温度
蹲った誰かの手を握るたび
倒れた誰かの背中を抱えるたび
そいつの温もりが伝わって
いつも思うことがある
どうして 誰もこいつを愛してやらなかったんだって
温度があるじゃねぇか
生きてるだろうが
何で 誰もお前を止めなかったんだろうなって
俺は思うんだよ
一緒に飯食うか
何か食えよ
どうして親切なんですか
どうして助けたんですか
転がってたからだ
こんなやり取り 数えきれないくらい交わした
大体 続きも似たようなもんで
何で放っておいてくれなかったと言われるのがオチだ
その答えも 寝言で言えるくらい繰り返した
俺の前にいたからだ 他に言いようもねぇ
助けるつもりなんかない
責任取ってやる気もねぇ
余計な世話も自覚している
でも 俺の話じゃないだろ?今 お前の話が必要だろ?
俺じゃなくて お前が自分の話をしろよ
お前は 誰かに言いたかったんじゃないのか
いろんなもん背負って 捨て鉢になったこと
諦めて体が動かなくなったこと
もう無理だとへたりこんだこと
帰る場所がないこと
誰にも
誰かに
求めてもらいたかったこと
話している内に 声が小さくなって
聞き取れないくらい 疲れた声が
掠れて 潰れて 黙り込む
そうやって 背中丸めてくたびれたお前が
どうして 悪いのか 俺には分からない
バカさ加減も 愚かさも 悪さも 面倒も
人間はそういう生きものだろ
少し休んだら 何か食え
食って 体に力を与えて
もうちょっと 時間延ばしとけ
生きてる時間は そう多くないんだ
人間なんてあっさり死ぬ 呆気なく終わる
それまでの間 お前が欲しかった言葉に会えるかも知れない
お前が好きだよって 誰かがお前に伝える
お前の温度を 温もりを認める誰かが来る
これまでは 会わなかっただけだ
お前が強くなくたって 賢くなくたって
面倒な過去があったって 上手くできないにしたって
そんなの関係なくなる
まだ 会ってないだけだ
夜になると 祈るんだ
ここで食事した 一時の誰かを思い出して祈る
窓の向こうが雨だと 少し気になる
晴れた夜だと 心配が減る
元気でいろよと祈るんだ
ここを出たお前たちが
どこかで誰かを 今は愛しているように祈っている