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エターナルウインド〜永遠の風〜  作者: こまこゆきゆーき
6/8

吸血鬼の住む山5

居間は、二人の戦いでメチャクチャになっていた。

ソファやテーブルは粉々、二階へ続く階段も落ちて、もう二階へ登れない。

しかし、二階に少女と偽夫人が鍔迫り合いしている。

一度、離れた後、二人は二階の廊下から飛び降りた。

ドカンと音を立てて、偽夫人は降り立つ。

少女は一旦、着地した後、直ぐに壁を蹴って飛び上がり、偽夫人の上からステッキを振り下ろす。

偽夫人は、火かき棒でそれを受けとめ、少女の体ごと、払った。

火かき棒は、大分曲がっている。

少女は棚に打ち付けられた様に見えたが、回転し、足で棚を蹴って尚も偽婦人に打ちかかる。

今度は少女が偽夫人を壁に衝突させる。

大きな音を立てて衝突し、直ぐに向き直って偽夫人は少女に向かっていく。

偽夫人は鬼の形相で対抗しているが、段々息があがっているのが暗がりでも分かった。

少女の方は、それ程でもない。

少女のスピードに合わせるのは大変な様だ。

しかし、偽夫人はパワーで負けていない。

火かき棒ではなく、少女のステッキを手で受けると、そのまま少女を床に叩きつける。

何度も、何度も。

まるで雑巾の様に。

しかし、床は壊れず、手を離された後、直ぐに少女は飛び起き、間合いを取った。

よくそんな叩きつけられて、骨が折れたりしない。

佳苗は少女の服が破けたと思ったが、あまりダメージは見られない。

不思議な服だ。

長袖の肘が少し破けただけである。

でも、それだけで少女の正体を雄弁に語っていた。

破けた袖から見えた肌が、暖炉の灯りを受けてキラキラ光る。

鱗だった。


「竜の娘」


戦いは、まだ続いている。

スピードでは少女、パワーでは偽婦人の方が上である。

佳苗は一つ、不思議に思う。

あんなに暴れてて、なんで窓が割れないの?

床や壁にお互いを叩きつけているのに。

サモンに聞いてみると、直ぐ答えが出た。

「この家全体が、結界になっているようです。」

結界とは、壁みたいなもの。

ただ、ここは特殊で生きている人間しかドアを開けることが出来ない。

少女もサモンも、偽物夫婦もドアを開けられない。

恐らく結界を作っているのは、探している石のせいだという。

「ここで開けられるのは、あなたと佐伯氏だけです。」


戦い始めて二時間程経っている。

「どうする?加勢する?」

イタチは心配そうだ。

サモンは

「私達まで出ると、佳苗さんが危険です。」

二人は縦横無尽に飛び回り、打ち合う。

そのせいで、木の破片が飛んでくる。

サモンはそれを叩き落とす。

段々と偽夫人が劣勢になって来た。

少女のスピードに追いつかず、息が切れてきた。

「ふん!ヴァンパイアめ。血の効果がなくなってきたな。」

鍔迫り合いで少女が嗤う。

偽夫人は、

「煩い!」

と少女を跳ね飛ばした。

すると目の端に佳苗が映った。

佳苗がもっとよく戦いを見ようと、物陰から体を出してしまったのだ。

薄暗い中でも、ヴァンパイアの目はよく利く。

「血、血を寄越せ!」

ヴァンパイアは佳苗に向いて、走ってきた。


「しまった!」

サモンが走る。

しかし、偽夫人を遮ったのは。

佐伯氏だった。

いつの間にか、佐伯氏は手に燃えている薪を持ち、佳苗の前に立っている。

その目は、偽夫人に向けて、怒っている様だった。

「よくも、よくも依子に苦しい想いを……。」

向かってくる偽夫人に、燃えている方を突きつけた。

偽夫人は突進のスピードが抑えられず、そのまま火を当てられる。

「……かっ!」

偽夫人の服に火が燃え移った。

「何をする!」

偽夫人は、まだ持っていた火かき棒で佐伯氏の胸を刺した。

「ぐっ。」

佐伯氏は胸に刺さった火かき棒を離さない。

偽夫人は引っ張った。

押し問答した末、偽夫人が火かき棒を抜く。

そこで、隙が生まれた。

後ろから、少女がステッキを偽夫人に付き立てた。

「がっ!」

そこへ、

「ライト!」

「おう!」

イタチは、少女に駆け上り、頭の上で毛を逆立てた。

咄嗟に佳苗は耳を塞ぎ、目を瞑った。

ピッシャ!ガラガラ!!ドン!

