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エターナルウインド〜永遠の風〜  作者: こまこゆきゆーき
4/8

吸血鬼の住む山3

少女とイタチは扉を開けると、飛び出していった。

大男に促され、佳苗も部屋の外に出る。

しかし、佳苗は黒焦げの前で立ちすくんだ。

(何だろう。これ。人くらいの大きさ……。)

もしかして人じゃなかろうか。

外で扉を叩いていた人。

「見てはいけません。」

サモンと呼ばれた人が、佳苗の目を手で遮る。

「行きましょう。此処に居たら、貴方が危ない。」

サモンは佳苗を、急がせる。

しかし階段の途中で少女と佐伯夫人が対峙していた。


「アンタが、噂の女ね。」

佐伯夫人が少女を指して言う。

(少女に向かって、『女』なんて。)

隠れながら、佳苗は思う。

佐伯夫人の声は大きく、良く通った。

「お前こそ、どうも色々悪さしているみたいじゃないか。」

少女は夫人を見下ろして言う。

「そんな事、アンタには関係ないでしょう。」

「……残念ながら、関係無くはない。」

少女はブンとステッキを振る。

佐伯夫人は暖炉から、火かき棒を持って来ていた。

「自称、竜の娘如きが、不死者の王ドラキュラに勝てるかしら。」

夫人はニヤリと嗤う。

その口元は真っ赤に濡れていて、妖しく光っている。

(あ、あの絵の……。)

佳苗は思い出した。

少女と初めて出会った日に見ていた絵の事を。

確か、あの絵の作者は『佐伯航サエキワタル』。

夫人はあの絵のモデルだった。


「……何を、言い出すのやら。」

呆れたように少女は呟く。

佐伯夫人は、火かき棒で少女に襲いかかった。

少女はステッキで火かき棒を受け止める。

鋭い音がして、暖炉の火で薄明るい室内に火花が散ったようだった。

剣道の様に打ち合いながら少女は

「ドラキュラと言うのは、寓話の主人公だ。そんな事も知らんのか。」

二人は階段の中央から、吹き抜けの居間に移動する。

「いいか?」

少女は低い声で言う。

「お前の様な者をヴァンパイアと言う。ドラキュラ元になったのはルーマニア語で『竜の息子』を意味する言葉だ。」

そして、続ける。

「それに不死者と言う割に、さっき雷に打たれて、一人、焼け死んだみたいだぞ。」

「黙れ!」

佐伯夫人は、火かき棒で少女の頭を割ろうと打ち下ろす。

少女はそれをかわす。

また打ち合いが始まった。

佳苗は息を飲んで、見入ってしまう。

サモンは、佐伯夫人と少女の位置を確認し、

「さぁ、降りましょう。」

と佳苗の腕を取った。

しかし、佳苗は動けない。

どうも腰が抜けてしまったようだ。

サモンは、佳苗の膝の裏に手を入れ、ヒョイとお姫様抱っこをした。

「首に手を回して。」

サモンに言われるまま、佳苗は手を回す。

凄く恥ずかしかった。

俯いた佳苗にサモンは

「誰も見ていません。」

そう言うと微笑んだ。


サモンは

「裏口を探しましょう。」

そう言うと、階段を駆け下り、キッチンの方に走る。

佳苗は説明されただけで、何処に何があるか分からない。

プライベートスペースに入るのは、佳苗は少し罪悪感を持った。

サモンは、そこで立ち止まる。

佳苗は、息が止まるかと思った。

その目の前には、凄惨な光景が広がる。

流し台の上に、男が座っている。

目を開き、口がだらしなく開いている。手はダラリとしていた。

その目には生気が無く、力も無いようだ。

人形の様に、クッタリしている。

首には切れ込みがあり、そこから血が流れた跡がある。

周囲は血だらけで、キッチンのあちらこちらに血の染みが幾つもあった。

血は流しの中に溜まっていて、下には扉が無い。

流しの排水ホースが、瓶に刺さっていて、血を回収しているようだ。

周囲には、棚に納まりきらない、赤黒い液体の入った瓶が、ゴロゴロしている。

佳苗は意識を手放しそうになった。

「佳苗さん!」

サモン呼びかけに、ハッとする。

「これは……一体……。」

佳苗は、呟いた。

「……あの夫婦の正体は、吸血鬼なんです。」

「え?」

吸血鬼なんて。

今の時代に考えられない。

「あの夫婦は、目をつけた若い人間を山で迷わせ、此処におびき寄せます。そして、血を抜くのです。彼は、もう亡くなっています。」

サモンは方向を変えた。キッチン横の扉は、瓶が積まれていて開かない。

山と積まれているので、ノブすら見えなかった。

そして居間で戦っている二人の位置を確認し、物置の方へ走る。

夫人と少女は、彼方此方に移動して打ち合っている。

金属音が響く。

吸血鬼と言うのは、本当かもしれない。

ジャンプする距離が、人間離れしている。

対応している少女も凄い。


物置のドアを開けると、そこは真っ暗だった。

かび臭くはなく、溶剤の匂いが充満している。

佳苗は、酔いそうになる。

そこには、片手に蝋燭、片手にナタを持った老人が立っていた。

「……。」

白い髪は伸び放題でボサボサ、腰が曲がっている。

その目は爛々と光っており、不気味だった。

服装はボロボロで、色で汚れている。

赤や黄色、色とりどり。ペンキだろうか?

