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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

壊れる関係なら壊しちゃえば?

作者: 梅谷 蕗

仕事に忙殺されていた私は夕飯に何も作る気が起きなくて、冷蔵庫にあった納豆をかき混ぜながらテレビを見るともなしにみていた。

そんなときに、学生時代の友人、友子から数年ぶりに電話がきた。


「お久しぶりです。覚えてるかな?友子です。元気?…ですか?」


「友子!久しぶり、もちろん覚えてるよ!うん、私は元気…ではあるけど、仕事に追われて連絡してなくてごめん。友子は元気?なんかあった?」


「うん。私も元気。実は会社で水族館のペアチケットをもらったんだけど、彼とは別れたし、どうしようって考えてて、そういえば、あず、水族館好きだったなーって…。忙しいなら無理しなくていいんだけど…今度の土曜日、どうかな?」


「え、いいの?いくいく。私が水族館好きだなんてよく覚えてたね!なんか嬉しい。えー楽しみー!え、ちなみに水族館はどこ?日帰りできるとこ?待ち合わせは何時にどこがいーかな?」


「よかった!池品水族館なんだけど、あず今も住所変わってないなら日帰りできるよ。10時半ぐらいに池品水族館前でどうかな?」


「住所変わってないよー。わかった!今度の土曜10時半に池品水族館前ね!楽しみにしてるね!」



土曜日、池品水族館前で友子を待っていると、

「あずー!お待たせー!!久しぶりー!あず全然変わらないね!おかげですぐわかった。あー懐かしいなぁ!あずー会いたかった。」


「友子ー!久しぶりだねぇ!うんうん懐かしーね。友子は…、ちょっと痩せた?」


「おっ!わかる?そーなの。彼と別れてからちょっとショックでさー。ダイエットして見返してやる~って!今頑張ってるんだー!」


こうして私たちは数年ぶりにも関わらず学生時代の続きのような再会を果たした。

池品水族館に来た私たちは早速、他の水族館にはない、透明なドーナツ型の水槽に向かった。

ハイスピードで泳ぐアザラシを横からも下からもみることができるのだ。

せっかく他にはない展示方法なのだからとアザラシと一緒に写真を撮ろうとするものの、通り過ぎるのが早過ぎてまるでアザラシが心霊写真のようにブレッブレなのがおかしくて二人で声をあげて笑った。


