不幸な幸運の女
「はあ…会社行きたくない」
マナはブツブツ言いながら駅のホームで電車を待っていた。
マナは新入社員なのだが、大したことのないことで怒られるブラック企業に勤めている。
まだたった半年しか勤めていないのに、マナの頭には十円ハゲができていた。
マナを悩ませているのは、主にマネージャーだった。
このマネージャーはマナの直属の上司だった。
進捗はどうだ、スケジュール管理はどうか、質問はないか、など聞いてくるが、何と返事をしても怒鳴られる。
進捗が遅れそうだからスケジュールを伸ばしてほしいと言っても怒られ、ではこの書類についての質問を…と言うと自分で考えろと突き放される。
じゃあと自分で考えたり調べたりしていると、時間の無駄なのにどうして質問しにこないのか、と矛盾したことで怒られる。
マナはストレスでどうにかなりそうだった。
マナは不意に、ホームへと足をのばす。
ここから降りたらもう会社へ行かずに済む、と思ったのだ。
だが、ハッとして慌てて足を引っ込める。
自分が死んでどうするんだ。
マナは泣きながら、駅のホームのベンチに腰掛けた。
ふと、マナは昔おばあちゃんから言われたことを思い出した。
「死んでしまいたいと思うくらいなら、相手に死んでしまえと願う方が楽よ」
微笑んでいたおばあちゃんの周りでは、おばあちゃんを敵視する人は気がついたら消えていて、おばあちゃんはおばあちゃんのことを大事にしてくれる人とだけ暮らしていた。
マナは、自分をいつも追い込んでくるマネージャーを思い出し、両手をぎゅっと握って、死んでしまえ、死んでしまえ、と願った。
何度も願ううち、ふと心が軽くなり、スマートフォンを取り出し、今日は遅れます、とだけ会社に連絡して出社した。
会社へ着くと、先輩の何人かが駆け寄ってきた。
「どうしたんですか?」
「マネージャーが、電車で事故にあって死んだって聞いて、あなたも事故に巻き込まれたんじゃないかって思ったけど、元気そうでよかった…」
会社内を見渡すと、いつも怒鳴り散らしているマネージャーがいない。本当に死んだようだ。
心のつっかえが取れたようで、ホッとしている自分にマナは気がついた。
その後しばらくして、別のマネージャーが他の部署から異動してきた。
そのマネージャーがマナの直属の上司になったのだが、このマネージャーも前の部署で嫌がられていた曲者らしい。
「マナちゃん、災難ね。前のマネージャーもだけど、今度の上司もあの評判の悪いマネージャーだなんて。何かあったら相談に乗るからね」
優しい女性の先輩が心配した顔で私を見ている。
「ありがとうございます。頑張ってみます」
でも、マナは前のように心配する必要はなかった。
だって、何かあれば、おばあちゃんの言葉を思い出せばいいだけだから。