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エターナルウインド〜永遠の風〜  作者: こまこゆきゆーき
5/8

吸血鬼の住む山4

依子と呼ばれた女性は、淡々と今までの経緯をサモンと佳苗に語りだす。


夫人は60年ほど前に結核で亡くなった。

まだ結婚して間もなく、20代の若さだった。

夫人の死後、佐伯は夫人の遺体を火葬せず、埋葬もせずに、こっそりアトリエの山小屋に隠す。

そして、毎日、夫人の絵を描いた。

夫人は勿論、腐敗臭がしてきたが、それでも佐伯は埋葬したくなかった。

大量のドライアイスを購入し、夫人の遺体を冷やした。

幸い山小屋の周りに家はない。

腐敗臭にも気が付かれなかった。

すると、不思議な男女が訪ねてきた。

男女は佐伯夫妻の若い頃にそっくりだった。

男女は若い男女の血を依子の遺体に浸せば、依子は生き返ると言う。

依子は血の病気だから、綺麗な血に浸せば良いと言う。

そして残った血を自分達に分けてくれと言った。

佐伯は半信半疑だったが、試しに自分の血を依子の口元に付けると、頬に赤みが出た気がした。

そうして、佐伯は動物を殺しだす。

生きた鶏、兎、豚、牛……。

遺体に血を注いでみたが、何も起きない。

男女は笑いながら、人間でないと無駄だと言う。

そうこうしている内、依子の腐敗は進んでいった。

数年後、骨だけになったが、佐伯は諦めなかった。

男女は佐伯と一緒に住み始めた。


最終的に、佐伯は、遭難者や自殺志願者にたどり着く。

快く宿を貸すふりをして、夜、その者を殺した。

睡眠薬を飲ませ、首や腹に大きな傷を作り、流し台で血を流させる。

出血多量で遭難者は死ぬ。

数日してから、遺体は谷に落とした。

血液を遺体に注ぐと、依子の身体に肉が付く。

しかしそれは、男女が見せた幻覚だった。


その頃から、家の位置が不安定になる。

濃い霧が出た後、知らぬ間に移動しているのだ。

いずれも山の中だが、川の近くだったり、大きな岩の近くだったり。

佐伯はあまり気にしなかった。

依子さえ戻れば、どうでもいい。

佐伯は歳を取り、年々力が弱くなる。

そこで、男女が佐伯夫妻に成り代わった。

最初は慇懃だった態度も、横柄になっていく。

遭難者を誘うのも殺すのも、偽物が行う。血の管理は佐伯の役目だった。

男女が吸血鬼だと分かったのは、一緒に暮らし始めて、直ぐ。

しかし、それも佐伯にはどうでもいい事だった。

依子に会いたい。

ただ、それだけ。


『私は、その男女の吸血鬼に魂を囚われ、成仏出来ずに、ずっとここで佐伯を見守っていました。』

依子は涙を浮かべた。

『人が殺されるたび………私はもう戻れないのに……悲しくて………。』

佐伯は涙を流す。

『あなた……もう、終わりにしましょう。』

「依子、依子ぉ……。」

サモンと佳苗は声が出なかった。


そこへ、ひょっこりイタチが入ってくる。

「先生!石が見つからねぇ!」

(石?石って何だろう?)

サモンは佐伯氏に問いただす。

「吸血鬼が、何か石の様な物を持ってきたことがありませんでしたか?」

佐伯氏は分からないという風に首を振る。

石なんて、曖昧で分からない。

「どうしよう。アレがないと……。」

その時、居間の方でドカンバタンと音がした。

「エナ、大丈夫かな。」

「大丈夫でしょう。」

サモンは、心配はしていないようだ。

しかし、この物置にも出口はない。

外に出るには、居間を通って玄関を通るしかない。


佐伯は依子の霊と見つめ合っている。

その佐伯にサモンが声をかけた。

「すみません。その依代ヨリシロは、もう少しで消えてしまいます。最後に何かありますか?」

佐伯はハッとする。

『あなた、大丈夫よ。私は、ずっとあなたのそばにいます。見えなくても。』

依子は微笑んだ。

そして、ゆっくり透けて、消えていった。

佐伯の涙は止まらない。

しかし、心の闇は晴れていったようだった。



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