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9話 はじめての殺戮

 ダンプの二人は再び肉屋へ到着する。

 

 「社長、上手くいったっすね。自分いい加減ラーメンに飽き飽きしてたっす。」

 「あぁ、俺もだ。今日は肉を大量に買い込んでバーベキューするかぁ!」

 

 雄二は長いバールを手に、社長は竹槍と50cm程の長さの異径鉄筋を、バーナーで真っ赤になるまで焙り、石頭ハンマーで叩いて尖らせ、廃油に漬けて冷やし、再びバーナーで真っ赤になるまで焙り、叩いて鍛え、それを何度も繰り返し、焼きを入れて強度を増した刺突武器をベルトに差し込み肉屋に入口に立つ。

 

 「こんにちわ?!ほらッ雄二も挨拶しろ。」

 「誰もいないっしょ?社長。」

 「馬鹿野郎!挨拶は基本だとオマエが新入社員の時に教えただろう!

 それと目的は三つあるんだ。

 一つは、ゾンビがいた場合狭い店内で闘うより、いつでも逃げれる入り口付近で闘った方が良いだろぅ?隠れてるゾンビや奥にいるゾンビをおびき寄せる為の挨拶だ。

 二つ目は、雄二、オマエの根城に知らない奴が来て断りなく物を持って行こうとしたら、雄二はどんな気持ちになるんだ?」

 「そりゃぁ、ムカついてこの野郎!ってなるっすね。」

 「この肉屋に生きてる奴が居ないって誰が言ったんだ?居るかもしれないだろ?

 だから最初に挨拶して誰かいたら、渾身の笑顔で、"お肉くーださい!"って言わないと、無用のトラブルを作っちまうだろぅ?

 だから挨拶はキチンとするんだ、判ったか?」

 「社長、三つ目は?」

 「・・・・・・・・大きな声で挨拶すると気持ちいいからだ。ほれ、行くぞ!」


 昔読んだ何かの本で、人に説明するときは理由を三つ挙げると理解が早いという文面を見て、試しに雄二への説明に使ってみたが、三つ目を考える事を忘れていたことと、雄二は教えても二日後にはすっかり忘れてしまうから、無駄な努力かもなと、一人で頭をポリポリ掻く社長だった。

 

 肉屋独特の匂いに混じって死臭漂う店内に、二人は進入する。

 店内は誰も居らずバックヤードを二人で確認するが無人だった。ショーケースの肉に二人は目もくれず、業務用の冷凍庫を開ける。

 

 「社長、スゲーっす。大当たりっす。ジャックポットっす。」

 

 パニック直前に納品されたのか冷凍庫にはほぼ満載肉が入っていた。

 

 「冷蔵庫ごと持って帰るぞ。」

 

 中身が満載された冷凍庫は二人で持っていけるはずもなく、中身を一度出して冷凍庫を外に運びダンプに乗せ、また中身を詰め直す作業を2時間かけ、やっとの思いで回収した。

 

 「社長、ユニックで来たかったっすね。」

 

 「おう、判ってる。ダンプをゲートにするべきだったなぁ。ダンプの突破力が囲まれた時に有効だと思ってこっちをお買い物車にしたのは間違いだったかなぁ。

 まっ、何か手を考えるぜ。あとはホームセンターに寄ってバーベキューグリルを買って酒屋で酒買って帰るぞ。おっと、手形置いてかないとな。雄二頼んだぞ。」

 「うっす、おりゃ!」

 

 入り口のガラスに雄二の大きな手形が残る。

 

 「社長、こんなんでいいっすか?」

 「あー、上等上等。予想通りの行動をありがとう。行くぞ。次のホームセンターはひょっとするとバカが居るかも知れないから注意しろよ雄二。まぁ、オマエよりかは賢いと思うがな、安全運転でよろしく頼む。」

 

 二人が乗ったダンプはスルスルとホームセンターの駐車場に入る。

 朝一のパレードが功を奏したのか、道中は一体もゾンビを見かけなかった。

 ホームセンターの店内入り口はコンパネ等で作られたバリケードがあった。

 ダンプをそろそろとバリケード近くに止め、そのバリケードの前で二人並んでを中を伺う。


 「あちゃー、やっぱりいやがった。雄二、まずはどうするんだっけ?」

 「挨拶っす!そして、くーださい!っす」

 「よく出来たお利口さんじゃねーか。笑顔が抜けてた、雄二、笑ってみろ」

 

 雄二はギラギラした笑ってない眼で、両方の口角だけ上がった出来の悪いロボのような笑顔を見せる。

 

 「おぉ!ターミネータみたいでカワイイな。よしオマエが最初に挨拶してみろ!」

 「こんにちわ?!

 こんにちわ!!

 こんにちわ!!!