老人性は無言で、ナタで斬りかかってくる。

サモンは佳苗を抱えながら避けた。

老人の動きはボロボロの見た目に反して、機敏である。

振り向きざまに、ナタで払う。

蝋燭は勢いで消えてしまった。

サモンは奥に逃げた。

中央に大きなテーブルがあり、そこに黒い箱が置いてあるようだ。

暗くて良く見えない。

サモンは佳苗を降ろした。佳苗は、まだ力が入らず、テーブルに手をついた。

「すみません。ちょっとここで待ってて下さい。」

そして、老人に向き直る。

サモンは上に手を上げた。

すると、部屋の中にポッと青白い火の玉が浮かぶ。

次いで数秒後に、ポッ。

連続して10個位の青白い火の玉が。

佳苗は、震える。

(ひ、人魂!?)

「暗いままでは、応戦し難いですからね。鬼火です。燃え移る事はありません。」

老人はギラギラした目で、サモンを睨んでいる。

佳苗は周りを見回し、声をあげた。

「うわっ!」

そこはアトリエだった。

その壁には、人の目が沢山。

いや、全部肖像画だった。

同じ女性の肖像画。

あの絵と同じ女性の。

四方の壁にびっしり。

数カ所、開いているのは入り口と窓のようだ。

まるで、見つめられているようで、気持ち悪くなる。

女性の服は、赤いドレスが多い。

あの展覧会で見たドレス。


そうしている間に、ジリジリとサモンと老人は、間合いを詰めている。

サモンは何を武器にするんだろう?

手には紙切れを数枚、持っている。

サモンはテーブルを背にしていた。

老人が振りかぶって、打ち下ろす。

咄嗟にサモンが避け、ナタは黒い箱に深く刺さった。

「あああっ!」

老人は、初めて声をあげた。

老人は慌ててナタを引き抜いたが、箱には大きな穴が開いた。

箱の蓋もずれる。

「…しまった!痛くはないかい?!」

老人が誰かに声をかけている。

しかし誰にだか、佳苗はわからなかった。

老人は箱の蓋を開けた。

「おお、おお、すまない。すぐこいつ等を追い出すから……。少し待っていておくれ。」

その間、サモンは何かを唱え、十字に右手を切っている。

「……在、前っ」

右手を勢いよく前に突き出すと、いきなり強い風が吹き、老人が吹っ飛んだ。

佳苗はしゃがみ込み、頭を抱え、身を守った。

風は黒い箱の蓋をも吹き飛ばし、周りの肖像画がガタガタ音を立てる。

黒い箱の蓋は、佳苗の側に落ち、バラバラになる。

その蓋は、棺桶の蓋だった。


「なるほど。そういう事ですか。」

棺桶の中を見たサモンは、一人で納得している。

老人は、頭を振った。

「……み、み、……見るなぁぁ!」

老人が声をあげるが、ナタは何処かにいってしまった。

立ち上がろうとする。でも飛ばされた衝撃で立ち上がれない。

佳苗は立ち上がり、怖いもの見たさで棺桶の中を覗き込む。

そこには、赤黒いこびりつきのある骸骨が横になっている。

その骸骨は赤いドレスを纏っていた。

「……え?」

佳苗は、このドレスに見覚えがあった。

「あの絵画のドレス……。」

「そうです。こちらが、佐伯画伯の夫人です。」

「え?じゃあ、あの夫妻は?」

「吸血鬼が、変身した偽物です。」

「……どうして?」

サモンは老人を見る。

そして、手の人型の紙を一枚、放り、何事か呟く。

するとその人型は、見る間に大きな人の形になる。しかしその姿は透けていた。

それは女性だった。

髪が長く、少しやつれた、肖像画と同じ女性。

女性は悲しそうな顔をしている。

『あなた……。』

老人は、目を開く。

「依子!」

老人は這いずりながら、女性に近づく。

「何度、君の姿を見たいと思った事か!」

『あなた……。』

「君が結核で亡くなった後、僕は……。」

老人、いや佐伯画伯は泣いていた。



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