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正義のミカタ 作りました  作者: すっぱすぎない黒酢サワー
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一章 不忘蔵王と正義のミカタ 2

 

 なんとはなしにそちらへ視線を向け。


 ――そこに、ドでかい竜巻があった。

 


 一周二〇〇メートルトラックが入る程度の一般的な校庭。その敷地面積のほとんどを埋め尽くす風の渦は、大地を削り瓦礫を巻き込み木の葉を舞い上げている。

 

 声はあろう事かその中心から聞こえてきていた。


 気づけばあたしのクラスメイトどころか、他のクラスの連中までもが窓から頭を突き出してざわざわと騒いでいた。


 そりゃそうだ。こんな町のど真ん中、通常ならあり得ないような場所に巨大な竜巻が、しかも何の前触れもなく現われたのだから。


 彼らのその反応はすこぶる正常だろう。

 

 校庭を席巻していた巨大竜巻は、しかし現れたと同時に見る間に中心に向かって収束していく。その中心、荒れ狂う風の中から巨大な影――空飛ぶ巨大なエイのようなサメのようななんとも形容しがたい生物は

 

「どもー! 一週間ばかり遅れて登場! だけどそこに正義の息吹を感じるねー!」


 その上にブロンドな美少女さんを乗せていた。



 『『『どだだだだだだっっ!!』』』



 凄まじい大音響が聞こえたかと思うと、次の瞬間にはクラスから人が居なくなっていた。

 

「いやはや、皆さん落ち着きないですね」

 

 いや、正確にはあたしと水奈以外のみんなが教室から逃げ出し、廊下の扉と窓から、恐る恐るといった様子でいくつもの顔を覗かせていた。

 

 あたしの隣には、この場にあって不似合いなぐらいに落ち着いた笑みを浮かべる仮面優等生。

 ――おい水菜。お前ももうちょい動揺してもいいと思うんだけど。どうなんだ?



『うひー! 怪獣きた! バケモノきた!』

『やべえよマジでなにこれファンタジー!?』

『オレこの学校来て良かった~~!』

『テレビで一回だけ見たことあるけど、あれってもしかして……』

『不忘さんと黄ノ宮君も逃げなよ! 絶対ヤバイって!』

 


 廊下からは喜ぶような声も聞こえてくれば、泣き出しそうな声も聞こえてくる。

 その感想正しく十人十色と言ったところか。

 

 そりゃそーか。さっきの台風に加えて、あんだけ大きな怪物が突然現われたのだ、《神様を見たことが無い》人間なら当然の反応なのだろう。



 あたしはあたしで、さてどーしたもんかと思いながら、その怪物へ目をやっていると

 


「ざおー! 会いたかったよぉーーぅ!」

 


 首の骨が折れるかと思いましたっっ!


 巨大魚の背中に仁王立ちしていた少女は、あろう事かそこから三階のこの教室まで飛び込み、あたしにラグビー部も真っ青の超絶タックルをお見舞いしてきてくれたのであった。


 ……よかった、まだ首が体にくっついてる。

 


「正義立つ! ざおーのもとに! 今より正義はざおーの剣となり盾となり機関銃とかになりにゅーくりあなウェポンまでも到達するよー!」

 


 いや。意味解んないし。何がしたくて、っていうか正義ってなんなんだー!


  

「オーケー美少女。まずは落ち着け」

 


 言いながら、若ハゲ先生にジェスチャーで一先ずここは任せて下さいと伝えてみるあたし――って、なんだ先生、あの子の体当たりでも食らったのか床にのびてるし。



「ん、ん~。なんだかふよふよ? なんで? おっぱい?」

 


 聞いてないよこの子! つーか揉むな。人の胸を。貴重な美少女(諸説あり)女子高生のバストぞ。


 そして現在、謎の巨大魚から降り立った少女は、そのままダイレクトにあたしの上に跨り、人のたわわ(推定)なバストを揉み揉みとマッサージかましてくれていたのだった。



『おおーう! ブラーボ!』

『俺も、俺も揉みてぇぇぇーーー!』

『僕は本来なら百合属性よりもつるぺたなんだけど、でもこれはこれで……!』

『きゃー! 禁断の愛よ愛!』

『ああっ……私には刺激が強過ぎる……っっ』

『不忘さんて進んでるのね……。あ、あたしも……』

 


 その様子の一部始終を見ていた男子連中とさりげなくクラス大半の女子の、なんだか感極まるような声とか黄色いに混ざって――え? 怖い。なんであんたは拍手しながら涙流してんの。水奈クン?


 ていうかお前ら、どうしてあんだけビビって教室の外まで逃げ出したくせに、そう言う所にはきっちりちゃっかり目が行くか。

 

「あーーッッもうっ!」

 

 ブロンド美少女を押しのけながら立ち上がるあたし。


 辺りには少女が飛び込んできた衝撃と、それにすっとばされたあたしの体によって机や椅子が散乱していた。


 我が体ながら、これでちょっと打撲してる程度にしか感じないのだからすごいねあたし。イカすぜあたし。

 

 ――いやいや。そうではなくて。


 

「お前ら! いいから戻ってきなって! んな怖がるようなもんでもないから!」


 あたしは教室の外のクラスメイトへ声をかける。まずはこの騒動を収束させねば。


 

『姐さんがそう言うならな~……つーか姐さんは怖くねーの?』

『ま、まあ確かに、何をみんな、ビビビビビってるんですかかかかねね』

『なんか黄ノ宮のヤツもウソくせー笑いをいつものように浮かべてるし。大丈夫なのか?』

『でも、確かに良く見たら怖くないかも……ていうかちょっと可愛い?』

『あ、マンタに似てるかも。私、去年スキューバ行った時に見たよ!』



 自分で言うのもなんだが、あたしはこのクラスでちょびっとだけ発言力があったりする。


 何故か殆どの女性陣からは姉ちゃん扱いされ、男性陣からは下手すると『姐さん』とか呼ばれたりしている訳だが、きっとその辺には何かあたしの与り知れぬ理由があるのだろう。


 ……もう少しおしとやかになった方がいいかな。



 まあ、そんな姉御扱いされてるあたしに言われ、何やら思う所はありながらも廊下から教室へと入ってきたクラスメイト達。


 だが、彼らのその足が、ちょうど教室の中央に居るあたし達に近づく一歩手前で静止する。


 ん? なんだ?

 


『それより不忘さ。その子は…………ッッ!!』

『ギャー! 女神様! 女神様じゃあああぁぁぁああーーーー!!』

『オレの嫁! オ・レ・の・ヨ・メぇぇぇぇぇええーーーー!!』

『え……うっそ。すっごい美人!』

『うっはー……自信無くすわぁ……』

『キャーッ! キ、キャキャハハハキャハーー!』

『……ちょっとあんた、その反応はキモいよ……』



 やだ、うちのクラスメイト。みんな騒がしすぎ……。

 

 ていうか何だお前ら何言って。さっきまでのリアクションとはそりゃあまりに違いすぎないか?


 ――ああそうかお前らにもやっと高貴で可憐なあたしの魅力が解ったのね。


 なんて、そんな風に何がどうなっているのか若干混乱し続けていたあたしの頭も、あたしに跳ね除けられて両足をハの字にして、床にぺったり座り込んだ少女の姿を見て一目で理解した。


 

「うおぅ……」



 思わず感嘆の声も漏れ出てしまうというもの。

 

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