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正義のミカタ 作りました  作者: すっぱすぎない黒酢サワー
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五章 不忘蔵王と蒼極天の神 9


「っはぁ~~~~……」


 

 両肩から垂れる赤い血が大地に染みを作り、白いデニムはダメージジーンズが土下座で謝ってきそうなぐらいに破壊された。

 

 だけど。


 

「……生きてる。ね」


 

 あたしは暴風の刃にその身をきざまれ、体のあちこちに傷を付けながらも、どうにか刃の壁を乗り越えた。

 

 台風には目があると言うけれど、おそらくここも、それと同じなのだろう。

 竜巻の中は驚くほどに穏やかだった。

 

 風だって吹いていないし、花壇に植えられたタンポポだって何事も無いように土に根を生やしている。

 

 血は出てるけど歩けないほどじゃない。

 傷だっていっぱい作ってお嫁に行けるかどうかは怪しいけど、それでも死にそうだなんて思わなかった。

 

 決死の思い……なんかじゃ断じてない。


 

「やっぱり。ね」


 

 この中へと入る前は、正直言うとあんだけ格好付けてても自信が無かった。

 あたしの行動は本当にこれでいいのかと、本当にこれで、あの子が助かるのかと。

 

 だけど、今はむしろ晴れ晴れとしてさえいる。

 

 あの壁を越え、この城の中へと入る事が出来た事で、あたしの不安は確信に変わっていた。


 傷は……うん。大丈夫。

 

 絆創膏ぐらいじゃ足りないけど、もう一度あの壁を越える事なんて出来ないけど、それでも、迷子の子供ぐらいは救ってやれる。

 

 あたしは屋上を見て、誰ともなしにこんな事を口にしていた。


 

「待ってなよ。ユイガ」


 

 助けて助けてなんて嘆いてるんじゃない。

 あたしが行って、力の限り引っ叩いてあげるから。




 


 はぁはぁと息を付きながら、血の滲む傷口を押さえながら、あたしは階段を昇っていた。

 

 窓から見える景色は、学校敷地内こそ静かなものの、それより外に目を向けるとあたしが入ってきた時よりも更に恐ろしいスピードで暴風が吹き荒れ、なおも大地をガリガリと削り取っていた。

 

 ――なんて、外がどうなったかとか心配している場合じゃないんだよ。不忘蔵王クン。

 

 意識が時折飛びそうになる。

 傷はそこまで酷くないと思ったけど、ちょっと、血が出すぎたのかな。


 

 でももう少し。

 あの扉だ。

 あの扉を開ければ屋上。

 

 水奈は言ってた。学校の屋上が中心となってるって。

 なら、その中心にあの子は居る。

 

 そこにユイガは居る。


 

 正義の味方になりたくて、正義の味方になってしまった大きな子供がそこにいる。

 

 正義の味方になりたくて、悪を喚んでしまった誰よりもバカな子供がそこにいる。

 

 

 だからあたしが叱ってやらないと。

 あたしが、あたしがあの子をあんな風にしてしまったのだから。

 

 一歩。

 一歩。

 

 階段を昇る足に力を込める。

 

 ぼたぼたと階段に血が落ちる。

 

 あと一段。ここを昇れば屋上だ。

 

 さっきはちょっと眩暈がして転んじゃったから、今度は足を踏み外さないように気をつけないと、ね。


 

「……っっ!」


 

 思った拍子に足を滑らせそうになった。

 危ない危ない。

 もう少しでまた転ぶ所だった。

 

 誰だこんな所に水をぶちまけたのは。自分のやった失態は自分の手でしっかりと始末をつけて――。

 

 思いながら足元を見て。

 

 そこに真っ赤な血溜まりが出来ている事に気がついた。

 

 その血はそのまま、あたしの左腕まで繋がっていた。


 

 ――なんだ、あたしがやったのか。


 さっきすっ転んだ時に階段の段数が増えたような気がしたけど。

 もしかしたら転げ落ちてその拍子に傷が開いちゃったかなぁ。

 

 こりゃきっと、あたしの作った血溜まりだ。 

 悪かったね。恨んじまったどこかの人。


 

 思いながら、手すりを掴んでいたあたしの手がずれ落ちる。

 

 あれ、いかんよこりゃ。本当にちょっと、意識、が……。

 

 あと一歩。あと一歩なんだから。

 あと一歩で、あたしはあの子を連れ戻せる。居なくなってしまうあの子を助けられる。

 

 もう少し……なんだ。

 

 あたしはもつれた足を、それでもどうにか屋上へと向けて倒れこんだ。

 勢いで扉が開く音がする。


 

 アスファルトに思い切り体をぶつける。

 激痛は走らなかった。


 そりゃそうだ、こんだけ血を流してもまだどうにか自分を保っていられるのだから、もう痛覚なんてどこかへ行ってしまったのだろう。


 

「良かった。ユイガ。どこ……だ……」


 

 屋上にうつ伏せに倒れたまま、あたしは周囲を見渡す。

 

 そこには。

 

 

「ユイ……ガ?」

 

 

 誰も居なかった。


 

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