8話 はじめてのショッピング
防御のための作業もひと段落し、社長は朝飯を食った後にふと気になった。
「おい、ゲロ子!食料はあと何日分保つんだ?」
「マジうぜぇー、ゲロ子じゃねーっつの。あと大体3日分くらいじゃない?」
「そろそろ街へショッピングに行くか!ゲロ子は何が欲しい?今ならおじさん何でも買ってあげれるぜッ。」
「ちゃんと金払うんだろーな、買うっつってるから。」
「なっなっ何を馬鹿げた事を、そこらの略奪者と一緒にされては困るねぇ?。キチント手形で払うに決まってるジャン。」
「オヤジがジャンとかキショっ!」
「ゲロ子、どうやら更に業務命令をされたいらしいな!」
「だから入社した覚えはねーっつの。」
「そーか、要るものはないんだな?」
「くっ、下着と生理用品だよ。」
「俺の趣味で選んでいいか?」
「あれば何でもいいよっ!」
「オマエ恥じらいって言葉知ってるか?」
「うっせーボケ社長。」
「悪い事を言うのはこの口かぁ!それともこのチチ・・・・」
またぐーで殴られた。
全く、これが若い奴が言うツンデレか?
おじさん世代には意味が分からんぞ。
「雄二、出掛けるぞ!」
「えっ?自分っすか?」
「当たり前だ!ダンプ出すぞ。」
この日の為にダンプも魔改造を施してある。ゾンビどもを跳ね飛ばせるようグリルの前は除雪車のように三角錐状の鉄板をシャシーに直接溶接してある。
また轢いた時に車体の下に潜り込まれないように全てのタイヤに鉄板のスカートを装備させてる。ハンドルを切っても干渉しない様にした前輪部分への取り付けが特に難しかったが準備は万全だ。パンクしたらどうするって?しないように神に祈ろう。
「雄二、優先順位は何が一番だ?」
「食い物っすかね?」
「その次は?」
「酒っすか?」
「オマエぇぇぇ!なかなか分かってるな!あとタバコだな。それとゲロ子が下着と生理用品って言ってたぞ。
オイオイ赤くなるなこの変態童貞マゾチキンが!
どんどんオマエの称号が増えてる気がするが、それは名誉なのか?
はぁはぁするな!気色悪い!」
カズミがユニックゲートを開け、二人が乗ったダンプが出発する。
「社長どこ行くんすか?」
「こういう事態の時には無理は禁物だ。まずは近場から攻めて行くぞ。近くに肉屋があっただろう?そこで最初のショッピングだ。自衛隊が頑張ってるのか分からんが、まだ電気が活きている。いつ止まるか分からんから、電気が止まった時の為に足が速い食い物から大量に確保して行くぞ。」
「足が速いって何すか?」
「オマエの頭の中身と同じで腐りやすいって意味だ。」
「あぁ!なるほど。了解っす!」
数体のゾンビを跳ね飛ばしながら前進し、もう少しで肉屋に到着だ。
「止まるな、一旦通り過ぎろ、通り過ぎる時にホーンを鳴らせ!」
「そんな事したらゾンビが出てくるじゃないっすか。」
「それが目的なんだよ。店内にウジャウジャいたらオマエみたいにボケっとした奴なんか、あっという間にミンチにされるぞ。肉屋だけに。」
「社長たまに寒いっすよね。」
「う、うるせー、言われた通りやれ。」
ホーンを鳴らしながら通過すると肉屋どころか周囲の店舗、住宅全てからゾンビがノロノロと出てきた。
「社長、かなり居ますよ。20体以上はいるんじゃないっすか?」
「ちょっと予想外だが、この車なら大丈夫だ。ひっくり返る事もないだろう。ただどうするかなぁ。」
「ぶっ潰します?」
「そんな事やってみろ、血と脂でスリップして動けなくなるぞ!それにダンプが故障したら俺は修理出来ん。」
「じゃぁどうします?」
「この近所に学校はあるか?それに賭けるしかないか、アイツラがついて来れるように人が歩くよりも少しだけ速いスピードを保ちながら近所の学校へ向かえ、ホーンを鳴らしながらパレードするぞ!」
「えぇ?!これ以上集めてどうするんすか?」
「まぁ、後で判るから黙ってやれ、窓も全開で音楽も最大ボリュームだ!楽しむ時は、腹一杯楽しめ!それがわが社のモットーだ!レッツパレード!」
音楽をかけホーンを鳴らしながらゆっくり走る魔改造ダンプ。その後ろをぞろぞろゾンビがついて行く。遠目から見ると本当にパレードしている様にしか見えない。
雄二が音楽に合わせてホーンをパパーンっと鳴らすのが少しイラっとするが、まぁ楽しんでいるから、注意はしない。
「そろそろ学校だな。おっ!ラッキー、誰も立て籠もって無いようだな。校門もフルオープンだ!よし、そのまま中に入って校庭の端っこまで移動だ。後ろの皆んなが、ちゃんと学校に入れる様にゆっくり行けよ。」
「社長、チラッとサイドミラーで後ろを見てみたんすけど、100体以上いるんじゃ無いっすか?」
「今、多けりゃ多いほど後からラクになるから俺を信じろって。信じる者は救われるって言うだろ?」
パパーンとホーンを鳴らし、音楽最大ボリュームのダンプを先頭に、騒がしい一行が校庭に侵入。ダンプの周りをアー、ウー唸る集団が渦を巻くように取り囲む。
「そろそろ頃合いだな、脱出するぞ!ここが一番の正念場だ!跳ねても轢いても良いから最速で校門を通過しろ。その後、校門を閉めてアイツラを閉じ込めるぞ!」
「マジ社長頭良いすね!」
「ばーろー、ドカタを舐めんじゃねーぞ!よし行くぞ、絶対事故るなよ!これは芸人のお約束でも無いからな、絶対事故るなよ、判ったな絶対だぞ絶対!」
「判ってますって。」
クラッチを踏み込み、プシっとクラッチがエンジンの動力をドライブシャフトから隔離させた音がする。そしてマフラーからけたたましい排気音を喧しく上げながらエンジンの回転数が上がる。
次の瞬間、リヤタイヤを若干ホイルスピンさせながら急発進。
ゾンビを跳ね飛ばし、踏み越えダンプは疾走する。
リヤを左右に振り振りしつつも巧みなハンドル捌きで何とか校門を通過、その瞬間フルブレーキ。
排気ブレーキも併用したフルブレーキは強烈で、助手席のシートベルトをしていない社長をフロントガラスに叩きつけるほどの勢いだ。
「イテテ、校門を閉めるぞ!」
二人はダンプから飛び出し、重い校門をガラガラと閉める事に成功する。
「はっはっはー!意外に楽勝だったな。この学校に誰も立てこもってなくて助かったぜ、さぁ後は寝坊して遅刻してるゾンビに気をつけながらショッピング再開だ、行くぞ雄二!」
社長は自分が思った通りになったことに上機嫌で、ダンプに乗り込むのだった。