第1話
「ずっと一緒にいよう」
高校二年生の時に付き合ったクラスメイトの男子は、初めて一緒に出掛けた帰り道、私にそう言った。彼が別の女子生徒と放課後の校舎裏で抱き合っている現場を不幸にも通りがかった私に目撃されてしまうのは、それからわずか三か月後のことだった。
逃げるようにその場を去った私に、その夜かかってきた彼からの電話は、「今日のことだけど」から始まり約十分間つづいたが、要するに「別れてほしい」というのが、彼の用件のようだった。部活の後輩に告白されて付き合いたいと思っていること、私といると疲れるのだということ、他にもいろいろな言葉が私の耳に届いてはいたが、それらは出来損ないの紙飛行機みたいに、私の脳に到達することなく落ちていった。
私からも彼に何か言わなければならないと思ったけれど、頭に浮かぶのはとりとめもないことばかりだった。あなたと買った揃いのシャープペンは結構気に入っているのだけど捨てたほうが良いのかとか、あなたはどの程度の期間を想定して「ずっと一緒」と言ったのだろうとか、そんなところだ。だから私は目を瞑り、何も言わずに彼の言葉が通り過ぎるのをじっと待ち続けた。
気が付くと電話はすでに切れていて、生温い携帯電話を耳に当てたまま、悔しさなのか怒りなのかよく分からない感情で私は泣いた。彼とはその後、教室で顔を合わせることはあったけれど、話しかけることも、話しかけられることもなく、結局そのまま卒業を迎えた。もう十年以上も前のことだ。