大きな音がする。

間近に落ちたので、目を瞑っても、白く見えた。

目を開けると、目の前に、息も絶え絶えの佐伯氏。

そして少女の突出したステッキの先に、人型をした炭が。

炭には火が付いている。

瞬く間に燃え始める。

そして、辺りには火が燃え移っていた。

雷滝と先程、佐伯氏が持っていた薪から、燃え移ったのだろう。


少女はステッキを降って、偽夫人だった炭を落とす。

炭はバラバラになって崩れ落ちた。

そして、しゃがみ込んだ。息が荒い。

流石に疲れたか。

佳苗は佐伯氏に駆け寄った。

「依子……依子の…」

佐伯氏は息も絶え絶えである。

出血が酷かった。

サモンは、佐伯氏を抱え、物置に入り、棺桶の骸骨と一緒に、佐伯氏を入れた。

「………。」

佐伯氏はもう何も言わなかったが、その顔は微笑んでいた。

「先生!この家、燃えちゃうぞ!」

イタチがサモンに声を掛ける。

居間は既に火の海になっていた。


サモンは、今度は少女を抱える。

火傷すると思って、少女の周りを火消ししていた佳苗は、少女をサモンに託す。

少女は意識が無いようだ。

佳苗は玄関のドアに手をかけた。

勢いよく押すと、ドアは開いた。

佳苗と少女を抱えたサモン、イタチは外へ飛び出す。

そこは、まだ霧が濃かったが、地面の上だった。

「はぁ、やっと、出られた。」

佳苗は地面にへたり込み、ホッとした。

そして、意識を失った。


ーーーーーーーーーーーーーー


「……木さん!佐々木さん!」

佳苗は薄っすら目を開ける。

どこだろう、此処は。

目の前にはオレンジ色のつなぎを着て、ヘルメットを被った青年がいた。

佳苗はその青年の前に、仰向けに寝ていた。

下は冷たくないので、シートか担架だろうか。

辺りの霧は晴れていた。

「佐々木さん、分かりますか?山岳救助隊です。」

そして、フルネームと生年月日を問われた。

佳苗が答えると青年は、無線で

「こちら渡辺。捜索対象者を見つけました。応答をお願いします。」

直ぐ、無線から返事が来て、

「もう大丈夫。怪我はしていませんか?」

佳苗は自分の手を見る。

ウインドブレーカーが焦げて、穴が空いていた。

それに血がベットリくっついている。

でもこれは、佳苗の血ではない。

足元が何だか痛い。

火傷をしたようだ。

「何処かから、落ちましたか?」

青年は、何処かから落ちて、摩擦熱で破れたと思ったのか、痛い所は無いかと言う。

佳苗は

「山小屋に避難したら、山小屋が火事になって。」

「おかしいな。そういう報告は受けていないんだけど。」

佳苗は後ろを振り返る。

そこには家がなく、空が広がっていた。

(ああ。移動してしまったんだ。)

佳苗は静かに目を閉じる。

そして祈った。

(佐伯夫妻が、あの世に行けますように。)

佐伯氏の冒した罪は消えないけれど、せめてあの世まで、二人で一緒に旅立てますように。



佳苗は、そのまま病院に入院した。

実家暮らしなので、母が身の回りの物を持ってきてくれた。

ズボンのポケットには、あのファーが残っている。

これからも御守として、持っておこう。佳苗は思った。

脹脛の火傷が少し酷く、一週間程、入院になりそうだ。

次の日、会社の同僚(お姉様方)がお見舞いに来てくれる。

「佳苗ちゃん、どう?具合は。」

佳苗は苦笑いしながら、

「なんとか。すみません、ご迷惑をおかけして。」

聞けば、佳苗がトイレに行ったあと、霧が立ち込め始めて、バーベキューをお開きにしようとしたら、佳苗が居ないと騒ぎになった。

会社全員で探したが、霧が濃くて、他の者も危ないと一旦引き上げる。

一時間待っても帰ってこないので、社長が山岳救助隊に連絡したそうだ。

「山岳救助隊の人、カッコ良かったね!」

お姉様に言われて、佳苗は驚いた。

そんな事、全く考えていなかった。

でも言われれば、カッコ良かった……。

数名、救助隊員はいたが、その中でも皆に指示していた人が。

佳苗は顔が赤くなる。

「もし調書に来たりしたら、名前と連絡先、聞きなさい!」

(いや、もう、聞いてあるけど。)

青年は、渡辺剛史と言った。

明日、調書に来るはず。

しかし、あの家で見た事、起こった事は言っても信じてもらえないだろう。

あの家は、今でも、山の中を何処かに移動しているのだろうか。

佐伯夫妻の遺体を抱いたまま。



佳苗は、外を見た。

窓の外には青い空。

そこには二羽のアゲハチョウが飛んでいる。

ひらひらと、遊ぶように。

寄り添い合う夫婦のように。

やがて、二羽のアゲハチョウは何処かに飛んでいった………。



「吸血鬼の住む山」終わり


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