一通り水族館を回った私たちはペンギンのショーの時間まで水族館内のカフェスペースで軽食を食べながら休憩することにした。


「ねぇ、あず。」


食べかけのサンドイッチに手を伸ばしながら呼びかけに返事をする。


「んー?」


「あずさー。彼氏いたっけ?」


あー、やだなぁこの話題。


「んー?いたことすらないけどぉ?どして?」


だって私は…。


「あず、いつもさー、告白はされてるじゃん。私告白されたことなくてさー。」


いや、前にしましたけど?もう一回ダメ元でいっとくか。

「うん?あー。私は友子好きだよ?」


「いや、そーじゃなくてさー。」


ほら、やっぱりダメなんじゃん。


「そーじゃなくてってなにさー。」


こっちは本気で好きなんだけど。


「うーん。あずはなんで告白されても付き合わないの?」


そんなん、私が好きなのは友子だからだが。


「えー。だって失礼じゃん。好きでもないのに。」


どーも思われてないのは承知だけど友子にも失礼だろ。


「なんでー付き合ったら変わるとか思わないのー?」


「思わないよ、だって好きな人いるし。」


「えっ!あず好きな人いたの?!え、誰??会社の人とか?」


目を丸くして驚く友子。


もーやめてくれんかなー。思わずため息をつく。

これ以上言えばこの関係すら壊れるのだろうか…。

いや、もう、不毛な関係はやめよう。いつか壊れるならもういっそ壊してしまえ。


「いや?昔からずっと目の前の人に言ってるけど本気にして貰えないからもうほとんど諦めてるよ。」

あーぁ、言っちゃった。怖すぎて、友子の顔みれないよ…。


「………えっ?えっ?どぅ?えっ…。」

ほらー……もー。そーなるじゃん。振るならさっさと振ってくれ。


「え、と、あずは…え、私?ごめん、ちょっと、混乱してる。ちょっと待って。」


「まーそりゃ、そーなるよね。相手女だし。ノーマルな人が同性から告られても困るだけだよ。うん。大丈夫。私は大丈夫だから。」


何も大丈夫じゃないけど。そーいうしかないし。


「や、そーじゃなくて。本気で?本気で私?揶揄ってるとかじゃなく?」


「揶揄ってるように見えるー?」

もーヤケだ。


「…見えない。え、てことは、え?マジで?え、どうしよう、ごめん。」


狼狽えだした友子をなだめる。

「いやいや、落ち着いて、それが普通の反応だから。私が普通じゃないだけで。」


「え、でも、だって、私、元彼のこととか、あずさにずっと…わー。ごめん。ホントにごめんね。私、めっちゃ鈍感でいっぱいあずさ傷つけてたよね。どうしよう、ごめん。」

軽くパニック状態のまま半泣きになっている友子。


いや、マジで泣くからやめて。もう謝らないで。

「大丈夫だって、それ以上謝んの禁止。つかそれ以上言われたら泣く。」


「えっ、あっ、ごめ…じゃなくて、えっとえっと、とりあえずだまる。」

だまんのかい!かわいーなおい!


「うん、とりあえずこの話は一旦おしまい。サンドイッチ食べ終わったし、ペンギンのショー…あ!……。」

話している間にペンギンのショーの開始時間を5分もオーバーしていた。


「あぁ!ペンギンっ!もー時間過ぎてるじゃん!飼育員さんフル無視のフリーダム過ぎるペンギンのショー楽しみにしてたのに!あず、急ごう今行けば最後の10分くらいは見れるよ。ほら急いで急いで!」


あんな話の後なのに友子の私への態度は変わらない。

これだから諦めきれないのだ。


「わかったわかった。友子私、会計して後から行くから、先行ってていーよ。」


私が会計の列に並びに行こうとすると、

「やだ。一緒にいく。」

といつもなら、そう?じゃ後でね!と先に行くはずの友子がついてくる。


「へっ?なんで?ペンギンみたいんでしょ…?会計してたら多分5分も見れないよ?」


いったいどうしたというのか。


「ペンギンはまたみにくればいーから。」

いや、だったらさっきの急かしようはなんだったのよ。

「いや、でも、ペンギン…」

「あずは私があずよりペンギンを選んでいーの?」

私の言葉を遮ってそんなことを宣う。


「いいとか悪いとか…ペンギンショーをみたいと言っていたのは友子だし、今までなら、私が会計してる間に先に見にいってたじゃない。どーした?」


私はよほど不思議そうな顔をしていたんだろう。


「私そんな薄情じゃないもん!失礼だなぁ!あずがそんなんだから…そんなんだから……ばか!」

怒られた。そんなんだからってなんだ?解せぬ。

そんなやりとりをしているうちに会計の順番がきて支払いを済ませる。


「行こう、走る?」

「走らないよ、だって私が走り出してもあず絶対走らないもん。」

ペンギンのショーの場所へ二人で早歩きで向かう。

ペンギンのショーはまだやっていた。

「あ、まだやってるよ!ほらあず!こっちこっち。こっちからならよく見えるから!」


「はーいペンギンさんたちー誰でもいいですよー階段を上って皆さんにご挨拶ー!あれ?だれもきてくれませんねー。誰でもいいですよーごはんありますよー。あ、ありがとうございます。階段をのぼってくれました!はい、ご挨拶ー…しない。あ、ごはんだけはたべるんですね。はい、ご挨拶ー……はやっぱりしないですかー。それではね、ご飯もね、なくなっちゃいましたし、時間もね…。来てしまいましたから。これでペンギンさんのショーを終わりたいと思います。ご来場の皆さまありがとうございましたー。ペンギンさんたちー帰りますよー。整列ー。」

