具をすべて集める」

「…………」

「わかるだろう。もう時間がないんだ」

「……はい」

 ロレッタの瞳は美しく、ロザナンドの中まで射貫くようだった。

「話はそれだけかい」

「…………」

 ロレッタはまだ言いたいことがあるのだろう。しかし、いまのロザナンドには、どんな言葉も意味を為さない。ロレッタはそれをよくわかっているようだ。

 そのとき、ロザナンドの左目に鈍痛が走った。頭の中に流れて来る映像。ロザナンドは、伝達の魔法でそれをロレッタに伝えた。

「見えたかい」

「はい」

「そっちはきみに任せる。好きなようにやってくれ」

 ロザナンドは自分に転移魔法をかける。宮廷を確認しなければならない。


 幸い、ロザナンドの千里眼が見せた混乱は、宮廷には届いていないようだった。

「ロザナンド殿下!」

 ユトリロが駆け寄って来る。ロザナンドの気配が宮廷に戻ったことを感知したらしい。

「ご無事で何よりです」

「父はどうしている?」

「いまは私室にいらっしゃいます」

「そう。国境で、人間が魔防壁を破壊しようとしている。偵察隊を出せ」

「はっ」

 ユトリロが数羽の報せ鳥を出す。国境付近の警備隊にもすぐに届くことだろう。

 千里眼がロザナンドに見せた映像は、国境に攻め入る人間たちだった。人間の騎士と魔法使いが、この国を囲う魔防壁を破壊しようとしている。もちろん、魔族の国への侵攻のためだ。魔王がそれに気付けば、間もなく戦争が始まることだろう。

「侵入者はロレッタに任せて来た。退くしかなくなるだろうね」

「どうなさいますか?」

「……とにかく明日、武具を三個、回収させる」

「殿下」

「ひとりにしてくれ」

 冷たく吐き捨て、ロザナンドは踵を返す。苛立ちを隠しもせず、ずかずかと私室に向かった。ひとつ舌をうち、眼帯を外す。光を失った左目が、ロザナンドに暗い光景を見せた。


『……ロズ』


『嘘つき。裏切ったのですね』


『許さない』


『愛しているわ』


『信じていたのに。あの人を』


『アノヒトヲユルサナイデ』


『忘れて』


『ユルサナイ』


 耳の奥に響く不快な不協和音に顔をしかめる。この言葉たちに、意味などないはずだ。


『忘れるな』


 ――ああ、うるさいな。お前は誰なんだ。


『僕の中から出ていってくれ』


 ――頼むからひとりにしてくれ。


 ――僕は、死んでなんかいない。


 シン、と無音が辺りを支配する。光を失ったはずの左目が、その景色を捉えた。

 木造の天井。丸い照明。狭い部屋。背表紙のない本棚。埃臭さが鼻を突く。

 目の前にはドアがあった。躊躇いは必要ない。その確信とともに開くと、隙間から明かりが漏れ出す。眩い光の中、誰かが振り向いた。


「あなたは誰なの?」


 ハッと目を覚ます。鏡台に映る顔が見える。浅葱色の髪。真っ赤な右目。左目は眼帯で覆っている。

「――様、お目覚めですか」

 優しい声に顔を上げると、ヘルカが穏やかに微笑んだ。もう一度、鏡に視線を戻す。

 ――ああ……僕だ。

 ひとつ息をつく。不可思議な夢を見たようだ。

「ロザナンド殿下。ご気分はいかがですか?」

「ああ、悪くないよ。今日は何をするんだったかな」

「マダム・キリィの酒場で、勇者たちが待っているのではありませんか?」

「ああ……そうだった。少し寝過ごしてしまったようだ」

「ここのところお疲れでしたから。けれど、顔色がよろしくなりましたね」

「ああ、そうだね」

 左目の眼帯に触れる。温もりを失った左目が、微かな風を感じるようだった。





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