 こんにちわ~、社長誰もいないっすよ。」

 「まぁ、待ってろ。」

 

 バリケードの向こうで何やら人が動く気配がする。

 

 「誰だッ?」

 

 バリケードの隙間から手製の槍を持ち、警戒の表情でこちらを伺う男。

 

 「雄二っす。バーベキューグリルくーださい!」

 「何故オマエにやらんといかん!帰れ!」

 「何故って、今日の晩御飯はバーベキューっすからぁ。」

 「おい雄二、笑顔を忘れてるぞ。」


 ニンッという音が聞こえるかのような渾身の笑顔を見せる雄二。

 

 「ひぃぃぃ。」


 雄二の大きな身体とギクシャクした笑顔に相手はビビる。


 「社長、ダメっす。」

 「お世話になります。コイツの上司のワタナベです。いやー立派なバリケードですね?!これ作るの大変だったでしょう?すごい苦労されたと思います。」

 「社長、ワタナベって誰っすか?」

 「お前黙ってろ。」

 

 小声でやり取りする。

 

 「あぁ大変だった。」


 中の男の声色には疲労の表情が出ていた。


 「ゾンビがいるなかで良く出来ましたねぇ。やっぱり何人か犠牲になられましたぁ?」

 「俺の嫁と弟と他にも数人やられた。」

 「あぁ、それはそれは、お悔やみ申し上げます。

 ところで今日お伺いしたのは、この雄二が言う様にバーベキューグリルが欲しくて伺ったのですが、まさか生存者の方々が居るとは思わず、大変失礼いたしました。

 また後日改めて伺った方がいいでしょうか?ただ、その場合、また来れるという確実なお約束が出来かねるのですが・・・」

 

 ん?反応なしか。こっちが肉を持ってるって気づかないのか?ならば・・・。

 

 「何もバーベキューグリルをタダで頂きたいという訳ではありません。こちらには冷凍されてますがいくらか肉がありまして、それと物物交換にしませんか?」

 「あぁ、それならいい、こっちも食料に困ってた所だ。」

 「雄二、一塊もってこい。」

 「了解っす。」

 「小さいやつだぞ。」

 小声で囁く。

 

 「ところで中には何人くらいいらっしゃるんですか?やはり人数分行き渡る様にお渡ししたいんで。」

 「15人だ。」

 「社長、持ってきたっす。」


 雄二の手には素手で握られた拳大の肉があった。せめてビニール袋に入れて持って来いよ。

 

 「馬鹿野郎、こちらさまは15人もいらっしゃるんだぞ!もっと持ってこい。それから食い物を粗末にする奴は俺が許さん!オマエは帰ってオシオキだ。」

 

 おぃおぃ喜ぶな。

 

 「すみませんねぇ、教育がなってませんで、あいつは、体は大人!頭脳は子供!の迷探偵、雄二!でして。」

 

 肉を見せた時、明らかに飢えている反応が見えた。

 イヒヒ、飢えちゃってるのに我慢しちゃって、急にこんな世界になって、目の前にエサがぶら下がってたら誰でもそう反応するよねぇ。

 

 「おい!肉は全部置いていけ!命だけは助けてやる!」

 「そんな殺生なぁ。物物交換する約束はどこへいったんでしょうか?」

 「知るか!この世は弱肉強食の時代になったんだ。こっちは15人、そっちは2人。大人しく従った方がいいと思うぞ。」

 「はっはっはー!テメー、さっきから下手にでてたら調子に乗りやがって!ぶっ殺すぞ!そっちが数に物を言わせるのなら、こっちも考えがある。覚えとけよ!雄二行くぞ。」

 「社長、どこに行くっすか?」

 「学校だ。援軍を呼ぶ。安全運転でよろしく頼む。」

 

 学校に着くと校門を解放。また音楽とホーンを鳴らしパレードを再開しホームセンターまでゾンビを誘導する。

 

 「もう少しでホームセンターだな。あのバリケードをダンプで突撃してぶっ壊してやれ!」

 「マジっすか?」

 「あぁ、こっちは丁寧に対応してるのにそれどころか約束を反故にしてこっちの物を全部寄越せとかふざけたことぬかす奴は近い未来強奪者にジョブチェンジするハズだ。

 他の善良な皆さんにご迷惑をかける前に俺がブチ殺す。美人がいればべつだがな。行けッ雄二!やれッ雄二!ごーごー雄二!」

 

 派手な破壊音とともにバリケードを突き破るダンプ。

 一旦バックし、他の入り口のバリケードも突き破る。

 その間に最初に突き破られた入り口からゾンビが店内に雪崩れ込む。

 店内からは男女の悲鳴が聞こえ始める。

 

 「俺もオニじゃねーからよ、ちゃんと逃げやすい様にもう一箇所バリケードを壊してやったのに誰も出てこないな。まぁ強奪者予備軍の皆さまにはいい末路かもしれん。」

 

 悲鳴が聞こえなくなって1時間程待って朝と同じ様にパレードをしてゾンビを学校に閉じ込めた後、再度ホームセンターには二人の姿があった。

 

 「雄二、忘れてるぞ。」

 「うっす。こんにちわ?!

 こんにちわ!!

 こんにちわ!!!社長、誰もいないっすよ」

 「それさっきもやった。次は?」

 「バーベキューグリルくーださい!」

 「いいねぇ。ちゃんと覚えてたな。ヨシ!ショッピングだ」

 

 辺りには血痕や肉片が散らばっているが二人は目もくれずアウトドアコーナーへ。

 

 「こんなにいっぱいあるじゃねえーか、ケチって自分の命を失うなんて大馬鹿野郎だな。」

 「自分と比べてどうっすか?」

 「あぁ、雄二のほうが賢いかもしれん。それよりグリルダンプに積んどけ、あと着替えもいくつか適当に積んどけ。俺は他に必要な物を探してくる。」

 

 雄二は言われた通りグリルを積み、衣類をハンガーごと片っ端から積み始めた。

 

 「おぉーい雄二!ちょっとこっち来い!」

 

 雄二が駆けつけると社長は満面の笑みで展示された浴槽を指差す。

 

 「フロ入っぞ!フロ!露天風呂だ!これも積んどけ。我が城はシャワーしかないからな。あとは気付いた時に回収に来るか。酒買って帰るぞ!」

 

 うきうきした足取りでダンプに乗り込む社長だった。

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