表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/7

2.姉と兄


「姉さーん、助けてー」


 翌朝、アンヌは姉の家に押しかける。


「まだ、指一本触れられてない。純潔よ。大変よー」


 玄関でひと息にまくし立てると、口の中にハンカチを押し込まれた。そのままグイグイ引っ張られて奥の客間に入れられる。


「やめなさい、みっともない。モテないって大声で世の中に申告してどうするの。モテて大変って言わなきゃ、モテないわよ。男は、みんなが好きな女が、好きなんだから」


「私はジェラルドにだけモテたいのよ。他の男はどうでもいいのよ」


「座りなさい。何があったか教えて」


 アンヌは、甘くない新婚生活の洗いざらいをブチまけた。


「ということでね、夜着、全く効き目がないわ」


 アンヌはそう締めくくると、グビーっとお茶を飲み干す。


「兄さんに相談しましょう。私直伝の手練手管が通じないなら、男の意見を聞かないと」


 アンヌと姉は馬車に乗り、大急ぎで実家に向かう。ジェラルドの屋敷には遠く及ばない、こじんまりとした家。姉妹はこっそり兄の部屋の前まで忍び込む。


 バーン アンヌが扉を開ける。


 シュッ 姉が兄の口の中にハンカチを投げ入れた。


 長年つちかった姉妹の技は、今回もうまくハマった。兄は苦い顔をしながら、ハンカチを吐き出す。


「お前たち、いつまでこんなことする気だ。ふたりとも人妻だろ。いい加減、落ち着いたらどうだ」


「私、まだ手がついてないんですー。助けてー、兄さーん」


 アンヌのあけすけな言葉に、兄は頭を抱えた。


「だから、お前に黒ヒゲは無理だとあれほど」

「弱気にならないで。とりあえず結婚できたんだもの。これからよ」


 頭を抱える兄に、例の夜着を広げて見せる。


「これ、これでもダメだったの。ねえ、私、女として終わってる?」

「やめんか、はしたない」


 兄はアンヌの手から夜着を奪うと、クルクルと小さくたたむ。


「お前な、アンヌ。まずは人として役に立つところを見せろ。女うんぬんはそれからだ」

「具体的にお願いします」

「こんなこともあろうかと、調べておいた。これが黒ヒゲの困っていることだ」


 兄はアンヌに小さな紙を渡す。


「この住所に行け。そこの問題を解決してみろ。そうすれば、黒ヒゲの部下の信頼を得られるだろう」


「さすがです、兄さーん」


 アンヌは兄に飛びついた。兄は、アンヌをイヤそうに受け止め、すぐ姉に渡す。兄は優しいが、甘やかしてはくれないのだ。


 

 兄と別れ、アンヌは姉と一緒にその場所にやってきた。街外れにポツンとたつ、がらんとした大きな家。中から何やら色んな鳴き声が聞こえる。


 アンヌと姉は窓からこっそり中をのぞいた。


「犬がいるわ。猫も。あ、男の人も」

「どうする?」

「そりゃあ、話を聞くでしょう」


 アンヌは姉に止められる前に、窓をコンコンと叩いた。ハッとアンヌたちを見る男性に、アンヌは精いっぱいの笑顔を見せる。


「ちょっと、姉さんも笑ってよ。私が笑うより、効果があるんだから」


 ふたりの女性の笑顔につられて、男性も微笑む。扉を開けて、外に出てきた。


「何かご用ですか?」

「はい、お手伝いに来ました。私、アンヌ・デュカスです。ジェラルド・デュカスの妻です」

「えっ」


 男性はアンヌを見て口を大きく開け、慌てふためいた。


「奥さまですか! なぜこんなところに」

「はい、ですから、お手伝いに」

「奥さまにお手伝いいただくわけにはいきません」

「大丈夫大丈夫。私、動物大好きだから」


 アンヌは姉の色気を存分に活用しながら、強引に建物の中に入る。男性は、ジェラルドの商会の社員ということだった。


「さあ、話を聞かせてくださいな。ここは何ですの?」

「ここは、ジェラルド様が保護された野良犬と野良猫の家です」

「まあ、私の旦那様、最高だわ」

「その通りです」


 アンヌと男性は分かり合った。固く握手を交わす。



 その日から、アンヌの日課に動物の世話が入った。毎日朝早く行き、ごはんと水を与える。犬はそれぞれの囲いから出し、庭を走らせる。その間に掃除だ。


「今日はね、みんなに首輪を持ってきたのよ。万一ここから逃げ出しても、私に連絡が来るようにね。街をフラフラしたら、下手したら殺されちゃう。出て行っちゃダメだからね」


 犬たちは、割とすんなり首輪をつけさせてくれた。アンヌのことを、ごはんをくれる人と認識したのだろう。


 猫はほとんど無理だった。そもそも手の届く距離に降りて来ない。


 アンヌは建物の高いところに猫の通路を作ったのだ。ジェラルドの商会の人たちが手伝ってくれた。


「これで、犬と猫がケンカせずに暮らせるでしょう」

「素晴らしい考えです」


 商会の人たちは、すっかりアンヌと仲良くなった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
何コレ。面白すぎるんですけど これまで読んだ「愛することはない」系と二味違うぞ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