ピッピッ。ピッピッ。


飼育員さんの笛に合わせてそれまでは飼育員の指示フル無視だったペンギンたちが帰りだけはぞろぞろと整列して移動していくのが面白いと人気があるらしい。

最後だけではあったが見れてよかった。

友子もどこか満足そうだ。


ショーが終わったステージから観客が去って行く。

友子はその場から動かない。

そのうちに観客が誰もいなくなった。


「ねぇ、あずさ…さん。」

友子が改まってこちらを見る。


「なんだい、友子さん改まって。」

ノリで調子を合わせた。


「同じ熱量の好きは返せないかもしれないけど…。」考えがまとまりきっていなそうな様子で言葉が途切れる。

「うん?」

何?同じ熱量?どういう意味?

「あずさのこと、私、そういう目で見たことなかったからさ?」

「うん、それは知ってる。」

当然だろう。


「それで、えと、なんて言ったらいいのかな…。うーん嫌いじゃないよ?友だちとしてはサイコーに好きだし。これからも、今までと同じようにいれたらいいなと思ってる。」

あーこれは完全にお友達でいましょうの流れだよね。そりゃそうだよね。むしろまだ友達でいさせてくれるんだ。

「うん、ありがとう。」

友達のままでも充分だ。関係が壊れなかっただけありがたい。

「うーん…訊いてもいい?」

とても聞きにくそうな顔の友子。

何聞かれるんだろちょっと怖い。

「うん?どうぞ?」


「あずは、私とその…あれこれ?どうこう?したいとか…思ってる…ってこと?なのかな?」


ふぁっ?!いやいや、そんな。えっ!それは……聞きにくいわな。確かに。でも…。


「そこまでは考えたことなかったわ。そもそも受け入れて貰えないと思ってたし。」

そう返すと友子あからさまにホッとした様子で、ちょっと傷つきかけた。のだが、

「だったら、うん、決めた。」


「え?何を?」


「私と付き合おうよ!あずさ。」


「はぁあっ???」

何言いだしてんのこの娘は!


「え、そんなに驚く?だってどうこうするつもりはないなら、今までとそんなに変わらないってことだよね?」

いやいや、どーいう理屈だよ。変わるだろ…。

ん?いや、変わらない…のか?


「いやー、まぁ…そー…なのかなぁ。でも正気?え?マジで?本気にするよ?今はどうこうなるつもりはないけど、この先はわからないよ?受け入れてくれるなら欲張りになるかもよ?その時に拒絶されるのちょっと耐えられない…よ?」


「うーん。でもさ、それって普通の恋愛もそーいうのはあるじゃない?付き合ってるうちにここは合わないなーとかここだけは赦せないーとか、好きだけじゃなくて折り合いつけていく部分は絶対出てくるし。…女同士でどうこう…は、ちょっと今はわからないけど、先のことは誰にもわかんないし!…って私何言ってるんだろ…ごめん、なんか…ちょっと私人生で初めて告白された衝撃でおかしくなってるかも。」


そういう友子は顔が真っ赤になってパタパタと手で仰ぐ。


「ふふっ、かぁわいいなぁ。」

思わず口をついて出た。


その瞬間、仰いでいた手が止まってますます顔を赤くして友子がかたまる。


「あぁ、だめだよ。そんなかわいい顔したら。その気になった私に襲われちゃうぞ?」


真っ赤な顔で目を見開き口をパクパクさせてから、

「あずさの意地悪。でももー決めたもん。いっとくけど、あずさに選択肢なんてないからね!告白を撤回なんてさせないからね!」

とかなんとかもごもご言いながら私をバシバシ叩く。

地味に痛い。でも、幸せだからいっか。

「…ッははっ!お手柔らかに。友子。これからもよろしくね。」

最後までお読みいただきありがとうございます。

楽しんでいただけたら幸いです。

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