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第2話 彼女への告白

「お昼休みだけど、少し時間もらえないかな?」


 精一杯の勇気を振り絞ったような声。

 傍目に見てもガチガチに緊張しているのがわかる。

 頬も紅潮しているし、額からも何やら汗が出ている。

 しかし、目を逸らす事なくはっきり言った彼。


「んー、別にいいけど。要件は?」


 遊子にしてみれば、何の話だろうと思う案件だ。

 故に、そう返したのは必然。


「それは……ここでは、ちょっと言いづらいから」

 

 矢田部(やたべ)の視線が二人の間を行ったり来たりする。


「付き合ってやれよ、遊子(ゆうこ)。重要な話っぽいし」


 矢田部の様子から何かを察した彼は、遊子にそれを勧める。


「ま、いっか。それじゃ、また、お昼休みに」

「ありがとう、山岸(やまぎし)さん」

「うん?別にお礼言われる程のことじゃないけど」


 遊子は何故お礼を言われるのかわからず、首をかしげる。

 そして、その様子を見てため息をつく洋介。


 午前の授業中。

 窓の外をぼーっと見るばかりで、イマイチ身が入らない。

 元々、洋介は授業を真面目に受けるタイプではない。

 それでも、今朝は色々考えてしまうのだ。


(あれは、ほぼ間違いなく、告白案件だろうな)


 矢田部の様子から、そう確信する。

 容姿かその明るさか。とにかく、遊子の何かに惹かれたんだろう。


(あいつ、どうするつもりだろうな)


 さっきの様子を見る限り、彼の真意に気づいた様子はない。

 洋介は遊子の出す答えがとても気になっていた。


 接点はあまりないが、矢田部はいい奴だと彼は思っていた。

 クラスでは目立たない奴だが、掃除当番や日直の仕事も真面目。

 そして、さっきの遊子に対する振る舞い。

 真面目が服を来て歩いている堅い奴だが、嫌いではない。


 しかし、その事を考えるとどうしても心がざわつくのだ。

 (もし、告白にあいつが応えたら?)

 遊子と矢田部は恋人同士。

 あの橋を渡って家を行き来する関係もなくなるだろう。


(後をつけてみるかな)


 告白の現場を覗き見ようなどと趣味が悪いのは承知。

 しかし、気になるものは気になるのだ。

 そんな時、いつでも彼は行動する。


 隣の席の遊子を見ると、何やら難しい顔をしていた。

 顔を俯けて、懊悩したような表情をしている。

 ひょっとして、今更、矢田部の真意に気づいたのか。


 ふと、思いついた事があって、ノートにメモを書きつける。

 隣の遊子にそれを手渡す洋介。書かれていたのは、

 『矢田部のあれってさ。何だと思う?』

 ただ、それだけの簡潔な文面。


 遊子は、少しの間、何やら考える様子を見せる。

 見れば、ノートに何やら書きつけている。

 差し出されたノートを見ると、

 『たぶんだけど。告白、かな』

 それだけが簡潔に綴られていた。


(やっぱり、気づいてたか)


 しかし、本当に彼女はどうするつもりなんだろうか。

 遊子が憎からず思ってくれている自信はある。

 でも、自由奔放で、奇行癖のある彼女のことだ。

 「面白そうだし、付き合ってみよう」

 と思う可能性も否定出来ない。


(あー、もやもやするな)


 二人の間に割って入ってこようとする輩は、滅多に居なかった。

 だから、片想いでも冷静でいられた。

 でも、告白の結果次第ではそうも言っていられなくなる。


(いっそのこと、俺も告白しちまうか?)


 今の居心地のいい関係が好きだ。

 でも、これからはそうは行かないかもしれない。

 だからこそ、こちらからも告白するのはどうだろうかと。


 そんなことを悩んでいる内に、午前の授業は瞬く間に過ぎて行った。


 お昼休み。

 矢田部に先導されて、とことこついていく遊子。

 その後を洋介は尾行することにした。

 (あー、もう。ほんと、カッコわりい)

 こんなストーカー紛いのことをするなんて。


 二人がたどりついた先は校舎裏。

 他の生徒から見えない死角にある場所だ。

 告白には絶好のロケーションだと言ってもいい。


「まずは、付き合ってくれてありがとう。山岸さん」

「別に……これくらいなんでもないよ」


 どこか緊張感を孕んだやりとり。


「それで、矢田部君の要件は?重要な話、みたいだけど」

 

 矢田部の出方を窺うように言葉を発する遊子。


「うん……いきなりこんな事を言われて迷惑かもしれないけど」


 小さい声で切り出す矢田部。

 真面目で、でも、自分に自信がない彼らしいなと思った。


「迷惑なんてことはないよ。言ってみて?」


 どこか覚悟を決めた様子で、はっきりと言う。


「山岸さん、僕はあなたの事が好きです。お付き合いしてください!」


 勇気を振り絞った矢田部の声が聞こえてくる。

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